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都民ファースト大勝の意味合い

2017年07月03日 22時58分 JST

都民ファースト大勝の影響

小池都知事率いる都民ファーストの会が都議会選挙で大勝しました。都議会選挙の影響範囲は、第一義的には都政においてです。今回の選挙は不思議な選挙でした。小池知事側の戦略勝ちなのですが、誤解を恐れずに言えば、政策上の争点はなかったからです。

市場移転についても、豊洲に移転することが前提で、あとは選挙を通じて意思決定するほど話は煮詰まっていない状況。待機児童問題についても、政党間の違いが明確になることはありませんでした。争点は小池知事を信任するか否かということであり、強いて言えば重要だったのはスタイルの差分。

自民党のおじさん的な政治を続けるのか、小池さんが重視する多様性や颯爽した何かを追い求めるのかということだったわけです。直接的な影響は、後の小池知事の政策運営が容易になったということですが、ここまでくっきりと勝敗が分かれると、当然、国政への影響が出てきます。私は、大きく3つあると思っています。

第一は、短期的な安倍政権への政権運営への影響。具体的には、内閣改造と党役員人事の時期と踏み込み度合いへの影響です。安倍政権からすると、これだけはっきりした敗北の雰囲気を引きずったまま、ダラダラと出血を続けるような事態は避けたいはず。改造にはリスクがあるので、候補の「身体検査」は端折れないけれど時期はなるべく早めたい。遅くとも、議員達が地元でお盆の挨拶周りをするころまでには実施しておきたいのではないでしょうか。

次に、改造の踏み込み度合い。こちらは、入れる人と、替える人の両面あります。入れる人はとにかく目玉が欲しいので、注目されるのはやはり小泉進次郎氏でしょうか。政策実現には実力者が必要なので、禊は済んだとして甘利氏を再入閣させるか。そのくらいしなければ、米国なしTPPや日EUのEPAもまとまらないでしょうから。

党運営や政権運営の大義のために安倍総理のライバルを迎え入れるかどうかも注目ですが、それを相手が受けるかというと、まあ、難しいでしょう。

替える方は、選挙大敗の戦犯でもある金田法相、稲田防衛相、萩生田副長官を替えるべきだという声が上がっています。菅さんを替えるかどうかは最大の論点でしょう。最も目立つ要の官房長官を替えなければ改造の新鮮味はない。ただ、これは政権の安定にも直結しかねない諸刃の剣でもあります。

もう一つ注目すべきは、安倍政権を支える派閥領袖クラスの動き。私は、今回の都議選大敗を経ても、安倍政権そのものは盤石と思っています。それは、政権を支える基盤が動いているように見えないから。外野がいくら騒いだところで、安倍総理は自民党の最大派閥の事実上のトップです。第二派閥トップの麻生氏は副総理兼財務相という閣内ナンバーツーのポストで遇し、第三派閥トップの二階幹事長は党の最重要ポストで遇しています。彼らが、安倍総理に弓引かない限り、基本的には何も起きようがないわけです。

安倍政権の政策への影響

第二は、安倍政権の政策への影響です。今般の都議選のもう一つの大きな勝者は、自民党を見捨てて、小池知事についた公明党です。都議会で現有議席を守っただけでなく、公明党の支持なしには、自民党は特に1人区では全く勝てないことが明白になったからです。国政での自公の間の隙間風を指摘する識者もいらっしゃるけれど、むしろ、連立政権における公明党の存在感は高まるのではないでしょうか。

政策への意味合いは、憲法改正と経済運営の双方に及ぶと思っています。憲法改正について、安倍総裁案の中身は既に公明党仕様です。にもかかわらず、今後の与党協議の中で、集団的自衛権や自衛隊の海外派兵の文脈で、がんじがらめの制約を課せられる方向に圧力がかかってくるでしょう。公明党は、本音では改憲などやりたくないでしょうから、引き延ばし的な動きが出てくるかもしれません。

経済運営において、公明党はあらゆる痛みに敏感です。日本は、財政も社会保障改革も、これ以上の先送りは難しいところまで来ているのですが、必要な改革は行われないでしょう。高齢者への不利益配分が極端に嫌気され、世代間の不均衡は温存される。既得権と闘い、競争を促して経済全体の生産性を上げるという発想は、今でさえ殆どとられていない中で、今後はさらに後退してしまうことを懸念します。

