BLOG

マイナス金利政策は何故次世代の金融緩和なのか

世界的にもマイナス金利政策の注目度は益々高くなっている。

2017年10月15日 15時08分 JST | 更新 2017年10月15日 15時10分 JST

清水誠

「日本の金融政策に関する一考察」ベン・S・バーナンキ元FRB議長講演資料より

私はこれまでにもマイナス金利政策についてやや断片的には書いていますが、以下は主な主張です。

日銀の総括的検証、何のため?・後篇

日銀がすべきことは効果の出なかった量的緩和政策を見直し、マイナス金利の拡大による実質金利の低下で景気回復を図ること

日銀の総括的検証と金融緩和の新しい枠組み

マイナス金利は直接名目金利から実質金利を下げるため、期待に働きかけて物価上昇予想を起こそうとする必要はありません

日銀の総括的検証はどう検証されたか?

自然利子率と実際の利子率の差を広げてデフレギャップを埋めるのが政策目的であれば、そのために最も迅速に実行できるのは、日銀がマイナス金利を拡大すること

2014年の消費税増税はどのくらい景気に影響しているか?

物価上昇に依存しないマイナス金利の深堀りは、少なくとも消費税増税のような物価上昇からの実質所得の減少による消費の減少を心配しなくて済む

雇用指標改善の真相

今後は人口減から雇用量の増加が停滞し、むしろ成長なき賃金上昇によるスタグフレーションのような状況に陥る心配さえある...それを克服するのは技術革新や設備投資ですが、そのためには更なる金融緩和つまりマイナス金利の深堀りが有効な手段

消費、技術革新、そして金融政策 -平成29年度版「経済財政白書」を参考に-

マイナス金利の深堀りによって(実質)金利が下げられれば投資が起こり、投資自体が需要項目ですから、第一弾の金融緩和の効果として景気を回復させます。そして、投資による資本蓄積自体も労働生産性を上げ、また投資が技術革新を後押しすれば更に生産性が上がることで賃金は上がるでしょう。こうして賃金が上がれば消費が増え第二弾の景気回復効果

金融の役割再び -平成29年度版「経済財政白書」を参考に-

日銀はマイナス金利を導入しましたが、それはたったマイナス0.1%だけに留まったまま一年半が経過しました。それではとても十分ではありません。数%のマイナス金利を深掘ることは、まだ世界のどこも経験していません。しかし、日本は世界のどこよりも早く生産性の低迷に直面し、どこよりも長くゼロ金利政策を続けています。マイナス金利深堀りをやってみる価値はある

昨年末のことですが、私は「金融構造研究会」に呼んで頂き、マイナス金利政策についての報告をさせて頂く機会を得ました。その時の冒頭で私が報告したのは以下のグラフについてです。

清水誠

1984年と1985年の二年間の各四半期の年率換算の名目GDP成長率(季節調整後)の平均は約7.2%、消費者物価指数前年比の平均は約2%で、日銀が操作するコールレートは平均で約6.4%でした。

1986年から1987年の第1四半期まで経済は若干停滞しましたが、この時コールレートは少なくとも3%は下がっています

もし今が不況でなく平時であったとし、平時の平均的な物価上昇を0%、名目GDP成長率、従って実質成長率(潜在成長率)が2%であるとします。そして、このような状況下での平時の、コールレートのような政策金利は1.5%とします。

そこで1986年のような経済の停滞が起き、その時と同様、少なくとも3%は政策金利を下げる必要があるとすれば、政策金利はマイナス1.5%までは下げる必要があります

リーマン・ショックのような100年に一度クラスの大不況が起これば政策金利はもっとマイナスに深堀る必要があるでしょう。

平成25年度版の経済財政白書では、テイラー・ルールに基づく政策金利では、リーマン・ショック時にマイナス8%程度まで下げることを示しています。

清水誠

『平成25年度版の経済財政白書 ―経済の好循環の確立に向けて―』 「第1章 経済財政の現状と課題 第2節 金融政策のレジーム転換と物価動向 1 デフレ脱却に向けた金融政策のレジーム転換」(コラム1-4図 テイラー・ルールの前提条件による違い p.72より)

テイラー・ルールは、金融政策に影響しそうな物価上昇率や需給ギャップのような変数の推移に対して、過去中央銀行がどのように反応したか推計したものです。

このように政策金利がゼロとなってしまう以前の期間が含まれた日銀の政策金利誘導から推計される政策金利は、以前と同様に日銀が反応すれば、2000年代前半はマイナスになることも示されています。

