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映画『マダム・ベー ある脱北ブローカーの告白』を観る 山下知津子

2017年08月12日 00時18分 JST | 更新 2017年08月12日 00時28分 JST

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生まれた国を逃れるということが、いかに重く激しい苦難を伴い、それゆえ不屈の気力とエネルギーを必要とするものであるか。脱北女性B(べ ー)の凄絶な人生の軌跡を追い記録したこの韓国・フランス合作のドキュメンタリー映画を観て、そのことがまず胸の底にずしりと響いた。観終わった後しばらくは声も出せなかった。

家族を養うため脱北ブローカーとなる

息子ふたりと夫を残して1年間だけの出稼ぎのつもりで中国に出たBは、騙されて貧しい農村の嫁として売られてしまう。しかしそこでの生活をBは受け入れ、ふたつの家族を養うため脱北ブローカーとなる。

バイクを駆って移動し、電話でタクシー運転手としたたかに値引き交渉をするなど、Bは極めて逞しくパワフルに活動する。北に残してきた3人を韓国に送るも、そこでの彼らの生活が順調でないことを知ると、中国の家族にまた戻って来ると約束し自らも韓国を目指す。

中国東北部から昆明へ。そしてラオス、タイを経て韓国へ。この息詰まる過酷な道程をカメラが追う。

家族のつつましい幸せを願いつつ命からがら辿り着いた韓国で、しかしBは当局から調べられた結果スパイ容疑をかけられ、「非保護」という立場に置かれてしまう。

いま世界中には多数の難民が存在するが、生まれた国を逃れ難民となるということだけでも辛苦に満ちた試練の日々である。しかしさらにBには、分断国家となった朝鮮半島ならではの比類なく厳しくやりきれない現実が、のしかかってくるのである。

貧しいながら純朴で善良な中国人の夫とその年老いた両親。一方韓国での暮らしに行き悩む北朝鮮での家族。ふたつの家族の間で引き裂かれたうえに、スパイ容疑までかけられた己に呻吟するBの姿を、カメラは冷徹かつ懐深い観点で捉える。韓国当局から北朝鮮保衞部の回し者ではないかと疑われている北朝鮮の夫や息子たちの証言も、痛切であり限りなく重い。

きれいごとでは立ち行かない部分も引き受け、家族のため、自分自身のため、力強く生き抜こうとする B の、赤裸々な人間としての存在感の重さ、凄さに圧倒される。

日本で立派に生きている姿は非常に尊い

ところで、私はこの映画を脱北者であるKさん、Sさんのふたりと一緒に観たのである。国を捨てるということの大変さを解っていたつもりの私だが、その壮絶な実態を映像で見てあらためてうちのめされ、ふたりが現在日本で実に立派に生きている姿を非常に尊く思った。特にKさんは、タイまでマダム・ベーたちの辿ったルートとほぼ同じ所を通ったという。映画で見たような危険をはらむ苛烈な旅路をKさんも必死に命懸けで進み、今こうしてここにいるのかと思うと、私は涙が止まらなかった。

今、北朝鮮というと核やミサイルの問題ばかりがクローズアップされているが、激烈な困窮と抑圧の中に在る北朝鮮の人々や、そこから脱出して自分の新しい人生を切り開こうとする人々に対して、もっともっと関心が向けられなければならないと思う。

この映画はこれから順次横浜、仙台、大阪などでも公開される予定という。ぜひ多くの人にこの映画を観てもらいたい。

(文/北朝鮮難民救援基金理事 山下知津子/北朝鮮難民救援基金 NEWS July 2017 № 105 より転載)

映画『マダム・ベー ある脱北ブローカーの告白』公式サイト

http://www.mrsb-movie.com/

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