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Manfred Stelz Headshot

フランスからスペインへ、国境とピレネーを越えて僕らは巡礼路を歩き続けた。

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世界でもっとも有名な巡礼地のひとつである、スペイン北西部のキリスト教の聖地サンティアゴ・デ・コンポステーラ。

日本人女性と結婚し、ハネムーン代わりにそのサンティアゴを目指して巡礼路を歩くことにした、ドイツ人のマンフレッド・シュテルツ氏の手記をお届けしています。

巡礼2日目にして、最難所ともいわれるピレネー越え。雨の中歩き出したふたりは果たして......?

2nd day 〈Orisson → Espinal, 23.4km〉


なんて日だ! 

僕たちは朝6時半に起きてパッキングを済ませ、朝食をとるためダイニングルームに向かった。フランス式にボウルに入ったカフェオレを飲んで、バターとジャムを塗ったバゲットを食べた。

一緒に座ったほかの旅人たちと他愛ない会話を交わす。バイヨンヌのバス停でも見かけた若くてとてもハンサムな男性が、ひとりさっそうと準備をして旅立って行った。僕もあんな風にできたらいいんだけど、でも、カフェオレをもう1杯......。

そうこうしている間に雲行きが怪しくなって、気温がぐっと下がり、雨が降りだした。僕たちはバックパックに雨除けのカバーかぶせて、レインウェアを着て出発した。

ふと妻を見て驚いた。スゴイ!バックパックのカバーも、レインウェアもほとんど同じ明るい黄緑色だ。全身をごわごわした黄緑色に包んで石ころ道を黙々と歩き続ける彼女は、まるで宇宙飛行士みたいだ。

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ひたすら山道を登る。なかなかいいスピードだ。小さなマリア像のある交差道で、少し休憩をして記念撮影......。

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そしてまた歩き続ける。オリソンの宿で一緒だった旅人たちが前に後ろにたくさんいて、この巡礼路独特の「ブエン・カミーノ!」という挨拶を交わし合う。僕はまだ照れくさくて、それを大声で言うことができない。

雨はますます強くなるが、先に進むしかない。視界は悪く、雲が行く手の山頂を覆い出した。すぐ僕らのところへもやって来るだろう。

予想通り霧が濃くなり、さらに雨が強くなり、おまけに風も吹き出した。でも僕らはとにかく歩き続けた。

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おや?あそこに見えるのはなんだろう?ああ、残りのキロメートル数を記したマイルストーンだ。なになに、サンティアゴ・デ・コンポステーラまで残り765kmだってさ!

道はこれ以上ないってくらいぬかるんで、足をとられないように気を付けて歩かなければならなかった。レインウェアの防水力がいまいちで、雨が僕のパンツまですっかり濡らしてしまった。でもほら見て!もうスペインとの国境だ。

道が二手にわかれていて、僕たちは森のなかを行く道を選んだ。よかった、木が少しだけ風雨を遮ってくれて歩きやすい。かくしゃくとした60代くらいの2人組の男性を追い抜いて、最高標高の1430mに達したが、残念ながら視界はゼロ。木の下で雨宿りをしながら軽くスナックを食べ、先を急ぐ。

道は急な下り坂になった。大きな石ころがごろごろしているので、足元が悪く危ない。ああ、気を付けて!妻がほとんど転ぶところだった。でも、僕は本当に彼女を誇りに思った。東京で髪を振り乱して働いていたころの彼女からは想像もつかないような立派なハイカーだ。

この山越えでリタイアをする人も少なくないらしい。それどころか、途上で倒れ、そのまま命を落とす人もいると聞く。その通り、道ばたにはこんな石のプレートが設置されていた。ブラジルから来た旅人、ジルベルト・ジャネリ(呼び方は合っているかな?)。

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いつ終わるとも知れない下り道を行く。雨のせいで、道はほとんど小川のようになっている。休憩をしている間に追い抜かれた先ほどの2人組の男性の背中を追っていたら、危ない!男性の1人が足を滑らせて転倒して尻餅をついてしまった。杖も折れてしまっている。しかし、幸運なことに怪我はなかったようだ。それでも、ずいぶん膝をがくがくいわせている。

巡礼2日目にしてこんな難所があるなんて、カミーノも甘くない。僕たちの足取りもずいぶん重くなり、それに濡れたパンツもとっても気持ち悪い。

しかし、待ちに待った町のサインだ!ロンセスバージェスまで500m!森を抜けると、ついに修道院の姿が見えた。妻は今日一番のニコニコ顔だ。

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ガイドブックには、ここで昼食をとれるとある。僕たちは扉を押してほかの旅人たちに倣って広間に入り、濡れたレインコートを脱いで(パンツも替えて)、ようやく腰かけた。

カウンターでクレデンシャル*にスタンプを押してもらい、11ユーロでランチのチケットを買った。時間は12時50分。僕たちがスタートしたのが8時前だったから、ほとんど5時間、歩き続けたことになる。
*サンティアゴ巡礼路公式の巡礼手帳のこと

ランチはベーコンが入った煮豆と、ポークソテーとフライドポテト。

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昼からだけど、ワインも飲んだ。いつも通り、妻は顔を真っ赤にして喜んでいる。

ここで宿を取る旅人たちも多いようだけど、僕たちはもう少し先に進むことにして、ふたたび雨の中に飛び出した。

休憩のおかげですっかり元気だ。雨は小降りになり、小川が流れるすてきなエリアを歩いた。ほかの旅人たちはいったいどこに消えたんだろう?まわりにはひとっこひとりいなくて、僕たちの足音だけが響く。いい気分だ。

今日の目的地に設定したエスピナルという村に着いた。雨だし、そろそろ疲れたしで、最初に目についた宿を訪ねるが、応答がない。入口につながれた小さな2匹の犬が、悲しそうな目で僕らを見上げるだけだ。

もう少し村に入り込んで、次の宿にトライする。ベルを鳴らすと、「マダム」と呼びたいような女性が現れた。英語を話さないようだったので、眠るポーズをしてみる。OK?OKのようだ、よかった!

僕たちはマダムが持ってきてくれた新聞紙の上でずぶ濡れの靴とレインウェアを脱いだ。なかなか瀟洒な宿だ。

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マダムが食事について尋ねているようだったので、妻と相談して、さきほどのランチがしっかりお腹に残っていたので夕食はパスして、朝食だけをお願いした。

宿にはほかに誰もいなくて、静かで、部屋は個室だった。シャワーを浴びて、いくつか手洗いで洗濯をしたけれど、困った、干す場所がない。すると妻がバックパックから紐を取り出して部屋に張った。そこにひっかけておけというわけだ。さすがだ!

僕たちはヘーゼルナッツチョコレートを食べて水を飲んだ。少し外を歩こうかとも思ったけれど、雨が降り続いていたし、部屋で過ごすことにした。

妻は例によって冷え切っていて、僕は彼女の冷たい指と足をこすって温めてあげた。足が少し痛むそうだ。ひどくならなければいいのだけれど。

僕たちはすっかり疲れ切っていて、まだ夜の7時だというのに、ほとんど眠ってしまいそうだった。

おっと、時間があるせいで書きすぎてしまった。今日はこれで終わりにしよう。明日は青い空の下を歩けますように。

前日の手記を読む。

※この手記は、妻で編集者の溝口シュテルツ真帆が翻訳したものです。妻の手記はnoteで公開しています。