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遠藤真美 Headshot

誰でも鬱になりえる社会で働くということ

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「本当に疲れちゃうんです、何にも頑張ってないのに」

取材中、彼女はこの言葉を何度も何度も繰り返した。Aさん(仮名・25歳)は、双極性障害を抱えながら、現在、スーパーのアルバイト店員として働いている。高校時代に、視線恐怖症とうつを発症して以来闘病中だ。

「病気もしんどいし、この社会で生きていくのもしんどいんですよね」そう語る彼女に、精神疾患を抱えながら働くことについて話を聞いた。

うつの原因は「わからない」


――うつや視線恐怖症を発症したのはいつですか?

高校一年生の時です。以前は気にならなかったのですが、学校で急に人の視線が気になりはじめて、視線恐怖症のような状態になりました。視線が気になって黒板も見られなかったので、学校にいる間はずっと机に突っ伏して寝ていましたね。

そのころから、常に「疲れた」と感じるようになったり、だるくて起きられなくなったりと原因不明の体調不良が続きました。何もしていないのにここまで具合が悪くなるのは、何かおかしいと思い、病院に行くと「うつ」だと診断されました。

診断はされたものの、服薬を始めた後も症状が治まることはなく、毎日学校が終わるとすぐ帰って寝ていました。学校にいる時も「帰りたい、寝たい」といつも思っていました。

今でも、症状が重くなると一日中起きられないことがあります。説明し辛い症状なのですが、何の前触れもなく、とにかく疲れて動けなくなってしまうんです。私も本当はフルタイムで働いてみたいのですが、この症状のせいでなかなか一歩が踏み出せないんですよね。


――学校に行くことへのストレスが視線恐怖症や、うつの発症の原因となったのでしょうか?

そうかもしれません。しかし、発症から10年経過した今でも、これといった原因はわからないんです。高校の人たちはみんな「良い人」でしたし、いじめられたこともありませんでした。私はただ、急に視線恐怖症になって、急にうつを発症したんです。

発症した初期は、原因を探ってみたこともありました。しかし、いくら原因探しに躍起になっても、症状は変わらないんですよね。なので、今どう生活していくかということに重点を置いています。

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現在Aさんが服用している薬。

「悲劇のヒロインじゃないよ、悲劇のモブだよ!」


――Aさんの症状に関して、家族はどう捉えているのでしょうか?

一番の理解者は母です。母自身、昔私と同じような症状を発症したことがあるらしく、話も聞いてくれますし、辛いときは休めばいいといってくれます。父とはあまり話しません。

妹も、理解しようとはしてくれていると思いますが、たまにすごく厳しいことを言われます。例えば、うつの症状でとてもつらい気持ちになっている時に「悲劇のヒロインぶってるんじゃないよ」と突き放されたことがありました。

普通の人はもっとがんばっているんだから、そのくらい我慢しなよ、みたいなことを伝えたいのだと思います。でも、こちらとしては悲劇のヒロインのふりをしているわけではなく、うつの症状で、本当にそうなってしまうんですよね。心の中で「私は悲劇のヒロインじゃないよ、悲劇のモブだよ!」と叫んでいます。

普段、妹はとても良い子なんです。ただ、そういう人にちょっと理解が足りないだけ。特に、気分がすぐ落ち込んだり、疲れたりといったうつの症状は、自分で経験してみないとわからないと思います。もし、私がうつを経験していなかったら妹と同じことを言ってしまったかもしれません。本当は、2人がそれぞれ違うところで頑張って、互いを認め合えれば良いのだと思います。


――働くことについて、病院では何と言われていますか?

「働きたいなら働けば?」というスタンスですね。特に止められてはいません。病院に通っているといっても、待ち時間30分の診療時間3分。カウンセリングはほとんどなく、薬をもらいに行っているような感じです。

時には病院に行くことすらしんどいときがあるので、話をしないんだったら、もう薬だけ送ってほしい......。精神疾患の治療は、結局個人作業なんですよね。

また、病院によっては、自分に合った薬を処方してもらえなかったり、流れ作業のような診療をされたりします。私も病院を変えたら、診断名がうつ病から双極性障害に変わり、自分に合った薬を処方してもらえるようになりました。症状も落ち着いてきているので、このまま治まってくれたらいいなあと思います。

強くなれないなら生きてはいけない?


――今まではどんな職場で働いていたのですか?

郵便局の仕分け、ちらしのポスティング、あとはスーパーでの接客業務ですね。フルタイムが難しいので、アルバイトとして勤務しています。しんどさを感じることもあるのですが、今のところは続けられています。


――職場はどうやって見つけたのですか?

アルバイトを探すときと同じです。自宅から通いやすいところにあって、スタッフを募集しているところに申し込みます。あとは、若者をサポートしてくれる団体で、話を聞いてもらうこともあります。そこではうつや引きこもりなど、悩みを抱えている若者のための相談窓口で、就労支援も行っています。


――職場の人に、自分が双極性障害や視線恐怖症だということをカミングアウトしたことはありますか?

