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けいざい早わかり「中国経済の現状と見通し」

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Q 1 . 中国経済の現状はどうみたらよいですか?


中国経済は引き続き減速しています。実質GDP成長率は2015年4-6月期の前年比+7.0%から7-9月期同+6.9%、10-12月期同+6.8%、そして先日発表された今年1-3月期は同+6.7%と鈍化が続いています。

1-3月期の+6.7%という成長率水準はリーマン・ショック後の2009年1-3月期の同+6.2%以来の低い水準ですが、前年比ベースでみた減速の度合いは緩やかなものにとどまっているといえるでしょう。

これに対して、季節調整済みの前期比年率でみると1-3月期の成長率は10-12月期の+6.1%から+4.5%に大幅に低下していますので、やはり景気の基調は弱いと考えられます(図表1)。


一方、月次の指標の中には3月に一旦、持ち直しの動きがみえたものもありました。しかし、2月の春節休みの反動といった一時的な要因による押し上げが大きかったとみられ、月次の指標をみて単純に景気が回復基調に入ったとはいえそうにありません。

事実、3月に前年比+11.5%と大幅に持ち直した輸出も4月には再び同-1.8%と前年比マイナスに戻ってしまいました。3カ月移動平均などを使って足元の基調をみると、前年比マイナス幅は縮小傾向にあるようにみえますが、依然として前年比マイナスで推移しています(図表2)。

Q2.景気の失速が回避されている要因は何ですか?


昨年の夏以降、中国の株価や為替相場の大幅な下落など金融市場の混乱を背景に中国経済は減速にとどまらずに失速してしまうのではないかという懸念が強まりました。

しかし、製造業購買担当者指数(PMI)が今年3月(50.2%)、4月(50.1%)と2カ月連続して景気の拡大と収縮の分岐点である50%をわずかながらも上回っていること、またサービス業PMIも53%前後で推移していることを併せてみると、景気は弱
含みながらも過度に悲観するような状況ではないことがわかります(図表3)。

これは政府の景気下支え策が奏功したためとみられます。貸出金利は2014年11月以降、6.00%から4.35%にまで引き下げられましたし(図表4)、住宅バブル抑制のために大幅に引上げられていた頭金比率が一部で引下げられるなど住宅購入規制の緩和が進み、大都市を中心に住宅価格も上昇に転じています(図表5)。


また、景気テコ入れのためのインフラ投資の拡大(図表6)や消費促進のための自動車購入減税も2015年10月から実施されています。これらの一連の政策の効果も寄与して中国経済は失速を免れていると考えられます。

Q3.中国経済にとって今年の重点課題は何ですか?


中国経済について過度に悲観する必要はないとはいうものの、しかし安易に楽観することもできません。というのも、中国経済は現在、これまでの高速成長モデルから持続可能な中高速成長モデルへの変革という大きな困難を伴う構造調整の真只中にあるからです。

当面はリーマン・ショック後の大規模な景気浮揚策の後始末が重要課題です。過剰生産能力・過剰在庫・過剰債務という3つの過剰の解消がこれに当たります。

名目ベースで前年比2割~3割増のペースで固定資産投資が続いた結果、需要を大幅に上回る生産能力が建設されました。石炭、鉄鋼などが代表的な業種ですが、供給過剰を背景に価格の低迷が続いており、生産者物価は2012年3月以降、今年4月まで50カ月連続して前年比マイナスで推移しています(図表7)。


ただし、足元、業界再編が進み始めているとみられること、また株価下落を嫌気した投資資金が商品先物市場に流入して価格が押し上げられていることなどもあり(図表8)、マイナス幅は縮小傾向にあります。


一方、景気下支えのための金融緩和を背景に非金融部門の債務残高が急拡大していることに対して国際金融界は警鐘を鳴らしています。名目GDP比でみた債務水準は2015年7-9月期には248.6%と米国(同248.0%)と並ぶ水準に達しています。また2012年以降の債務水準の上昇テンポが急であることも大きな懸念材料です(図表9)。

Q4.経済改革は進みますか?


3つの「過剰」の解消は短期的には景気にとって大きな下押し圧力になります。中国政府が様々な景気下支え策を講じているのは、過剰問題の解決のためとはいえ、それによって経済が不安定化してしまわないように配慮しているためです。

しかし、安定重視で構造調整につながる改革がまったく進まなくなっているというわけでもありません。例えば、最近の人民元相場の動向には以前より市場実勢に近づけるという改革方向への進展がみられます。

人民元の為替相場システムは2005年7月に米ドル・ペッグ制からバスケット通貨に連動する管理相場制に移行したものの、リーマン・ショックや欧州債務危機といった金融市場の混乱の都度、米ドル・ペッグ制に戻って安定が図られてきました。しかし、足元の人民元の対ドル相場の動きは欧州通貨ユーロの対ドル相場によく連動しています(図表10)。

これは人民元の相場の調整に際して、バスケット通貨の中で米ドルに次ぐシェアを持っていると考えられるユーロの相場変動も参照していること、すなわち、米ドル・ペッグではなく、バスケット通貨への連動を強めていることを示唆していると考えられます。

当面は安定と改革という短期的には両立が難しい課題のいずれをも睨んだ経済運営が続けられるとみられます。したがって景気はV字回復でもU字回復でもなく、L字基調を続けると考えられています。

(2016年5月12日「けいざい早わかり | 三菱UFJリサーチ&コンサルティング」より転載)