アパルトマンの窓の向こうにある日常が美しい パリで写真展が開催中

パリに住み始めたとき、日本との違いに驚いたひとつがアパルトマンにカーテンをしない人が多いことでした。

日本では、マンションでも一軒家でも、家に帰って最初にすることは部屋のカーテンを閉めることではないでしょうか。パリに住み始めたとき、日本との違いに驚いたひとつがアパルトマンにカーテンをしない人が多いことでした。

さすがに寝室にはカーテンがありますし、シャッターを下げたりしますが居間にはほとんどありません。あっても閉めない場合も多いのです。

特に夜になると窓の灯りの向こうに、ソファに座ってテレビを見ていたり、キッチンの食事の準備をする人が丸見え。ですから、のぞくつもりがなくても、見えてしまうのです。偶然でも見てしまったこちらが申し訳なくなりますが、フランス人はあまり人の目は気にしていないようです。

アパルトマンに住まう人たちを窓の外から撮影し続けているのが、1970年生まれのアメリカ人女性写真家ゲイル・アルバート・ハラバン。ニューヨークの窓を撮影した『Out of Windows』(窓の外)に続き、パリで撮影した写真集『Vis-à-vis』(正面に)を昨年11月に発売。現在、パリ15区のギャラリーで展覧会が開かれています。

Bis Rue de Douai, Paris, 9eme, le 19 mai 2013© Gail Albert Halaban, Courtesy Galerie Esther Woerdehoff

こちらはパリの9区で撮影された作品。窓の中は、自分だけの、家族だけのプライベートで親密な空間。この女性は、誰と、どんな生活をしているのだろうとつい想像が広がります。同時にパリらしい煙突のあるアパルトマンの屋根、空、風景へと視線が広がっていきます。

パリで撮影された作品のうち展覧会で発表されているのはこの1点だけでしたが、写真集に登場するのは、ソファで遊ぶこともたち、おなかを見つめる妊婦、シャワーを浴びたばかりの女性、掃除機をかける男性、食事をしているネクタイ姿の男性たちなど様々。

窓の中を"のぞく"シチュエーションといえば、ヒッチコックの有名な映画『裏窓』。好奇心と罪悪感が交じりあう行動ではありますが、彼女の写真を見ていると"窓の中"は都会に住まう人たちの人生や人間模様が現れた場所のひとつなのだと思えてきます。

ちなみにゲイル・アルバート・ハラバンは"盗撮"しているのではなく、撮影する場所を決めて住民にコンタクトし、許可を得て、ポーズをとって撮影しているそう。だから劇の舞台を見ているような仕上がりなのですね。

このほか展覧会には、ニューヨークで写した作品が展示されています。

Midtown East, 57 East 57th Street, into the Four Seasons, 2010© Gail Albert Halaban, Courtesy Galerie Esther Woerdehoff

West 26th Street between Broadway and 6th Avenue, Dance Studio, 2009© Gail Albert Halaban, Courtesy Galerie Esther Woerdehoff

ゲイル・アルバート・ハラバンの写真展を目的にギャラリーを訪れたのですが、同時に開かれていたフランス人作家エレーヌ・ウスディンの『Femmes d'intérieur』(室内の女性たち)シリーズも、着眼点が興味深いものでした。

ラファエル、アングル、バルテュスといった有名な男性画家たちが描いた女性像を、現代のアパルトマンの室内の写真と合体。エレーヌ・ウスディンはこれを女性の"ロールプレイング"と表現していて、単なる室内の飾りやオブジェではない、女性の地位や役割をあらためて考えるきっかけにしたいのだそうです。

L'Infante d'après Velasquez, 2014© Gail Albert Halaban, Courtesy Galerie Esther Woerdehoff

Garance d'après Raphaël, 2014© Gail Albert Halaban, Courtesy Galerie Esther Woerdehoff

アパルトマンの"室内"を独自の視点で切り取る2人の女性アーティスト。小さなギャラリーですが、期間中にパリにいらっしゃる方はぜひ訪れてみてください。

展示会情報

Gail Albert Halaban : Out my Window, Vis à Vis

Elene Usdin : Femmes d'intérieur

2015年5月2日まで

場所:Galerie Esther Woerdehoff

住所:36 rue Falguière, 75015 Paris

火曜~土曜 14時~18時

ライター/三富千秋

パリ在住のフリーライター。パンや菓子、料理など食の話題を中心に雑誌や食専門誌に発信しているほか、フランス人のライフスタイルについてのコラムも執筆。フランス人の日常生活をさらに知るべく、フランス各地で取材中。

パリに関するコラムはこちらもどうぞ