「なんとなく」地下アイドルを選ぶ少女たち “やりたいことなんてない”と承認欲求のあいだ

彼女たちはなぜ「地下アイドルになりたい」と願うのだろうか。

「地下アイドルって、今、誰でもなれるんですよね」

世間話をするかのような気楽さで、姫乃たまさんは言い切った。

つるんとまとまった髪、白くて細い指。ふわっとやわらかい、けれどよく通る声が耳に心地良く響く。大きな目に見つめられて、緊張で手が震える。

地下アイドルの姫乃たまさん
地下アイドルの姫乃たまさん
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彼女は大手事務所に所属することなく、小さなライブハウスやクラブで活動を続ける「地下アイドル」だ。

現在、全国では数えきれないほどの地下アイドルが活動している。多くが女性で、平均年齢は21.6歳。活動を始め「卒業」していくまでの年数は約3年だという。

彼女たちはなぜ「地下アイドルになりたい」と願うのだろうか。

2017年9月、地下アイドルの実態に迫った新書『職業としての地下アイドル』を出版した姫乃さんは、彼女たちの多くが「なんとなく」地下アイドルを目指し、活動していると分析する。

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よくわかんないけど、とりあえず地下アイドルかな。

「地下アイドルたちに活動を始めたきっかけを聞くと、"なんとなくの好奇心"と答えた子が一番多かったんですよね。地下アイドルっていうと、音楽業界や芸能界でのメジャーデビューのような「地上」で活躍することを目指し、"絶対にアイドルになってやる!" と息巻く、野心の塊みたいな女の子たちの集まりだと思われがちだけど、実は全員がそうというわけでもない」

地下アイドルになる間口はとても広い。歌やダンスの経験は不問。自称すれば、誰でも簡単に地下デビューができる。

「地下」に足を踏み入れるのは、人並みに好奇心や承認欲求を持つ、いたって「普通」の若者たちだ。

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地下アイドル界は「人気者になりたい」「ちやほやされたい」「若いうちにしかできないことがしたい」といった欲求を昇華させる働きをしている、と姫乃さんはいう。

地下アイドルになれるからなった、それだけ。

姫乃さん自身も「なんとなく」活動を始めた地下アイドルの一人だ。知り合いの地下アイドルに誘われてイベントに出演したことがきっかけで、地下に足を踏み入れることとなった。

「彼女たちの中には、自分のやりたいことや将来なりたいものがよくわからないから"とりあえず"地下活動してみようかな、という子がたくさんいます。昔はオーディションを勝ち残って、メディアや視聴者から選ばれた子がアイドルになっていたけど今は違う。アイドルでいることを自分で選択できる時代になったんです」

目標は「とにかく有名になること!」

「地下アイドルたちに活動の目標を尋ねると"有名になること""売れること"っていう返事が多いんですよ。でも、そう話す彼女たちのほとんどは、何をもって有名と考えるのか、どうやったら売れたことになるのか、明確なビジョンをもってないみたいで...」

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「なんとなく」活動を始めた地下アイドルたちは、"人気者になりたい"といった、あいまいで高い目標を立てる傾向があると姫乃さんは分析する。

こうした地下アイドルたちに共通するのは「今と違った自分にならなきゃ」という焦りだ。

「地下アイドルの中には、日常に不満を持つ子が多くいます。学校でいじめられていたり、居場所を見つけられなかったりと、自分が周りの人々から認められていないと感じている。有名になりたい!という彼女たちの話を掘り下げていくと、地下アイドルとして人気者になることで、本当に認めて欲しかったけれど、自分を認めてくれなかった人たちを見返したい、と話す子が多いんです」

底なしに「がんばる」地下アイドルたち

「地下アイドル」という肩書きは、彼女たちが抱える他者からの承認不足や失っていたアイデンティティーを一時的に取り戻してくれる。

ファンからの承認や取り戻した自信、あるかもしれない地上デビューへのチャンスを逃すまいとする期待が過ぎれば、依頼された仕事を何でも受け入れ、底なしに「がんばる」地下アイドルを生む。

「彼女たちの中にはお金を稼ぐことよりも、地下活動を経験することの方が大切だと考えている人もいます。人気者になる可能性を探して活動しているだけで、お金は二の次といったような。女の子からはっきりと、活動は"プライスレス"だと言われたこともあります」

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姫乃さんの調べによると、地下アイドルの平均月収は約12万円。学生や正社員と兼業する地下アイドルたちが全体の約6割を占めていたものの、この収入で生活を成り立たせるのは難しい。

「地下アイドル界はよく"やりがい搾取"が問題だとされますが、収入よりも承認欲求を満たすことを優先しがちになる環境だからかもしれません」

疲れたな、辞めたいな...でもライブは楽しい!

