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[ 新専門医制度 ] 制度の再検討と再構築をぜひ嘉山氏にお願いしたい

2017年06月23日 16時25分 JST

毎日新聞の6月4日版に、愛知県安城更生病院副院長の安藤哲朗氏と日本脳神経外科学会理事長で山形大学学長特別顧問、嘉山孝正氏のインタビューが掲載されていた。新専門医制度に対する意見だ。

https://mainichi.jp/articles/20170604/ddm/016/040/010000c

安藤氏の論考は筆者の意見とほぼ同じである。一方で嘉山氏の言にも肯くところがあった。特に「機構は(中略)専門医を目指す医師の勉強の質を保つべきである」という意見には全面的に賛同する。新専門医制度では医師の勉強の質を保てるとは全く思えないからだ。

また氏は「私は新制度の推進論者ではない」ともいう。これを読み、ひょっとしたら氏が制度の改革を進めてくれるのではないか、と期待したむきも多いと思う。

しかし気になる噂が聞こえてきた。国立医学部長会議が筋違いの相手である「全国市長会」に、それも的外れの反論文書を送り付けてきた件である。https://www.m3.com/news/iryoishin/529509

実はこの文書を作製、送付に至った際の会議において、主に発言をしていたのが嘉山氏だったというのだ。

しかも嘉山氏は「(新制度反対派の全国市長会、相馬市長の)立谷さんは官房長官と近くて困る」、「塩崎大臣が内閣改造でいなくなれば、新制度を進めやすくなる」などとも発言したという。

ある医学部長は「立場の弱い自分たちの発言は無視されてしまう」とこぼしたそうだ。

にわかには信じがたい内容である。

嘉山氏は山形大学医学部長、国立がん研究センター初代理事長を歴任し、現在も日本脳神経外科学会理事長、国立大学医学部長会議相談役、山形大学学長特別補佐など多数のポストを務める日本医療界の重鎮である。その言葉は重い。

例えば、日本医療安全調査機構の運営委員会で議論が暴走しかけた際には、氏の正義感あふれる発言が抑制的に働いた。それに比べると医学部長会議での発言には違和感を覚えざるを得ない。個人的には何かの間違いだと思いたい。

ところがさらに首をかしげる報道が6月7日に入ってきた。日本脳神経外科学会専門医制度50周年記念の会に、吉村日本専門機構理事長が招かれ「(脳神経外科学会は)模範となるような極めてレベルの高い専門医制度を構築してきた」と絶賛したという。

https://mainichi.jp/articles/20170607/ddm/016/040/029000c

この記事を読み、筆者のアタマは混乱し説明する言葉をうまくみつけられなかった。利益相反?自画自賛?いや他画他賛か?応援演説?ずるずるべったり・・・?いずれにせよ脳神経外科専門医の制度は吉村氏にとって都合のいいものであることは間違いないところであろう。

冒頭の毎日新聞の記事に戻る。嘉山氏は山形県の取り組みなどの具体的な事例を挙げ、山形県では新制度の影響はない、と説明している。しかし例えば、安藤氏のいる愛知県と山形県では医療事情が全く異なる。

愛知県は意外にも人口十万人当たりの医師数が192.1人と、山形県の203.1人よりも少ないのである(厚労省の資料より)。また歴史的経緯から名古屋市の救急を支えているのは主に3-5年目の市中病院・後期研修医であるという。

中小の市中病院から後期研修医が「基幹施設」に引き剥がされると、名古屋市の救急は破綻するともささやかれているのだ。

全国を見渡せば容易にわかるが、地方、地域の特色と医療の発達史は複雑に絡み合っているものだ。そこに統一基準を押し付けられると、医療崩壊を招く地域が「現実に存在」する。

実際に「新制度が始まるかもしれない」という噂だけですでに医療崩壊が始まっている県、地域もあるのだ。また診療科ごとの特性もある。内科学会に脳神経外科学会の専門医育成制度がなじむとは思えない。各診療科の学会幹部はそれぞれの立場に応じた危機感を持っているのではないだろうか。

何を言いたいのかというと、仮に山形県、脳神経外科では問題がないとしても、「日本専門医機構」がそれを「模範的」な「全国統一基準」に敷衍し、押し付けるのは短絡的すぎる、ということだ。

嘉山氏が「必ずしも推進派ではない」というのであれば、今一度、地方・地域の特色を汲み上げ、各診療科の特徴も生かした制度を検討してもらいたいと切に願う。その際には現場の医師、若手・女性医師、患者の会などの意見を取り入れていただけると嬉しい。公開討議などで議論を尽くすのも良いと思う。

嘉山氏ほどの力量と人望があればきっと可能なはずだ。筆者の期待は膨らんでいる。

(2017年6月21日「MRIC by 医療ガバナンス学会」より転載)