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エリアマネジメントの「効果測定」ってどうやるの?

2016年02月06日 17時47分 JST | 更新 2017年02月04日 19時12分 JST

インタビューシリーズ「つづくまちの開発論」、安田不動産の複合再開発建物「ワテラス」プロジェクトインタビューの中編をお送りします。

「つづくまちの開発論」ワテラスインタビュー

このパートでは、新旧住民のコミュニケーション方法に始まり、いよいよ核心の「エリアマネジメントの効果測定をどうやるのか」という話に入っていきます。

「街に賑わいが生まれた」とか「イベントに○○人集まりました」では終わらせず、不動産デベロッパーの収益アップに結びつけること、つまり単なるCSRに終わらせない長期的な取り組みとして定着させることは可能なのか?ということを聞いていきます(ジンボ)。

聞き手:荒昌史(HITOTOWA INC.)、寺井元一(まちづクリエイティブ)、ジンボユウキ

2年に一度の神田祭をきっかけに町会員を募集

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2015年5月に開催された神田祭の様子

――ワテラスが開業してから2年半ほど経過して、様々な「結果」ないし「今後の課題」が見えてきたと思うんですが、やってみてはじめてわかったことは何かありましたか?

助川:これは町会長が言っていたのですが、「新旧住民の融合」ですね。分譲マンションの総戸数が333のうち、権利者の居住数を差し引いて販売したのが253なんですが、「やはりそんなに簡単に町会の活動には入らない」という状態だったようです。町会長は焦らず、徐々に町会員を増やしていこうという考えでやっているそうです。

:参加率はどのぐらいなんですか?

永塚:実を言うとあまり参加していなくて、20~30軒程度だったんですね。ところが2015年は2年に一度開催される神田祭があって。それで、神田祭が盛り上がるなかで40~50人ほどの新メンバーが加入してくれたんです。

寺井:地元と新住民の接点がどこにあるかと考えたとき、お祭りは大きなポイントですよね。町内会というのはそもそも楽しくて入るものではなくて、ゴミ捨て場などもそうですが、皆が義務を果たすために入らざるを得ないものだったりします。それだと新住民は入りづらい。地域コミュニティにおいて、お祭りというのは数少ない楽しいコンテンツであり、しかも地元の方もすごく大切にしているものですから、参加のキッカケとして有効ですよね。

――新メンバーの年齢・世代はどんな構成なんでしょうか?

永塚:聞き及ぶ範囲だと、老若男女幅広いみたいです。若年層も多いという印象です。

助川:コミュニティづくりを始める時に、子どもがいるとよいですね。神田明神で子ども向けのお祝いか何かをするときも、町会経由で申し込みする必要があったりして、そのタイミングで加入してくれるケースもありますし、ママさん同士で親しくなるケースもありますしね。

:ワテラスの町内会の加入率はそんなに低くないと思います。当社が受け持っているマンションだと、入居時点で加入させてしまうこともあります。ただし、各種活動にアクティブに参加してくれるのは1~2割もいなかったりする。関心を持っている人だけが参加するという仕組みも決して悪いとは言えないんですよね。

助川:竣工前から、町会長さんと「2013年の3月に竣工して5月にすぐ神田祭があるっていうのは、コミュニティ活性化のチャンスですよね」っていう話をしていたんです。「せっかくだからお神輿も担いでみたい」っていうのは自然な心理ですし。

しかし、いざそのときになると、町会のみなさんは自分たちの引越もあって余裕がない状態で。しかもその前の2011年は震災の影響で開催を見送ったので4年ぶりの神田祭。その上、ワテラスを神酒所や御仮屋として使用するのも初めてで、もうドタバタ。だから積極的に町会員を募集しなかったんです(苦笑)。

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ワテラススチューデントハウスの学生たちは当日までの事前準備はもちろん、神輿担ぎや先導役、子ども山車のサポートなどで参加

寺井:最初はちょっと落ち着こうということですね。地域やその行事は延々と続いてきたものですし、固定化したメンバーで慣習的に守り伝えられてきたところもありますから、急激な変化は確かに難しいところがあります。

助川:はい。町会の規約やルールにしても、何十年も前に作られたものしかなく、運用も曖昧な状態だったんです。まずはそれをここ2年ぐらいかけて改定しました。そこからやっと積極的に「新しい住民も誘ってみよう」という流れになったんです。結果としては焦らずじっくり増やしていった方が正解だったようです。

:今までのお話をうかがっているだけでも、町会とデベロッパーとで良好な関係を築けているなと感じます。そういったところでも、普通の開発とはやっぱり違いますね。

寺井:それはやっぱり開発までに10年ぐらいかけたという点が効いてる気がしますね。それは企業的には体力が必要なところですが。

:再開発でも竣工したら徐々に町会に関わらないようにする、っていうのが開発のよくあるパターンだと思うんですけど、ちゃんと町会の悩み相談にも応えていて。

永塚:デベロッパーが住民に対して「何か欲しい機能がありますか?」と聞くと、大抵は「毎年寄付して欲しい」とか「自治会館を作って欲しい」っていう要望が返ってきます。ただ正直なところ、デベロッパー側も携わったプロジェクト全てに対して何かしらの方向性やリターンを想定しないまま支出を続けるというのも難しく、結果的に関わり合いを解消する方向に動いてしまうと思うんです。今回のケースはちゃんと双方の信頼関係が成立したうえで一歩進んだコミュニケーションが取れていますね。

エリアマネジメントの「効果測定」ってどうやるの?

