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Manfred Stelz Headshot

【スペイン・サンティアゴ巡礼】 "元NATO軍中佐"との奇妙な出会い

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世界でもっとも有名な巡礼地のひとつである、スペイン北西部のキリスト教の聖地サンティアゴ・デ・コンポステーラ。

日本人女性と結婚し、ハネムーン代わりにそのサンティアゴを目指して巡礼路を歩くことにした、ドイツ人のマンフレッド・シュテルツ氏の手記をお届けしています。

他の巡礼者たちとの交流もサンティアゴ巡礼の醍醐味ですが、この日出会った人物はほかの旅人たちとはちょっと様子が違っていて......?

8th day 〈Viana → Navarrete, 22.4km〉


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20km強を歩いて到着したナバレッテは古く、可愛らしい街だった。1泊9€のなかなか居心地のよさそうなアルベルゲ*を見つけてチェックインすると、オーナーの女性が、計6名が泊まれる離れのような建物へと僕たちを案内してくれた。バスルームがふたつと、小さなキッチン......うん完璧だ! オーナーに洗濯物を干すための紐を借りて、僕たちはいつも通りせっせと洗濯をした。
*サンティアゴ巡礼者専用の宿

ところで、このアルベルゲに到着する少し前に、僕たちは異常に体格のいい、ちょっと妙な雰囲気のドイツ人に話しかけられた。彼はベルリン出身で、サンティアゴ・デ・コンポステーラに到着したあと、来た道を再び歩いて戻っているのだと言う。10週間、すでに1,500kmを歩き続けている、とこちらが尋ねもしないのに語ってくれた。

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僕は今アルベルゲのキッチンに座ってこの日記を書いているが、ドアが開いていて、向こうにそのベルリーナーの姿が見える。どうやら今日は同じ宿にご宿泊のようだが......げっ、こっちへやって来た。ハロー、アゲイン。

ふう。彼は迷うことなく僕に向かって話しかけてきて、そして長ああああああああああいおしゃべりが始まってしまった(僕は日記を書く手を休めなければならず、おかげでここからは翌日の宿にて書く羽目になっている)。

彼は元NATO軍の中佐で、現在は63歳。2010年に退役し、それからずっと、巡礼の旅を続けているのだと言う(僕がさきほど彼に感じた、ほかの旅人たちとはちょっと違った雰囲気は、兵士がまとう警戒心のようなものだったのだろうか)。今回は4回目のカミーノ*で、2ヶ月前に激しく雪が降るフランスをスタート、サンティアゴ・デ・コンポステーラよりさらに先、大西洋に面したフィネステラまで行き、そして今、同じ道を歩いて戻っているところだそうだ。
*サンティアゴ巡礼の通称

彼はこの街からバスに乗りたいと考えているそうだが、あいにくクレジットカードが馬鹿になってしまっていて、手持ちがないのだと言うが......それは僕にお金を貸してくれと言っているのか?

彼は、クレデンシャル*に押されたたくさんのスタンプを見せてくれた。わお、なんて数だ。続けて彼は、怪しい者ではないと示すように、NATOの身分証明書も提示してきた。その後も、ソマリア、バルカン半島、アフガニスタンなど、彼が"訪れた"国々についての話が続いた。訪れた、といっても、きっと戦いの日々だったのだろう。彼の肉体はたくましく、指はほとんど僕の腕みたいだった。彼はきっと、僕の首なんか片手でへし折れるに違いない。
*巡礼者が携帯する巡礼の証明書

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僕たち、いや彼は、ほかの旅人たちがベッドに入ってしまった後も話し続けた。僕も疲れていて、もう眠りたかったけれど、会話を終わらせるのは簡単じゃなかった。

彼は僕に、28年間の軍生活を終え、自分にはもうなにも残されていないと語った。僕は次第にこの男を信用し始めていた。彼は大きく、強い男で、何ヶ国語も話せるが、話し相手は誰もいないようだった。巡礼路をひとり行ったり来たりしている彼の孤独に思いをはせるのは......やめておこう。

彼は再び、お金が下ろせなくて困っている話を始めた。OK、1分でも早くベッドに入りたかった僕は降参して50€を彼に手渡すと、彼は僕のアカウントに必ず振り込むと約束をした。念のため、僕は彼のパスポートを確認し、そのデータを書きとっておいた。

ああ、なんだか変な夜だった。

そうそう、彼の名前を書き忘れていた。マイクだ。元軍人のマイク、どうぞこの先もよい旅を。僕はあなたがよりよい道を見つけることを祈っている(そして僕が50€を取り戻すことも)。

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※この手記は、妻で編集者の溝口シュテルツ真帆が翻訳したものです。妻の手記はnoteで公開しています。