仙台のG7会合で麻生太郎財務大臣が果たした大きな役割とは

PEFの実現に向けて麻生氏が強い意欲を示していたことは明らかだ。
Japanese Finance Minister Taro Aso (C) speaks to reporters prior to a welcome reception hosted by the City of Sendai in Sendai on May 19, 2016. The group will converge at a hot spring town north of Tokyo where two days of meetings kick off from May 20. AFP PHOTO / KAZUHIRO NOGI / AFP / KAZUHIRO NOGI (Photo credit should read KAZUHIRO NOGI/AFP/Getty Images)
Japanese Finance Minister Taro Aso (C) speaks to reporters prior to a welcome reception hosted by the City of Sendai in Sendai on May 19, 2016. The group will converge at a hot spring town north of Tokyo where two days of meetings kick off from May 20. AFP PHOTO / KAZUHIRO NOGI / AFP / KAZUHIRO NOGI (Photo credit should read KAZUHIRO NOGI/AFP/Getty Images)
KAZUHIRO NOGI via Getty Images

雲間からようやく太陽がのぞき、中継車のTVカメラがこの仙台市郊外の古い温泉地の風景をゆっくりと映し出す。5月20、21日にここ仙台市で開かれたG7財務大臣・中央銀行総裁会議は友好的なムードで行われたものの、結局何の合意を得られずに終わった。

仙台は、2011年3月11日に発生した歴史上最大規模の自然災害である東日本大震災の被災地のひとつだ。死者は1万5000人を越え、長期にわたる復興を経てもなお、いまだに家を失ったままの人もいる。交換留学生として仙台で過ごしたことがある私にとって、今回の訪問は厳しい現実を目の当たりにする旅となった。その仙台の人々の温かい歓迎ぶりが、G7の間で行われた冷ややかな密議と対照的だった。

この仙台での会議は、日本の神社の中でも最高位に置かれる伊勢神宮に近い場所で開催されるG7伊勢志摩サミットの準備会合の一つだ。オバマ大統領は、1945年8月6日におよそ8万の人の命が失われた広島への訪問も予定している。人類史上初めて、原子爆弾が一般市民の頭上に投下された街を、アメリカの大統領が初めて訪問し哀悼の意を表せば、日本とアメリカの間に依然として横たわる感情のしこりも和らぐことになるだろう。

しかし、経済的な現実を見れば、日本とアメリカの間にある違いはますます際立っている。アメリカの政策金利は上昇を始めたが、日本はマイナス金利の世界に足を踏み入れたところだ。このような状況では、為替の調整は避けられず、それによる貿易摩擦、さらにはTPP (環太平洋戦略的経済連携協定) への影響も計り知れない。アメリカ財務省はすでに、日本を為替操作の監視リストに載せている。

(出典: G7日本2016/ 財務省)

だが、21日の会合では雨上がりの雲間から日差しが漏れた。麻生太郎氏が大臣を務める日本の財務省は、世界銀行が創設したPEF (パンデミック緊急ファシリティ) という革新的な災害保険制度の資金として5000万ドル(約55億円)を拠出するという。何が革新的かといえば、この拠出金は緊急時に資金調達することを目的としておらず、民間の保険会社の保険の再保険に充て、5億ドルとも見積もられている巨額の保険金の支払いをカバーすることを目指している点だ。

記者会見の席で、このPEFの仕組みについて麻生大臣に質問してみた。それによると、これは世界銀行グループのジム・ヨン・キム総裁が発案者だった。自らも医師であるジム・ヨン・キム総裁は、伝染病の世界的な流行を防ぐ使命を強く感じていたそうだ。そして、PEFの創設に向けて障害となりうる一連の問題を解決する「天の配剤」的な役割を果たしたのが麻生大臣だった。PEFの実現に向けて麻生氏が強い意欲を示していたことは明らかだ。

これまでのところ、この半官半民の金融構想に賛同しているのは日本だけだが、詳細が明らかになるにつれてG7の他のメンバー国も次のステップへと進むだろう。5年前に大地震と津波で大きな被害を受けた仙台こそ、不慮の災害に対処するためにその負担を分かち合うというアイデアにふさわしい街だ。また、何世紀にもわたって自然災害を耐えて生き延びる術を学び続けてきた日本こそ、こうした (まさに地殻変動とも言うべき) 構想の先導者としてふさわしいだろう。

仰々しいG7サミットという場に各国の中央銀行総裁や財務大臣が集まって、いったい何をやっていたのか、そしてそれが一般の我々に何の関わりがあるか、と問われれば、私が見た限り、このPEFが大きな成果だと言っていい。エボラ出血熱が蔓延していた頃、資金調達の手段がなかったばかりに深刻な対応の遅れが生じた。次のパンデミックがいつ起こるか予測はできないが、日本が先導するこの取り組みが、この地球上のひとりひとりに影響を与えることは確かだろう。他の国々もすぐにこれに従うべきだ。

東北大地震で大変な被害を受けた地域を訪問し、その住民たちに今も重くのしかかる重圧を目の当たりにして、私は、PEFが伝染病にとどまらずあらゆる自然災害をカバーするようにならないか、と強く感じた。人間の力の及ぶ範囲をはるかに超えて全世界に影響を与えるような出来事に対処するための負担を、みんなで分かち合うという考え方を、ようやく光の射し始めた国際的な金融システムの基本的支柱とすべきであろう。

ハフポストUS版に掲載された記事を翻訳しました

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