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ウーマノミクスに逆行する医療界、これ以上モラトリアムはいらない

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近年、女性医師の割合が急増している。医療施設に従事する医師の中で、女性の割合は1992年の11.7%から2012年には19.6%まで増加している。若年層に限定するとさらに割合は高く、30歳未満の医師では35.4%が女性だ。東京女子医科大学を除いても、学年によっては50%以上が女性という大学もあると聞く。

こうした中で、女性医師がいかに仕事を継続できるようにするかが課題となっている。子供を持ちたいと望む女性医師・医学生にとっては、いつ出産しどのように仕事に復帰するかが非常に大きな悩みだ。一旦知識や技術を身につけてしまえば休職しても復職先の選択肢が広がるが、研修中に休職すると復職するのは困難を伴う。また復職したとしても非常勤では研修と認められず、専門医を取得できない。しかし一人前の医師と認められるのを待つにしても、それには長い時間がかかる。現行の制度でも、医学部を卒業する時点で24歳、2年間の初期臨床研修を経て27歳からようやく専門分野の研修に入り、専門医を取得するまでには30歳を過ぎてしまう。私は、2017年度から始まる新専門医制度が、この問題に拍車をかけるのではないかと心配している。

医師の中で最も多いのは内科で、全体の20%以上を占める。多くの病院で中心的な役割を担っており、その活躍の場は多様だ。循環器内科や呼吸器内科といったサブスペシャリティの専門性を高めて高度医療に携わる医師もいれば、かかりつけ医として幅広く慢性疾患を診る医師もいる。これまでは、早い段階から高度医療施設で専門研修をしたり、総合内科や地域の病院で幅広く内科研修をしたりと、それぞれが目指す道に応じて多様な研修を行っていた。また私の周囲には、後期研修という形はとらず、初期研修終了後に被災地での医療支援に赴いた医師もいる。しかし内科の新専門医制度では、初期臨床研修で内科系を含む多くの診療科をローテーションした後、さらに3年間かけて全員が内科全般にわたる研修を行い、その後サブスペシャリティの専門研修を行うことになる。結果としてキャリアの多様性が失われ、一人前と認められるのもますます遅くなる。

これは初期臨床研修の制度化と同じ構造だ。もともと医学部のカリキュラムには臨床実習があり、卒業後すぐに専門研修を行う人もいれば、複数の診療科をローテーションして研修を受ける人もいた。しかし初期臨床研修が必修化されると、専門研修の開始は2年遅くなった。その上、学生時代の臨床実習で経験できることが逆に限定されてしまい、実質的な実習が医師免許取得後に先延ばしされる形になった。このように、全員が幅広い分野で知識・技術を高めるという理想を掲げても、実際にはモラトリアムが延長するだけという結果になる可能性がある。

私は今年度から麻酔科の専門研修を開始し、医師として大きく成長しているのを感じる。私が1月に麻酔を担当したのは32症例で、うち7例が心臓外科、13例が呼吸器外科、12例が消化器外科ですべて全身麻酔であった。一人の麻酔科医が1ヶ月間に担当する全身麻酔症例数の中央値は21-30例の間であることを考えると、3年目の医師としては多い方と推定される。知識や技術が身につくのは、研修プログラムに則って手取り足取り指導されるからではなく、自分で責任を持って多くの経験を積むからではないだろうか。しかしどんなにたくさんの経験を積んでも、専門医試験は4年後にしか受験できないという制限があるため、それまでに休職してしまうと専門医取得も困難になってくる。一方でたとえ経験数が少なくても、認定プログラムの中で4年間研修を受ければ専門医を受験することができるのだ。

麻酔科では、産休・育休の場合に1年を限度として週1日勤務でも勤務期間と認められる特例が存在したが、それも来年度から廃止されてしまう。出産、育児といった時間的制約のある医師にとっては、非常に不利な制度になってきている。

専門医制度の形式を標準化しようとしても、モラトリアムばかりが長期化する危険があり、女性にとってはますます仕事を続けづらい環境となってしまう。画一的なプログラムに当てはめるのではなく、多様なニーズに柔軟に対応できる制度が求められているのではないだろうか。

(2015年2月4日「MRIC by 医療ガバナンス学会」より転載)

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