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まちづくりは不動産デベロッパーの「稼ぎ」に繋がるか

2016年01月24日 02時42分 JST | 更新 2017年01月21日 19時12分 JST

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つづくまちの開発論」の初回は、安田不動産の「ワテラス(東京・千代田区)」での取り組みを紹介します。

今回は、主に開発段階で担当していた開発事業本部の助川覚さん、竣工後からイベントスペース「ワテラスコモン」の管理や、町会・役所との各種調整を担う資産営業事業本部の永塚武さん、そして、エリアマネジメント活動を担当する資産営業事業本部の松本久美さんの3人に話をうかがいました。

統廃合となった淡路小学校跡で開発されたワテラスは、単に最新のオフィスビルやマンション、店舗といったハードを用意するだけではなく、エリアマネジメント組織「淡路エリアマネジメント」を設立。

加えて、収入が見込める床を削ってまでまちづくり活動に参加する学生向けマンションを整備することでまちづくりの体制を強化し、竣工後も長期的に関わっていくという取り組みをしています。

不動産デベロッパーによるエリアマネジメントといえば、三菱地所の丸の内、森ビルの六本木、三井不動産の日本橋などの事例が有名です。ただそれも、うがった見方をすれば「業界最大手クラスがやっている事例しかほぼ見当たらない」と言えなくもありません。実はこれ、業界的にもかなり踏み込んだ「実験」なんです。

そして議論は、そもそも「エリアマネジメント」とはどういった活動を指す取り組みなのか、その成果をどのように測定すべきなのかといった部分にまで広がりました。前・中・後編の全3回と結構ボリュームが多いですが、お付き合いいただければと思います。(ジンボ)

聞き手:荒昌史(HITOTOWA INC.)、寺井元一(まちづクリエイティブ)、ジンボユウキ

神田のまちづくりに関わり続ける安田不動産

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――まずは、寺井さん・荒さんが「ワテラス」というプロジェクトのどこに興味を持ったかというところから進めていきましょうか。

:建物の上層部にある学生マンション「ワテラススチューデントハウス」での取り組みをはじめとして、デベロッパーが開発を終えたあとも「作りっぱなし・売りっぱなし」にするのではなく、覚悟を決めて長期間携わろうとしている点が非常に興味深いと感じました。

寺井:僕はこの5年で、まちづクリエイティブを立ち上げて、「自分のいるエリアにどんなコンセプトを立てて、どうデザインして、どんな事業を創っていくか」といった、まちづくりの一連の流れを一通りやりました。その過程で大変だったことも多くて、まちづくりや、エリアマネジメントというのは大変な仕事でもあると感じます。

そんななか、安田不動産さんはワテラスの竣工後、徐々にフェードアウトしていく選択肢があったにもかかわらず、神田の街でずっと関わっていくと決めた。それで、どんなことを考えていらっしゃるのか興味がありました。

「ワテラス」プロジェクトにおける3人の役割

――ワテラスのプロジェクトにおいて、皆さんはそれぞれどんな役割を担ってきたのでしょうか。

助川覚(助川):僕は初期から開発における業務全般をずっと担当してきました。竣工後も1年ぐらいは現地にも詰めていましたね。2015年の4月からは担当を外れています。

――永塚さんはどういった役割を担っていらっしゃったんでしょうか。

永塚武(永塚):僕は2014年の4月からワテラスの担当になりました。いま、ワテラス全体の管理は安田不動産が担っていて、ワテラスアネックスの13階の事務所に分室というかたちで管理部隊が常駐しています。エリアマネジメント事業もそのなかの一つに位置づけられていて、住宅管理のスタッフ、オフィスビルのテナント対応担当と一緒に仕事をしています。

僕は松本と一緒にエリアマネジメントを担当しておりまして、特にカフェやホールがあり、地域交流のためのイベントも行う「ワテラスコモン」の管理や渉外、町会や役所とのコミュニケーションを担当しています。例えば外部の人からの「イベントを開催したい」「広場を使いたい」「エリアマネジメント事業に共感したからコラボしてみたい」っていう話の窓口になったりですね。

――松本さんはいかがですか?

松本久美(松本):私は2011年に新入社員として安田不動産に入社して、それ以来ずっとエリアマネジメント業務を担当しています。この年に再開発組合のなかに「準備室」が発足し、法人設立までは学生さんとイベントの開催、地域情報誌の作成等を実験的にやったりしていました。

容積率割増の条件として手探りで始まった「エリアマネジメント」

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――今回のプロジェクトでは、安田不動産さんが初めて本格的にエリアマネジメントの視点を導入したプロジェクトであり、かつ学生マンションを設けて既存の地元コミュニティとは違う人を入れていくといったようなスタンスも非常に興味深いです。そうしたアイデアは、開発プロジェクトのどの段階でどんな風に決まっていったんでしょうか?

