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Manfred Stelz Headshot

前途多難な僕らの巡礼の旅がはじまった。

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世界でもっとも有名な巡礼地のひとつである、スペイン北西部のキリスト教の聖地サンティアゴ・デ・コンポステーラ。

日本人女性と結婚し、ハネムーン代わりにそのサンティアゴを目指して巡礼路を歩くことにした、ドイツ人のマンフレッド・シュテルツ氏の手記をお届けしています。

巡礼のスタート地点を目指してミュンヘンを出発。経由地であるパリで目覚めた朝から、今回の手記ははじまります。

1st day 〈Saint Jean Pied de Port → Orisson, 8.0km〉


どうしてだか寝苦しくて、朝の2時、3時、5時と何度も目が覚めて、5時半になったところでとうとうあきらめてベッドから抜け出した。電気をつけると、すぐに不快の原因がわかった。僕たちはなんと大量の蟻と一緒に寝ていたんだ!

奴らはベッドや、荷物のまわり、だけじゃなくて中にも列を作って入りこんでいる。昨晩捨てたバナナの皮の上でも忙しく朝食中だ。ああ、これでようやく本当に目が覚めた! 蟻を払いながらパッキングをして、さあ、オカエリ、じゃなくて、イッテキマス!

パリのモンパルナス駅では、すでに多くの人たちがそれぞれの列車を待っていた。駅のスタンドでクロワッサンとコーヒーを買い、隣の人にごめんなさいを言いながらベンチにお尻をねじ込んで、人ごみの中で食べた。

僕はTGV*に乗れることに興奮していた。しかも、奮発して予約したファーストクラスだ。発車間際のアナウンスがあり、車両に乗り込み席を見つけて座った。発車してほどなくパリを抜け、草原が広がった。時速は320km。まずはバイヨンヌまで5時間の旅だ。
*フランス国鉄が運行する高速鉄道

フランスの広大な土地は森と草原に覆われていて、窓の外は素晴らしい景色だ。しかし僕は口を開けて眠っている妻の顔を見つめ続けている。しかし日本人が電車内で眠りこけるとき、ぽかんと口を開けるのはどうしてだろう? きっと日本人は皆疲れているんだろう。僕にも経験があるけど、日本で働くというのは本当に大変なことだ。

バイヨンヌ駅に到着した。しかしほかの到着列車にトラブルがあったようで、警察がなにやら車両をチェックしている。そのために僕らは列車の中で30分ほど待たなくてはならなかった。気を取り直してさあ、バイヨンヌだ。

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次のサン・ジャン・ピエ・ド・ポー行きの列車が出るまで1時間半ある。だが、駅に置かれていた手書きの立て看板によると、今日は列車の代わりにバスが出る、とある。僕はなんだか嫌な予感がした。

軽くランチを食べた後バス停へ向かおうとすると、いったい街のどこに潜んでいたのか、同じくサン・ジャン・ピエ・ド・ポーへ向かうのであろうすごい数の旅人たちが今朝の蟻みたいに集まってきた。空のバスが到着したが、運転手の姿があるだけで、スタッフからの案内はなにもない。

皆がわれ先にとバスのトランクにバックパックを押し込んで、次々と僕たちの前に横入りをしてくる。僕はそれがちょっと悲しくて、同時に自分の紳士さ加減にも腹が立った。もちろん列車のほうはドイツから予約済みでちゃんとチケットも持っていたけれど、バス内はもう満席のように見え、無事乗れるのだろうかと不安になる。

しかし幸運なことにぎりぎりで席を確保できた。でも、残り6、7人の人たちを置き去りにして、バスはそのまま発車してしまった。今日出るバスはこの1本だけのはずだ。彼らはひと晩バイヨンヌに宿泊しなくてはならないのだろうか。

日本だったらぜったいにこんなことは起こらないだろう。さっきの車両トラブルといい、フランスの交通事情ときたらまったく狂ってる!(まあ、ドイツ鉄道もストライキやら遅延やら、自慢できたものではないけど。それに比べてJRは、僕にとって理想の鉄道会社だ)

バスに1時間ほど揺られている最中、たまたま隣に座ったドイツ人男性が話しかけてきて、少しだけ情報交換をした。後ろの席の妻は、韓国人と思しき女性とそっぽを向きあったままだ。妻は断固として否定するけれど、やっぱり韓国人と日本人はあまり相性が良くなさそうに見える。

サン・ジャン・ピエ・ド・ポーに到着。観光客の姿であふれている。でも僕たちは観光に来たわけではない。旅人たちが列を作っているカミーノのオフィスを見つけて並び、クレデンシャル*にひとつめのスタンプを押してもらった。

*サンティアゴ巡礼路公式の巡礼手帳のこと

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予約済みの今晩の宿は、ここから2時間ほど歩いた先にあるらしい。さあ、いよいよ出発だ!

年代物の門をくぐって、橋をわたった。時間はすでに夕方4時半。僕たちはカミーノの道しるべに従った。道は突然急になり、歩く速度がぐっと落ちたけど、天気は完璧だ。

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ほどなくして舗装されていない山道に入った。幾人かのカップルが先に歩いているのが遠く見える。

僕たちは歩き続け、息が上がり、すっかり汗だくになった。妻はすごい! 彼女の足取りは軽く、まだまだ余力がありそうだ。そして最高の景色。

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1時間半ほど歩いたがまだ元気だ。間もなくの日没に少し焦りながら、それからいくつめかの角を曲がると、ジャーン! あった。今夜の宿「リフュージュ・オリソン」は、なかなか愛らしい外観だ。扉をくぐるとすぐそこは光に満ちた食堂で、すでに30、40人の旅人たちが席について食事中だった。

宿の女性主人からあたたかい歓迎を受け、クルデンシャルにスタンプを押してもらい、まずはともかく席に座り夕食にすることになった。野菜スープに、豆が添えられた豚肉、パン、りんごのケーキ、赤ワインに水。最高のひととき。

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しばらくすると、女性主人が皆にひとりずつ立ち上がって自己紹介をするようにうながした。中ではアメリカ人が一番多く、ある日本人男性はすでに6週間も旅を続けていると語った。僕たちの隣に座っていたのはなんと同じミュンヘンからの若いドイツ人だった。僕たちが「ハネムーン代わりにカミーノを歩いている」と簡単に自己紹介をすると、食堂が軽くどよめいた。

食事を終えるとスタッフが部屋に案内してくれた。わあ、2ベッドの個室じゃないか! 正直言ってパリのホテルより、ずっといい。蟻も... うん、いないようだ。今夜はきっとよく眠れるはずだ。

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前日の手記を読む。

※この手記は、妻で編集者の溝口シュテルツ真帆が翻訳したものです。妻の手記はnoteで公開しています。