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シリーズ 脱北者の脱南物語② 「ワーキングホリデーを活用した合法移住-オーストラリアの事例」 玄麦

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第二回「ワーキングホリデーを活用した合法移住-オーストラリアの事例」


+難民申請の壁という現実

シリーズ「脱北者の脱南物語」第二回目は「ワーキングホリデーを活用した合法移住-オーストラリアの事例」について紹介したい。

前回は、脱北者たちがなぜ韓国から欧米諸国へと再移住を試みるのか、そして韓国政府と国際社会の取り組みにみられる課題についても触れた。

要するに、
①電子パスポートの導入によって、韓国経由の脱北者が「難民」という枠組みを活用して第三国に合法移住する道がほとんど閉ざされていること、加えて、
②そのような現状を知らない当事者たちの繰り返される難民申請と棄却の事案が増加したり、または、
③それにも関わらず、不法滞在などの非合法移住を辞さない形で海外移住したりするケースが増えていることの問題を取り上げた。


+脱北者が海外で暮らす方法

難民申請の枠組みを活用した第三国移住の可能性が制約されている現状を踏まえ、脱北者たちのための制度改善策には以下のものが考えられる。

韓国での定住と定着のために必要な社会保障制度を今まで以上に強化する。

韓国入国前に定住希望先を丁寧に確認する。

韓国入国後でも一定期間内であれば第三国への再移住を認める。

一般韓国人と同様な枠組みで海外移住(留学、就労、移民など)の制度活用を奨励する。

これはあくまでも理念型であり、現実面で一つ一つには課題が山積している。

①の場合、他の韓国人ならびに在韓外国人への処遇をめぐる公平性の問題が指摘される。既に脱北者への支援は韓国の貧困層または在韓外国人、在外コリアンへの支援と比べ、手厚い支援制度が導入されているという指摘である。

②の場合、希望する定住先と受け入れ先のマッチングがスムーズにいかないことが多く、中国や東南アジアでの滞在が相当期間に長引いてしまうだろうという懸念がある。

③は、②の部分を補完する意味合いとして、韓国を一時的な定住先(難民キャンプのホールディング・センター的な機能)として選ばせるという効果があるが、韓国政府は「統一政策」の一環として脱北者を「国民」として受け入れているために、この制度は「棄民政策」ではないかという批判にさらされるだろう。

ならば残された方法は、

④の一般の韓国人の海外移住と同じ制度を活用しつつ、海外移住を試みる方法になる。しかし、現状として、脱北者に、海外移住をするための経済力、専門技術、知識・経験があるのかという現実的な課題が残されるため、この方法を活用する際には、一定のポジティブ・アクションの導入も視野に入れる必要がある。

私は、何がベストの方法であるかという議論よりは、できることは柔軟に試みるべきであると考えている。その上で④のアプローチは、市民社会や民間レベルとしても関わることが比較的容易な方法であると想定している。 


+NKTSA(North Korean Transmigration Supporting Association、「在豪北韓移住民後援会」)の事例

オーストラリア最大の都市シドニー(人口500万人程度)には、15万人前後の韓国系の移住者が暮らしている。オーストラリアに暮らす韓国系移住者もアメリカやカナダの韓国系移住者と同様、プロテスタント教会を心の拠り所として移民コミュニティを形成する傾向がある。現地で発刊される韓国語の情報誌には300以上の教会の連絡先が登録されていて、韓国系の仏教寺院やカトリック教会の数とは比べにもならない。

そのような状況の中、NKTSAは2012年、シドニー在住のクリスチャンたちの呼びかけによって設立された。組織の主な活動は、在韓脱北者の青年(主に大学生)を対象としつつ、英語留学や海外生活体験の機会を提供することである。

この制度を通じて海外生活を体験することによって、不法移住を防止し、また海外生活の漠然とした理想を乗り越えることが期待されている。また、海外コリアンコミュニティによる南北の和解や融和のための試みが期待されている。実際、若者たちに人気のワーキングホリデーという制度がビザ問題の制約をクリアしているのだ。

いずれ、北米や欧州、日本のコリア系住民や市民社会に波及すれば、市民レベルで取り組めるムーブメントになり得るという期待もある。

NKTSAの活動はビザ取得の諸費用、英語学校への登録費用、住居やバイトの斡旋、往復航空券などを奨学金として与えることから始まったが、より多くの人びとに機会を与えるために奨学金の貸与に切り替えられた。

ワーキングホリデー制度であるので就労が可能であり、オーストラリアの経済事情から、十分自立して生活できるだろうという判断があり、NKTSA側と奨学金受給者たちとの話し合いで決まったという。 

2012年から始まったこの取り組みは、2015年の時点で、すでに7名の奨学生がオーストラリアでワーキングホリデーのビザを取得し入国している。最大2年までの滞在が可能なワーキングホリデー制度だが、数名の奨学生は滞在を終えて韓国に戻ったり、オーストラリアで大学院に進学するための準備に取り組んだりもしている。

さらに、現地のシドニー工科大学(University of Technology, Sydney)は2014年から毎年2名の学生の英語学校の学費を免除する制度をNKTSAと提携し新設した。NKTSAは2015年に入り、就労ビザ(一般的にオーストラリアでは「457ビザ」と言われる。)を取得できる候補者を探し、永住を視野に入れた合法移住の成功事例を模索しているという。

このように小規模の財源投資と市民社会の情熱によって、政府機関の公的資金を活用せずにも脱北者たちへの中長期支援が教育事業を通じて実現されていることは注目に値する。

北米、欧州、そして日本のコリア系コミュニティ、そして市民社会もこのようなムーブメントに取り組めば、より多くの脱北者の若者たちの合法移住の門戸が開かれるであろう。

(文/玄麦/北朝鮮難民救援基金NEWS Jul 2015 № 095より加筆・修正し転載)

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