私が、一縷の望みを託しているのは安倍政権の戦闘的な体質です。安倍政権の中心メンバーは、小泉政権時代に権力の中枢に近づいた人たち。彼らは、本能として、国民は政権の果敢な決断には支持を与えやすいことを知っています。郵政民営化時の小泉総理、拉致問題発覚時の安倍官房副長官(当時)、アベノミクスをぶち上げた当時の安倍総理です。

政権の驕りは致命傷になりかねないので、加計問題や森友問題などのスキャンダルでは低姿勢をとりながら、政策面では強気を貫くというのがあるべき姿です。憲法改正も、経済改革も、むしろこれまで以上に踏み込むべきです。人気取りとして取り込む進次郎氏などを活用して、こちらの方向に踏み出すことを期待しています。

都民ファースト国政進出の形

第三は、都民ファーストの国政進出の形が政界再編に与える影響。小池知事は、国政進出のタイミングについて慎重な物言いをされていますが、遅かれ早かれ、注目は国政へと移っていくでしょう。

国政への足掛かりを持たなければ、小池知事が実現したい政策も実現できないというのが一つ。待機児童対策についても、今後急速に進む東京の高齢者対策についても国から協力を引き出し、タフに交渉することが必要ですから。もう一つは、小池氏率いる都民ファーストが「敵」を必要とする政治運動であるということです。豊洲への移転や、待機児童対策や、五輪準備を粛々と進めているだけでは、マスコミも国民もそのうち飽きて来ます。

国政版都民ファーストの中心メンバーと目されている旧維新の渡辺氏や、旧民進の長島氏や、旧自民の若狭氏の側の希望もあるでしょう。彼らは所属していた政党内で明るい未来が描けず、都民ファーストの人気を使ってもう一花咲かせようとしているわけです。年内に国会議員5人以上という政党要件を得なければ政党助成金の対象とならないという手続き面の制約もありますから、こちらの動きも加速化して来るでしょう。

都民ファーストというのは「小池知事の人気」の磁力に集う集団であり、それが国民のどんな層を代表しているのか、どんな政策選好を持つのかは、はっきりしません。都民ファーストの候補の中には、かなり極端な保守的な言動をされる方もあれば、旧民進系の労組と近い方もいる。

新人候補の専門職としての経験は評価するし、スキッとしていて良い意味でエリート的なのは評価したいと思います。多様性を重視した人選も良いと思いますが、経済運営や安全保障でどのような思想や国家感を持っているのか皆目見当がつきません。地方政治でこそ、思想はいったん脇に置いて「半径5メートル」の論点に集中することはできるでしょうが、国政ではそうはいきません。

スタイルを突き詰めるという価値

現時点では、都民ファーストは、政党の系譜として昔から存在してきた「スタイルの党」であると思っています。古くは70~80年代の新自由クラブ、90~2000年代の日本新党やみんなの党などです。自民党が弱った時に出てきて、10年くらいすると役割を終えて消滅してきた政党群です。

小池氏が、政策の中身ではなく、「改革」や「新しい」という言葉を繰り返すのは偶然ではありません。今の都民ファーストにとって大事なことは、自民党的でないこと。古いおじさん体質でないこと。密室政治的でなく、談合的でないこと。もちろん、反対ばかりの左翼イデオロギー的でもないこと。都会的で、多様性を重んじること。

経済思想は新自由主義風味で、安全保障は現実主義風味。けれど、実際に経済で国民に不利益を配分し、安保で戦後的コンセンサスから踏み出すことにはあくまで慎重のようです。具体的に論争のある立場で支持基盤が割れるような判断を好まず、あくまで、スタイルの変化に重きを置く。

私自身、テレビや雑誌の対談で都民ファーストの中心メンバーとお話しする機会が何度かありましたが、「小池さんの国家観が見えない」などと言うと、皆さん、キョトンとされるのです。発想が異なるというか、言葉が通じない感覚なのです。

仮にそれが理解できないのだとすれば、思いっきりプラスに解釈して、スタイルを突き詰めるという価値もあるかなと思うに至っています。つまり、政策の中身の話は追求しない。とりあえず、国民の最大公約数的な立場を取る。その代わり、日本政治の体質改善につながるような、スタイルの改革を徹底する。