助川:「ワテラスの結果・成果」という話に戻すと、住宅が賃貸マンションメインであれば、そういったコミュニティの価値が賃料にフィードバックするスピードも早かったかもしれません。ただワテラスの場合は分譲マンションとオフィス、商業施設という構成なんですよ。

安田不動産の収益の柱であるオフィステナントに評価されることとは何か、それをどうすれば賃料に反映できるのかというところが、正直なところまだ掴みかねています。もしかしたらもう効果は少しは出ているのかもしれませんが、数字は表わすことはできない。

永塚:あとはレインズ(Real Estate Information Network System:国交省が提供する、不動産の売買情報共有データベース)で、分譲マンション部分の売買がどれぐらいの期間、どの程度の価格で成立しているかっていう見方はあるかもしれないですね。人気物件だとその期間が短く、高い価格での成約になると。

:今でも「エリアマネジメント」の定義や活動内容って曖昧ですよね。デベロッパーからみた場合、これまでは寄付・CSRに近いような位置づけだったかもしれませんが、物件の付加価値を高める投資的な側面もあるはずです。その際、投資の費用対効果は当時どんな風に測ろうとしたのか、その目標に対して今どのように進捗しているんでしょうか。

助川:エリアマネジメントが、安田不動産にもたらす対する費用対効果についてはどう測ったら良いのか、まだ考えあぐねているところですわかっていません。費用対効果を測る目安としては、例えば取材の数やイベントの開催数、イベント時に商業店舗の売上がアップしているかなどでしょうか。

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ワテラス広場で毎月開催している「ワテラスキッズ」

松本:できる限り色々なことを数値化していこうとは思っているんですけど、それも限界がありますし、それだけでは説得力に欠けるところもありますので、悩ましいところですよね。

助川:当社は分譲マンション事業を展開しているので、大量に広告を打ってブランディングを進めていく必要もあるものの、地道なPR活動みたいなところで取り上げられるということが一番良いですね。各種メディアに記事が出ると広告宣伝費でいくら、と換算するみたいなことはできますし。

寺井:「メディアに取り上げられる」の先をどう進めていくか、効果測定をどう目に見えるかたちで策定していくかというのは相当悩ましいですよね。本当は無くてはならないんでしょうが...。でも安田不動産さんだけではなく、他の大手デベロッパーも含め誰もつくれていない。

助川:僕のなかでは、「これが今後の良い営業ツールになればいいな」と思っているんです。「再開発プロジェクトに安田不動産が入ると、まちづくりをこんなに責任持ってやってくれるんだ」っていう実績を重ねていけば、次の再開発でもまた呼んでみようとなるじゃないですか。実はワテラスを開発してから、実際にそういった問い合わせはポツポツあったんですよ。

後はこうしたエリアマネジメント関連で投じた費用をきちんと回収したうえで、「こういうことを続けていけば"競争力のある街"になれるんだろうな」といったおぼろげな考えはありますし、そういうことを考えている人・企業も増えてきていると思います。

永塚:私は荒さんのHITOTOWA INC.がやっている活動にすごく注目しているんです。結局、オフィスビルでも分譲マンションでも、活気が無くなったら何の価値もないハコモノになっちゃうんですよね。そこはハードを造ってきたデベロッパーとして皆実感していますし、同時にだいぶ行き詰まっていて。

だから、管理・ソフト面も充実しなきゃいけないとは思っています。「エリアマネジメント」っていう言葉はイメージがすごく先行していて、メディアでもよく取り上げられたりしますけど、「結局何をどうすれば良いんだろう」ということは考えこんでしまうんですが。

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学生が中心となって編集する地域情報紙「FREE AWAJI BOOK」

寺井:海外の事例だと、BID(Business Improvement District:地域の価値を高めるためのサービスを提供する組織や仕組みのこと。活動に必要なコストは地域内の地権者が負担する)なんかもそうですが、「地価がどれだけ上がったか」っていう成果指標はよく使われていますよね。ただし、もちろん事業者の努力だけでなく、マクロ経済の影響も非常に大きい。「そもそもそうした影響や相関はある」という認識はお持ちですか?

助川:今回、エリアマネジメントをやっているから分譲マンションが完売したかと言えばそうではないと思うんです。とはいえ賑わいは無いよりあった方がいい。それはみんな心の中ではなんとなくわかっているものの、それがいつ価格に反映されるかはわからないんですよね。

ワテラスのオフィスワーカーたちも、足元に何もない殺風景な場所で働くよりは、出社した時に賑わいがある場所の方が気持ち良いでしょうし、結果的にビルとしての競争力も高まると思います。ただここでも、まだビルの賃料には反映されていないなと。

つまり「現状はまだ地価にも反映していないのかな」という認識ですね。そうした気持ちよさ、心地良さに対してお金を支払ってくれる風潮になればまた変わるかもしれないのですが...。いつかどこかで必ず必要な要素になるという思いはありますけどね。

寺井:確かにそれは3年、5年っていうスパンの話ではないですよね。10年ぐらいかかってしまいそうというか。

永塚:エリアマネジメントというソフトも含めてワテラスの価値がさらに高まるには、もう少し時間が必要かもしれませんね。

寺井:そうでしょうね。

永塚:でも、近視眼的に経済合理性だけ追求して一切やらなければ、働く・暮らす空間の潤いも無くなってしまう。マンションに住んでいる人も毎月イベントがあれば良いと思う人は多いでしょう。

(後編に続く)

(2016年1月25日の「マチノコト」を一部修正して転載)