助川:私は2004年に再開発の事務局に配属されて、初期段階の企画や権利者交渉から、最後のエリアマネジメント組織の立ち上げまで、専属で10年ぐらい関わってきました。

まず企画段階の頃に、エリアマネジメント組織を立ち上げるということを「都市計画図書」に書き込んだんです。都市再生緊急措置法によって、不動産開発プロジェクトで地域貢献に資する施設づくりや取り組みを計画すると、容積率を緩和してもらえてより高い・広い建物が開発できるようになります。

既に広場やホールといったコミュニティ施設を設けることは決定していたので、コミュニティ施設を使って学生にイベントを企画してもらおうというプランもありましたが、それだけだと弱いんじゃないかと。だったら住んでもらって、町会員になってもらえばいいじゃないかという話になって。

:ワテラスが開発されたエリアにはもともと何があったんでしたっけ?

助川:もともと千代田区立淡路小学校がありましたが、少子化による統廃合で移転になってしまったんです。地域の方々からは、「再開発ではシンボリックな高い建物をつくって活性化してほしい」という要望を受けていました。

ただ、そもそもエリアマネジメントと言っても都市計画に書かれているのは「まちづくりをやっていきます」ぐらいのことで、何をやれば良いか、どれだけ費用がかかるのかもわからない状態でした。なので最初は町会と打ち合わせをしていても、「お前らは一体何をやるんだ?さらに住民の負荷が増えるのか?」っていうような反応で。

町会活動との住み分けを1~2年ぐらいかけて調整して、落とし所を見出した感じですね。

寺井:エリアマネジメントを始めたきっかけは「地域貢献として都市計画決定してましたし、周辺住民の期待も大きかった」というようなスタートだったということですよね。

確かに企業によるまちづくりの取り組みは、だいたい最初はそういう実利的な理由だと思います。「エリアマネジメントをやる」と書き込むだけで始まる。けれどもその後に実際にまちづくりをやる段階になると、どんなことをしたら良いか、採算性はどうしたら良いかなど、現場の方も大変なことが多いように感じます。

「家賃3割引×地域活動の人員増」でwin-winの学生マンション

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:まちづくりの世界ではよく「学生を住まわせてまちづくりをさせればいいんだ」といったような発言がありますが、実際はそんな簡単には上手くいかない。それでもワテラスではちゃんと学生マンションが機能している点に注目しています。賃料はどのぐらいでしたっけ?

松本:月額6万5,000円+管理費一万円ですね。相場よりも3割ぐらい安いです。

助川:賃料+管理費で7万5,000円で都心の御茶ノ水駅の至近に住めると。その魅力はやはり大きいと思います。

松本:今は19大学の学生が住んでいます。彼ら・彼女らは17~25歳の大学・大学院・専門学校生で、淡路エリアマネジメントの学生会員になってもらっています。防災訓練の手伝い、お祭りや千代田区の運動会といった町内会の活動に必ず年に1回参加する必要があります。あとは選択活動として淡路エリアマネジメント主催イベントの手伝いもありますね。丸一日参加すると1ポイントで、年12ポイント以上の取得を必須にしています。

:学生の選定はどのようにしているんですか?

松本:毎年11月頃に募集説明会を開催しています。2015年の春は15人の募集をかけましたが、それに対して説明会に100人来てくれて、エントリーシートを提出してくれたのが60人ぐらいでした。

寺井:そのぐらいの倍率があれば、意欲ある学生を選ぶことができますね。

:学生のモチベーションとしては、まちづくり活動がしたいということなんでしょうか。それとも、ワテラスの立地の良さ・賃料の安さに惹かれたからでしょうか。

松本:賃料の安さというのは大前提としてあると思いますが、ユニークでアンテナの高い子が多いと思います。自身が学校で専攻している領域に近い、例えば建築学科でまちづくりの勉強をしているという子、商学部で地域の商店街に混じって活動していますという子も来ます。そのほか、自分でサークルを立ち上げてイベントをやっている子などもいます。

ただ、まだまだ今の状態が理想だとは思っていないんです。最終的には学生全員がそれぞれ違う学校から集まってくるような状態にしたいです。今は1つの学校からの入居者が5人ぐらい居たりして、偏りがあるんですよね。

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助川:実は最初、地域活動に参加すると得られるポイントが高い子は賃料を下げて、低い子の賃料を上げるっていうアイデアもあったんですよ。ただそれはオペレーションが大変で。

:現状では取得ポイントが多いと何かメリットがあるんですか?

松本:それは特に無いですね。ただ、マンションの契約が1年の定期借家契約で、ポイントが足りないと次年度の再契約ができません。

助川:契約終了の半年前のタイミングで、全員に解約通知を出してはいます。

:今までに再契約できなかった人はいたんですか?

松本:一人だけいましたね。「何も活動に参加しない」という不届き者が(笑)。

永塚:基本的に興味が無い子には何を言っても難しいですよね。その分だけ興味がある子に対してはそれに応えるメニューを用意する必要はありますが。でも、多くの子はよくやってくれていますよ。

(中編に続く)

(2016年1月21日の「マチノコト」より転載)