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「私のこと、かわいそうだと思ってるでしょ?」フィリピンパブにどっぷり浸かった研究者にホステスの恋人が怒った理由

「フィリピンにも仕事はある。でも給料が安すぎて生活できない」

2017年08月24日 17時03分 JST | 更新 2017年08月24日 22時20分 JST

「友だちいない、家族にも会ってない。でもお金はある。何年もくる人はそんな人たち」

少し笑いながらミカさんは話した。彼女たちフィリピン人ホステスの仕事は、お客さんをもてなし、楽しませ、時には甘えて指名をもらうことだ。

彼女は7年前、偽装結婚をして日本にやってきた。

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「お金のないフィリピン人の女の子にとって、偽装結婚はチャンスなんです」

アイスコーヒーを片手に話すのは、『フィリピンパブ嬢の社会学』の著者、中島弘象さんだ。隣には大きなおなかをしたミカさんがいる。

遠藤真美

フィリピン人ホステスの学術調査をしていた中島さんとミカさんが出会ったのは6年前。現在、2人は夫婦だ。

偽装結婚はヤバいけど...

本来、フィリピン人が日本でホステスとして働くには「興業ビザ」を取得しなければならない。

しかし2005年、日本政府はアメリカ政府からの指摘を受け、ビザの発給条件を厳しくした。その結果、来日目的の偽装結婚が急増する。

「フィリピンにも仕事はある。でも給料が安すぎて生活できない」

ミカさんは話す。偽装結婚してまで彼女たちが日本で働く理由は「家族を養うため」だ。

フィリピンの平均月収は一世帯あたり2~3万円。人口の10%が海外へ働きに出る貧富の差も激しく、一番上のお姉さんが日本に来る前は、ミカさんの家族もスラム街にあるトイレもシャワーもない家でギリギリの生活を送っていたという。

ミカさんはお姉さんから「マネージャー」と呼ばれる、日本とフィリピンに人脈を持つ仲買人を紹介されて来日した。

遠藤真美

月給6万円、休日は2日、ボロアパートには監視とゴキブリ付き

日本にきてから約3年間、ミカさんの月給は6〜8万円。休日は月2回だった。

マネージャーと契約したホステスにはノルマがあり、達成できないと給料から天引きされる。ペナルティーも細かく決められている。狭くてボロボロのアパートに他のホステスと住み、外出は許可制。マネージャーからの監視もあった。

中島さんによると、偽装結婚で日本に来る多くのフィリピン人ホステスがミカさんと同じような状態にあるという。

「いわゆる"搾取労働"ですよね。日本にさえ連れてきてしまえば、彼女たちは逃げられない。日本語もしゃべれないし、1人ではバスや電車の使い方もわからない。フィリピンに戻ることはできるけれど、帰ればまた貧しい生活に逆戻りです」

このような環境で働く娘たちのことを、フィリピンの家族はどう思っているのだろうか。

遠藤真美

真ん中の姉は「絶対ムリ!」と言って帰った

ミカさんの父親は、日本で働く娘たちのことを「ヒーロー」と呼ぶ。

フィリピンでは、外国で働き口を見つけ、家族に送金できることが勝者の証だという。娘たちからの送金によって、ミカさんの家族は高級住宅街に住み、おいしいものを食べ、働かずに暮らしている。

娘たちが日本でどんな暮らしをしているのか、家族は深く知らない。「心配させたくない」とミカさんもあまり話さないという。

「お父さんは、私がバーみたいなところで働いてると思ってる。真ん中のお姉さんは私の職場を見て、私にはできない、絶対ムリ!って言って帰っちゃった」

いらすとや

2人が家族に送る金額は毎月約10万円。決して安い金額ではない。それでも、家族たちはことあるごとに送金を求めてくる

「家族は助け合うもの、って当たり前のように言われますけど、実際、中にいるとめちゃしんどいんですよ。どんだけ養わなきゃいけないの、って。家族の絆は固いかもしれないけれど、いいことばかりじゃない」

中島さんは話す。フィリピンの家族への上限のない仕送りは彼にとっても頭痛の種だ。

ほぼ毎日働き、給料もピンハネされ、身の自由もない。家族には頼れない。

そんなミカさんの状況を見かねて、中島さんは何度も警察や相談所に行こうと話した。家族にも事情を伝えようとした。だが、そのたびに「バカにしないで」とけんかになってしまったという。

私のこと、「かわいそう」って思ってるでしょ

「ちゃんと働いていればお金はもらえるし、マネージャーも面倒を見てくれる。そんなに言うほど怖くないよ。フィリピンに帰ってもお金は稼げない」

ミカさんは真剣な顔で話す。偽造結婚が犯罪だということも、マネージャーから搾取されていることもわかっている。それでも「ここで働くと決めたのは私」と断言する。

偽装結婚や契約のことに何度も口を出す中島さんを疎ましく思ったこともあるという。

遠藤真美

2人が付き合い始めた当初、中島さんはミカさんがマネージャーに売春を強要されたり、どこかに売り飛ばされたりするのではないかと焦っていた。

「だまされている」彼女が心配で、どうにかしなければ、とばかり考えていたという。

「ミカのことを、かわいそうなフィリピン人だから助けてあげなくちゃいけない、と考えていたんです。でもある時、ミカに私強いよ!と言われて。その時に、彼女は彼女なりに考えて生きてきたんだ。普通の人なんだ、って気づいた」

当時のことを思い出しつつ、中島さんは語る。

フィリピン人ホステスの暮らしはキツい。だが、毎日つらくて悲しいことばかりではない。仕事が終わればパーティーもするし、気に入らないホステスの悪口も言う。ルールを無視して恋だってする。

「外部からのお節介じゃ何も変えられない。フィリピンパブにどっぷり浸かって初めて、ミカたちと僕、どちらの言っていることも正しいと互いに分かってきたんです」

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決めつけないで。ラクをしないで向き合って。

中島さんとミカさんが結婚したのは、ミカさんのビザが切れるタイミングだった。

「ミカと結婚するとき、もちろん周りからは反対されました。でも、彼女のために何ができるかってことを考えたとき、結婚することくらいしか思いつかなかった」

遠藤真美

中島さんはミカさんと出会い、今まで勉強して得た知識だけでは「誰も助けられない」ことを思い知らされたという。

フィリピン人ホステスの置かれた状況を解決するのは難しい。

偽装結婚やホステスの契約が違法行為だからといって規制しても、一番困るのは当の彼女たちだ。日本で働きにくくなるばかりか、違法入国のあっせんがさらに地下に潜り、彼女たちの身に危険が及ぶ可能性も高くなる。だから、本当に困ったことがあっても彼女たちは声をあげ辛い。

また、中島さんは「犯罪」や「売春」といったフィリピン人ホステスへのマイナスイメージが、彼女たちをさらに生き辛くしているという。

「自分の知らない世界や悪だと思っている世界にも人は生きていて、その人たちにとってはそれが普通の世界なんです。だから、誰かにレッテルを張る前に、そこに生きている人たちと向き合って欲しい。ラクして考えるのをやめないで欲しいんです」