冒頭のグラフはバーナンキ前FRB議長の講演資料にあるグラフです。推計方法は異なるようですが、推計されたコール・レートがマイナス圏に長い期間入っています。

現在は80年代などと比べて、インフレの心配はなくなりましたが、潜在成長率も低下しています。その結果、平時の政策金利はそれ以前と比べて低くなっているでしょう。

その結果、ちょっとした景気の後退に陥った場合にも、金融政策で景気が回復するように十分に政策金利を下げるならば深くマイナスにする必要が生じた、ということなのです。

恐らく、リーマン・ショックのような大きな負のショックでなくとも、中央銀行は比較的頻繁に政策金利をマイナスにする必要があるでしょう。

この意味でマイナス金利政策は次世代の金融政策と言えます。あるいは日本は既に現世代でも必要としているでしょう。

消費、技術革新、そして金融政策 -平成29年度版「経済財政白書」を参考に-」で、平成29年度版「経済財政白書」が取り上げた技術革新について、私は「資金コストが高いことによる投資の低迷が技術革新を低迷させている」と書きました。以上で私が想定する潜在成長率は2%です。

しかし現在、内閣府や日銀が推計する潜在成長率は1%弱程度です。潜在成長率が1%程度であり、それに対する平時の政策金利が0.5%とすると、そこから不況に対して3%政策金利を下げる必要があれば、政策金利をマイナス2.5%以下にする必要があります。

もっとも潜在成長率を推計するためには、技術革新によるTFP(全要素生産性)の伸びの推計する必要があり、潜在成長率を推計する場合のTFPは誤差のようなものとして捉えられ、結局は過去の経済成長に引きずられます

従って、人口減があったとしても、潜在成長率が1%というのは、TFPの伸びが随分と低く推計され日本経済の力を過少評価しているように思います。

現在まで日本はゼロ金利状態が長らく続いており、金融政策は限界とさえ言われてきました。

いったい何故、これほどまで長くゼロ金利が続いているのでしょうか?それは不況が続いているからでしょう。

つまり、ゼロ金利でも不況を回復させるには不十分なのです。

それならば、もっと金利を低くして投資需要などを増やし、潜在成長率に従った経路に経済を戻す必要があります。

そして、潜在成長率に従った成長経路に戻れば、その時は金利は再びプラス圏に戻るでしょう。

マイナス金利の深堀りを実行するには、量的緩和を続けると金融機関に負荷が掛かりすぎるなど、まだ検討すべき課題はあります。

金融構造研究会の報告内容を会誌に載せて頂けることになり、ここにそのリンクを貼っておきますので、興味ある方はご参照下さい

世界的にもマイナス金利政策の注目度は益々高くなっています。

ハーバード大学のケネス・ロゴフ教授も最近の著書「現金の呪いーー紙幣をいつ廃止するか?(日経BP)」の中で、金融政策以外の観点から現金廃止のメリットを論じていますが、マイナス金利政策を評価しており、更には現金を廃止しなくてもマイナス金利政策は可能であることを述べています。

我が国の場合でも現金廃止には少なくとも10年は先になりそうですので、この上の時間を無駄にすべきではありません。

ロゴフ教授のマイナス金利政策には、マイルズ・キンボール教授(コロラド大学ボルダー)のIMFでの論文(ルチア・アガーワルとの共著)が参考にされています。

キンボール教授はマイナス金利政策に関する先駆者の一人です。私はキンボール教授に勧められてIMFの論文を日本語に翻訳しています。それほど難しい論文ではありませんので、興味ある方は是非「このリンク」から読んでみるとよいでしょう。

最後にロゴフ教授の著書(p.327)から引用をしておきます。

適切に設計されたマイナス金利政策は望ましいと考える。中央銀行が無制限に金利をマイナス領域に設定する選択肢を持ち合わせているなら、経済を短期間でデフレ・スパイラルから脱出させ...総需要を押し上げる効果があり、また市中銀行には超過準備を貸し出す強力なインセンティブが働くことになる

とあります。しかし、

ただしこの政策が十全に効力を発揮するためには、マイナス金利が経済に広く浸透する道筋を確保すること...マイナス金利導入で人々が現金保有に走らないよう、適切な対策を講じること...法律、税金、制度の面から「配管工事」をする必要がある

私はマイナス金利のための最低限必要な措置は、中央銀行の権限の範囲で実施可能だと考えていますが、それにしても実現にはこの政策についてのより正しい理解が広がることが必要です。