Huffpost Japan
ブログ

ハフポストの言論空間を作るブロガーより、新しい視点とリアルタイムの分析をお届けします

北朝鮮難民救援基金 Headshot

元脱北者による報告 麻薬・覚醒剤の都市 咸興 カン・スンヒ

投稿日: 更新:
印刷

この原稿は3年前に日本に定住した脱北者が書いたものであり、ほぼ原文を忠実に再現しています。ただ、麻薬と覚醒剤の違いについての誤解による単語の誤用があり、編集部が一部訂正・削除しました。また、<アイス>製法に関しては、筆者の伝聞による記述であることを前もってお断りしておきます。(編集部)

ソ連圏崩壊後、麻薬の密輸出で体制維持を

日本の隣にある未知の国、北朝鮮には麻薬の都市がある。この都市は1990年代まで化学の都市と呼ばれた咸鏡南道(ハムギョムナムド)咸興(ハムン)市のことである。北朝鮮第2の都市で人口約90万人。とくに興南地区には、北朝鮮特有の繊維「ビナロン」※1を作る化学繊維工、製薬工場、プラスチック工場などが集まっていて、都市住民の大多数がこの化学工場に勤めていた。

やがてソ連が崩壊し、設備や原料を貰えなくなって、工場を止めなければいけなくなった。1994 年金日成の死後北朝鮮は経済的にもっと苦しくなって、国の体制維持のため、この都市の化学工場で麻薬を作り始めた。

麻薬生産はライン作業で、作る人たちも分からないように厳戒下で行われた。しかし労働者たちはだんだん生産品に興味をもち、麻薬を密かに工場の外に持ち出し始めた。麻薬は都市の人達にはもちろん、北朝鮮全国に急速に広まった。

北朝鮮政府は国家安全保衛部の中に党資金部署を作り、世界各国に麻薬を密輸出した。覚醒剤や、アヘン、ヘロインなどの麻薬を国内で生産してイラン、アメリカ、日本、中国などに船、飛行機、いろいろな経路で売った。
密輸する途中で外国の警察に捕まった場合、罪は派遣された保衛部の人に負わされて、その人だけが処罰された。

明日の食べ物の為に覚醒剤を家で作り始めた

2000 年代に入ってから北朝鮮国内で麻薬、覚醒剤は蔓延する一方であり、需要を満たすために麻薬工場の技術者たちは家で覚醒剤を作り始めた。

原料の成分が主にアンフェタミンである覚醒剤は、北朝鮮では<アイス>と呼ばれている。原料は中国から150$/Kg で密輸入し、粉末の原料を二週間かけて液体にした。このとき出るガスや臭いはかなり強かったので、周りの人達にばれるのを恐れ、田舎の小屋などで作る人が多かった。液体のものはさらに数十時間かけて煮た。まともな設備がないために電気コンロや石油コンロに液体が入った鍋をのせて煮るしかなかった。この後、液体の上の薄い色の層は捨てて沈んでいる濃い色の液体に化学物質を添加し、また数十時間煮た。このプロセスを何回も繰り返し、一か月近く掛かって白くて透明な結晶の<アイス>が作られた。

しかし、液体を煮る間に数分間目をそらして、液体が鍋から煮こぼれたり、タバコの火を近づけたり、添加物の比率を間違ったりすると爆発してしまう。近くの人はもちろん、家の中の人全員が火傷をして死亡する場合が多かった。また作るときに出る煙や廃棄物は有害物なので、その家の家族と周りに住んでいる人達の健康を損なった。このように命がけで作った<アイス>は透明度、味などによって分類され「A 級」2$/g、「B 級」1.5$/g、「C 級」1$/g で売られた。

北朝鮮は金日成の死後1995年から工場や会社が完全に止まり、出勤しても仕事がなくて国民に給料を払えなくなった。医者や教師は仕事をしても月給を米 2Kg 程度しか貰えなかったので、国民の 8 割が市場経済に依存していた。市場で商売している人が多いため商人一人の純利は米 1Kg も買えない位少なかった。今日は売上があっても、明日の食べ物を心配しなければならないのが現実であった。ゆえに麻薬の都市では<アイス>生産者や闇ブローカーはかなり儲かったので、リスクが高いにもかかわらず、人口の半分位が「アイスビジネス」に従事していたようだ。

未来への絶望がアイスを蔓延させる

北朝鮮国内では<アイス>を使う人がだんだん増えて、運転する人や夜勤の人は当たり前に使っている。さらに労働党の幹部や警察、軍隊の中でも蔓延したので、北朝鮮政府は 2005 年から数回にかけて「アイス使用者を厳重に処罰する」布告令を下した。しかし、<アイス>の使用者はだんだん増え、この都市では友達同士が集まって<アイス>を吸う事が日本の飲み会文化のようになっている。

白い結晶を溶かして出る煙はガラスパイプを使って鼻で吸う。<アイス>を吸うと興奮して眠れなくなるし、胃が収縮して食べられなくなる。中毒になると精神病に罹るか、心臓麻痺で死ぬ人が大多数だ。

麻薬の都市のいたる所には「アイス中毒」で家まで売って家族全員が路上生活をする「コッチェビ」がいた。この人たちは数カ月以内で飢え死にした。

警察は<アイス>の生産者や闇ブローカー、使用者を捕まえるために必死になっている。ただし捕まえるのは<アイス>の蔓延を防ぐ目的ではなく、賄賂を貰うためである。警察に捕まった場合、生産者は 5000$、販売者は 1000$、使用者は 500$位の賄賂を渡せば見逃してもらえた。賄賂を渡せない人は処罰を受け、刑務所に入った。

闇ブローカーは<アイス>を電車で運び、他の都市で 2 倍の値段で売ったり、国境都市まで運んで中国に密輸出し、5 倍の値段で売ったりした。北朝鮮の鉄道警察は<アイス>の運送を防ぐため、旅行者の荷物検査はもちろん、ボディーチェックも厳重に行っていた。中国に密輸して捕まった場合は、終身懲役または死刑にされた。北朝鮮政府がこのように厳しく管理しても、市民たちが死ぬ覚悟で作る<アイス>の生産を止めることはできなかった。

未来を夢見ることができない麻薬の都市の人達は、飢え死にしないため<アイス>を作り、<アイス>を売り、<アイス>中毒となり、自暴自棄に陥っている。<アイス>を作る途中に爆発事故で死ぬ人、警察に捕まって刑務所に入り栄養失調で死ぬ人、<アイス>中毒で精神病や心臓麻痺、または乞食になって死ぬ人...。今も麻薬の都市=地獄の都市では多くの人々が命を失っている。

※1 ビナロンは京都帝国大学の李升基(イ・スンギ)、桜田一郎両博士らによって 1939年に初めて合成された。ナイロンに遅れること 2 年、世界で 2 番目に作られた合成繊維であり、1948 年に「ビニロン」と改称された。
米軍政下のソウルに帰国した李升基博士は1950 年の朝鮮戦争時、南侵した北朝鮮軍によるソウル占領後すぐに、金日成の命により北朝鮮に「迎え入れられた」という。
そして、ビニロンは同国の発明品として、金日成主席がビナルロンと命名し、「主体(チュチェ)科学」の先駆けと位置づけられた。
北朝鮮で生産されたビニロンは、軍用を含んだ多くの被服類に使われている。

北朝鮮難民救援基金ホームページ
http://www.asahi-net.or.jp/~fe6h-ktu/toppage.htm

北朝鮮難民救援基金フェイスブック
https://www.facebook.com/nkrefugees

北朝鮮難民救援基金ツイッター
@nkrefugees