実は、姫乃さんも高すぎる目標を自分に課し「頑張りすぎて」しまった経験を持つ。

「地下アイドルって本当に忙しいんです。新人の子もどんどん入ってくるし、ファンから応援し続けてもらうために次から次へとやることが押し寄せてくる。普段の仕事や学業に加えて、ライブとか人気投票とか、とにかく忙しくて、目先のことにとらわれちゃう。油断してると、自分のやりたいことよりやれること、今売れることを優先しちゃうんです」

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地下アイドルは短期勝負だ。

星の数ほどいる地下アイドルたちの中で認知度を上げるため、彼女たちは日々ライブにレッスン、集客と、常に全力で地下活動と向き合うことが求められる。

新人アイドルがこなすライブの数は月10~20本。プライベートの時間はほとんどない。

「活動に悩んで、"なんで地下アイドル続けてるんだろう"、"疲れたな、辞めたいな"って思っている子もいっぱいいると思います。でもライブやイベント自体は楽しいし、アドレナリンも出るから一瞬疲れも飛んじゃう。結局、心に抱えた不安がうやむやになっちゃうんです」

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不安でたまらないのは「売れてないから!」

「過労で倒れる前の私は勝手に客層の好みを想像して、"ファン世代のカルチャーに興味のあるちょっと変わった女の子"みたいなキャラをとりあえず演じていました。内心は罪悪感と自分がどうなりたいのかがわからない不安でいっぱい。目の前のライブやイベントに打ち込むことで、自分自身と向き合うことから逃げていたんです」

"将来のため""売れるため"と考えつつも、目先の目標にとらわれて方向性を見失い、疲弊して辞めていく地下アイドルは後を絶たない。

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姫乃さんは、地下アイドルたちがライブやCDの売り上げ、人気投票といった「目先の目標」に没頭することで、不安感や心の痛みから目をそらそうとしている、とも指摘する。

「不安なのは"売れてないから"だって思っちゃうんです。以前の私も、がむしゃらに頑張れば心の違和感がなくなって、将来は幸せになれるはずだと思い込んでいた節があります。でも、自分にとっての成功の形がわかっていないのに、将来への不安が消えるはずなかったんです」

いつでも辞められる、けど「何度でも戻ってくる」

地下活動は「明日にでも辞められる」ことだと姫乃さんはいう。

実際、進学や就職、事務所トラブルなど、彼女たちはさまざまな理由で地下アイドルから「卒業」していく。初ライブ前に辞めてしまう地下アイドルもいる。

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だが、非日常感満載の地下アイドルを卒業した彼女たち全員が、元いた「日常」に戻れるわけではない。

「ライブの高揚感とかファンのこととか、ある時ふっと思い出すみたいなんですよ。自分が抱えたもやもやを発散できず、心のやり場が見つけられなかった人たちは、事務所を変え、芸名を変え、何度でも地下アイドルの世界に戻ってくる。私も一度はこの活動を辞めましたが、自分の悩みをうやむやにしたままだったので、結局戻ってきちゃいました」

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地下アイドルに「あるべき姿」はない

「地下アイドルって人と違っている部分が価値になる仕事なので、一時は業界全体がとにかく奇抜で目立つ方向に走りがちな傾向にありました。こうすれば売れる!っていう正解もないからいつも不安だし、自分の望む成功の形がわかっていなければ、とりあえず周りの言うことを聞いておこうかってなる人が多い」

地下アイドルは、自分のちょっと得意なことを気軽に表現できるからこそ面白い、と姫乃さんはいう。だが、そのためには周囲に何を発信したいのか、自分のアピールポイントはどこなのかを自覚している必要がある。

「地下アイドルになったとしても、今と全く違う自分になんてなれないんです。だから、誰かのために作った"仮の自分"に依存して身を削り続けるよりも、もっと自分の心の声を聞いて今を充実させ、周りとの関係性を構築した方が良い。人って一人ひとり違うから、素の自分でいられることが一番の強みになるんです」

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やりたいこともないし、地下アイドルとしての覚悟もない。だからこそ

地下アイドルは過酷な仕事だ。常に一生懸命かつ個性的であることを求められ、他人と比較される。体力的にも精神的にもタフでいることを求められ、収入はいまいち。心無い言葉や過剰な期待をかけられることもある。

だが、「地下アイドルになりたい」と願う彼女たちは、そんな厳しさに気付きつつも、自己実現や暇つぶし、他者からの承認の充足、趣味やお金儲け、受け止めきれない現実からの避難など、自分の欲求に合わせて「地下アイドル」を使っている。

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理想の自分や目の前の現実との間で葛藤し、もまれながら、社会と自分をつなげていく方法を探っている。

そして、自分のあり方を社会の中に発見し、「地下アイドル」でいることが必要でなくなった時、彼女たちは地下アイドルから卒業していくのかもしれない。

今、姫乃さんは「がんばらない地下アイドル」として活動している。身の丈に合ったがんばり方をすることで、日常の延長線上に自分の居場所を見つけられたという。

「私にはやりたいことやなりたいものが今も昔も全然ないし、これが好きっていうこともないんです。地下アイドルとして生き抜いてやる!っていう覚悟もない。でも、そんな私だからこそできることがあるみたいなんです」

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