ないですね。親しくなった人に聞かれればしてもいいとは思っています。ただ、初対面の人や就職面接の時にカミングアウトはできないですね。

うつなどの精神疾患を抱えている人に対する周りの反応を見ていて思うのが、「何をするかわからない」「普通じゃない」といった患者への恐れが、病気に対する無理解につながっているということです。

普通じゃない、とは思うのに、そこから一歩踏み込んで、どう「普通じゃない」のかを考える人が少なすぎる。

例えばアレルギーをカミングアウトすれば、周囲は「食事には気を付けよう」と配慮したり「何なら食べられる?」と聞いたりしますよね。でも「私うつなんです」とカミングアウトしても、そうはならないことが多い。

あたかもうつがその人自身であるかのように思われ、触れてはいけない話題であるかのように扱われます。精神的疲労などの症状に対しても「もっと頑張れ」とか「周りも頑張っているんだから」と言われる。強くないなら、生きてはいけないの、と聞きたくなります。

特に職場では、少し配慮をすれば問題なく働ける人に対しても、「すぐやめられちゃうかも」「面倒くさい」と一律に対処されることが多いように感じます。精神的な疾患も、肉体的な疾患と同じように捉えられるようになれば、もう少し楽に生きられるのにな......。

「真っ当な理由」で病んでいない


――出勤前や仕事中にうつの症状が出てしまうこともあると思うのですが......

ありますね。精神的疲労が強く、症状が酷いときは、仕事のモチベーションが下がったり、ミスが多くなったりします。周囲にも迷惑をかけてしまうので、そういったときは体調不良や、風邪だといって休んでいます。でも、出来るなら本当の理由を言った上で、職場に納得してもらい、お休みをいただきたいです。ただ、先ほど言ったように、カミングアウトはなかなか難しいので、いつも罪悪感を持ちながら他の理由を使っています。


――精神疾患は目に見えないからこそ、嘘やなまけと見分けがつかないと思われがちです

一般の人が持つ精神疾患に対するイメージが問題だと思います。特に、うつは仕事で大変な思いをした人が患う病気で、それ以外は「なまけ」や「甘え」だと考えられることが多いように感じます。そういう観点から見ると、私って「真っ当な理由」で病んでいないんですよね。だから「なんで普通になれないの?」と思われやすい。

私自身、以前はそう思い込んで自分のことを責めていた時期がありましたし、今でも、周囲からそう考えられていそうで怖いです。でも、よく考えると、そういったイメージって「普通の人」が勝手に決めているレッテルなんですよね。

どんな理由で病気を患ったとしても、症状が辛いことに変わりはありません。周囲からいくら「甘え」だと言われても、病院でいくら「異常なし」だと診断されても、自分が辛いときは辛いし、しんどいときはしんどいのです。人はそういう状況になり得るのだということを、もっと多くの人にわかってほしい。納得はしなくていい、理解してくれるだけでいいんです。

ありきたりだけど、多様性


――自分に対する偏見を感じたことは?

ありますよ。うつの症状は「甘え」、正社員じゃないから「ダメ」。あと、私は小さい頃からよく「おとなしい」「ひとりが好き」だねと言われてきました。そのせいで、母が小学校の先生に注意されたことも。だから、私も小さいころは自分が暗い人間だとずっと思ってきました。

でも、よく考えてみると、それって周りが自分に対して勝手に抱いているイメージでしかなくて。私の中には、確かにおとなしい自分も単独行動が好きな自分もいる。けれど同時に、人と話したり、一緒に楽しんだりすることが大好きな自分もいるんです。

人を枠や型にはめて考えることは、頭を整理したり、話のきっかけを作ったりする場合には有効なのかもしれません。でも、あまりにも枠や型を重視してしまうと、それに入ることが社会の中で「良いこと」かのように認知されて、それ以外の考えを排除してしまうことにつながる。

また、私たちが意識的にせよ、無意識的にせよ、自分を「望まれている形」に合わせ続けることには、必ず無理が生じると思うんです。


――精神疾患に対するイメージと現実のギャップが、働き辛さにつながることはわかりました。では、精神疾患を抱えながら働く人にとって、働きやすい職場には何が必要だと思いますか?

うーん。ありきたりですけれど、雇用者側が精神疾患についての正しい知識を持つこと、もっと多様な生き方や、働き方があるということを、多くの人が知っていくことだと思います。

これは精神疾患に対するイメージだけに当てはまることではないと思いますが、今、様々な職場で、知識不足によるつまらない偏見や、人を枠や型に当てはめて判断する風潮が、仕事の能力を決める指針となってしまっています。

例えば、働いていると「若いから体力あるでしょ」とか、「女性だから子供欲しいでしょ」と言われることがあります。でも、若いからといって体力がある人ばかりではないし、子供を望まない女性だっているはずです。

~だから~なるはずだ、という型を通して人を見るのではなく、目の前の人がどんな人なのかをもっと考えて欲しい。特に、精神疾患を抱えている人は、病気を自分のせいだと捉えがちです。そんな時、病気のことを理解してくれる人が一人でもいれば、気分はかなり楽になりますし、余裕を持って働くことができます。

精神疾患を含めた、多様な働き方がもっと広まればいいなと思っています。そうしたら、私ももう少し長く働けるかもしれません。

厚生労働省の調査によると、平成26年、日本におけるうつ病などの気分障害の総患者数が111万6000人を突破し、過去最高となった。

年を追うごとに増加するうつ病などの精神疾患は、現代を生きる私たちにとってもはや他人事ではない。「心の病」とひとくくりにされがちな精神疾患だが、私たちは今までどれだけその症状や、背景を理解しようとしてきただろうか。