体質改善を通じて政治の世界に入ってきた新世代の日本人が、新しい政策の思想や国家観を紡いでいくことに期待するという発想です。都民ファーストにそんな発想がありうるとすれば、私は、政党運営、選挙制度改革、行政改革の3つの分野が重要と思います。

政党運営、選挙制度改革、行政改革

日本の政党運営は個々の政党に完全に任されています。政党が、民主主義の中で大きな役割を果たし、政治の質を実施的に決めているにも関わらず、です。ここは改革の宝庫です。

例えば、政党の公認候補に対して性別や年齢のクォータ制を入れてはどうでしょう。「公認候補の4割以上は女性とする」あるいは、「公認候補の3割以上は40歳以下とする」などです。これは、内部ルールで決めればいいのですから、明日からでもできます。他にも、同一選挙区から二世・三世の候補を公認することを禁止するのも、ラディカルでいいのではないでしょうか。都民ファーストの国会団の幹部と目されている人さえ引っかかってくる可能性がありますが、政治の体質改善には間違いなくつながるでしょう。公認候補を決める際、徒に現職優先とせず必ず予備選挙を行うことや、政策秘書を各政治家に配分せずに政党本部に集めて政策立案能力を高める運用を行うこともできるはずです。

選挙制度関連では、一票の格差の縮小を徹底してはどうでしょう。現在の一票の格差縮小のための選挙区改革は、最高裁の判例の基準に則って2倍以内にすることを目標に行われています。ただ、この基準が悪用されて2倍までの格差はOKという運用になってしまっているのです。あくまで原則は格差1倍を目指すことを目指すとすれば、都市部への議席配分を倍増できます。当然、田舎の縁故型の選挙区は減り、都市型の選挙区が増えます。

私は、日本の選挙制度の不備は、二大政党制がきちんと機能していないことにあると思っていますので、衆議院の比例代表部分の廃止や、小選挙区ごとに上位2候補による決選投票を導入するのも一案かもしれません。地域代表が存在することや、多様な選出方法をとることで少数意見を吸い上げるのも確かに重要ですから、参議院は一票の格差に拘らず、まったく異なる方法で選出して良いかもしれません。その代わり、政権選択のための衆議院において一票の格差は筋論を通すという。

行政改革関連では、政治資金正規正法の運用について、民間では当たり前のレベルまで引き上げてはどうでしょう。献金については1円から公表を義務付け、誰も読めないような報告書形式ではなく、すべてオンライン化する。もちろん、公認会計士の監査を義務付ける。行政文書の定義の抜け穴を埋めるのは当たり前として、特定秘密保護法は改正して、すべての行政文書は一定期間後(例えば30年)に必ず公開する。ポイントは、一切の例外を認めないということです。

日本の官僚機構の発想がマンネリ化し、あるいは、日本が遅れをとっている分野については、公務員法を改正してその報酬も自由化し、世界最高の人材を集められるようにするというのもいいかもしれません。そもそも、日本には破格の高給で世界最高の人材を「お雇い外国人」として招いたグローバルな伝統があるのですから。金融政策が経済運営の肝で、黒田日銀総裁の後任が人材難だというなら、FRB議長候補になりながら果たせなかったラリー・サマーズ氏を連れて来るとか。そのレベルのぶっ飛んだ人事を起こせれば、さすがに日本の行政機構も揺さぶられるのではないでしょうか。

各省の記者クラブを廃止して情報の独占を改め、閣僚の記者会見はすべてネット中継するとか、不当な口利きへの抑止力を利かせるために大臣以外のすべての政治家とその秘書との面会記録を残すことを義務化するとか。現場への負担が重くて現実的でないと思われていた政策の多くはテクノロジーを通じて乗り越えられつつありますから、ゼロベースで考えてもいい時期に来ています。

都民ファーストの躍進は、確かに歴史的なものです。ただ、それは改革ブームの空しい繰り返しの歴史となるリスクを秘めるもの。都民ファーストについて、中身がないと攻撃するのは容易いし、今からでも中身は作っていってもらいたいけれど、日本政治の体質改善につながるようなスタイルを追求してほしい。そんなことを考えた都議選明けでありました。

(2017年7月4日「山猫日記」より転載)