コレステロール値が高いのは遺伝かもしれない? 日本の200~500人に1人は家族性高コレステロール血症(FH)です 

「コレステロール値が高い」あるいは「心臓発作」と聞くと、皆さんは太った人や高齢の人を思い浮かべるかもしれません。しかし、必ずしもそうではないのです。

9月に学びたい「コレステロール」

9月は米国におけるコレステロール教育月間だということを皆さんご存知でしょうか?

米国保健福祉省の機関である疾病対策センターは、このコレステロール教育月間という機会に、自身の血液検査によって、コレステロール値が高いのか低いのかを把握し、どのような食生活やライフスタイルをとるべきか、ゴールを設定するように呼びかけています。

日本ではまだ、コレステロールについての教育に、特に力を入れる期間などは定められてはいません。しかし、日本人は比較的コレステロールの値が低いとされていたのは過去のこと。最近のデータでは、男女とも日本人の血清コレステロール値は米国人と同水準に達しています。さらに若年層のコレステロール摂取量は、米国人に比べて男性1.5倍、女性2倍という状況まで悪化しています。

毎日見る報道や情報番組、ニュースサイト等で、コレステロールについての読み物や議論が取り上げられていない日はない、と言っても過言ではありません。しかし、一口にコレステロールと言っても、食品、生活習慣、疾病、管理方法等、さまざまな情報が混在し、氾濫し、何をどこから学んで良いのか分かりにくいのが現状です。チョコレートが健康にいいと聞いて、コレステロールの高い患者さんが板チョコを毎日1枚食べるといった、コレステロールに関する知識「コレステロール・リテラシー」の低さも、日本人のコレステロールが上昇している問題の背景にあると言えます。

そしてまた、厚生労働省が2014年3月に取りまとめた「日本人の食事摂取基準(2015版)」策定検討会の報告書で、2010年版で18歳以上の男性女性に設定していたコレステロールの摂取目標量を、2015年版には取り込まないと決めたことの報道をご覧になり、食事から摂取するコレステロールと、血中コレステロール値との関係について混乱された方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。

コレステロール教育月間が必要なのは、実はアメリカよりも日本かもしれません。今こそ、自分のコレステロール値、その原因、考えられるリスク、その対応方法などをしっかりと学びたいものです。

コレステロール値が高い原因は遺伝?

健康診断で「コレステロールが高い」といわれるのは血液中のコレステロールのことで、濃度が高いと血管の内側に脂質がたまって動脈硬化が進み、脳卒中や心筋梗塞などのリスクが高まるとされているものです。

そして、この血液中の「コレステロールが高い」という状態は、食事をはじめとする生活習慣だけで起こるのではなく、実は遺伝性の病気が原因である場合もあることを、まずは知ってほしいのです。

いわゆる"悪玉コレステロール"として知られるLDLコレステロール(LDL-C)値が遺伝的に高く、若い年齢で心筋梗塞などを起こすリスクが高い疾患である"家族性高コレステロール血症(Familial Hypercholesterolemia : FH)"です。

健康な人では、LDL-Cは肝臓の細胞表面にある"LDL受容体"というタンパク質によって、細胞の中に取り込まれ、処理されるため、血液を流れるLDL-Cの量は一定に保たれています。ところが、LDL受容体の機能に障害があったり、受容体の数が人より少なかったり、また受容体の分解を促進するたんぱく質を人より多く持っていると、おもに肝臓でのLDLの取り込みが低下し、血液中のLDL-Cの量が増加してしまう遺伝性の病気があります。これが"家族性高コレステロール血症(FH)"です。このFHの遺伝子を片方の親から受け継いでいる場合を"ヘテロ接合体"、両親から受け継いでいる場合を"ホモ接合体"と呼びます。

FH患者は生まれた時からLDL-Cが大きく上昇し、200~400 mg/dLのLDL-C値が一般的に見られます(注1)。これは基準値である140 mg/dLを大幅に超える値です。そのため、若年でもすでに動脈硬化が進行している危険性があります。こうしたことから、未治療のFH患者さんは30代や40代といった若い年齢での冠動脈疾患の発症リスクが約20倍となります(注2)。

200人~500人に1人がFH

"遺伝性の病気"というと、珍しいことのように思われがちですが、そうではありません。ヘテロ接合体患者は500人に1人以上、ホモ接合体患者は100万人に1人以上の頻度で認められ、日本のFH患者の総数は約30万人と推定されています(注3)。LDL-Cが高い患者さんの約8.5%は、FHとの調査結果もあります(注3)。

そして、FHは大変見逃されやすい病気といわれています。オランダでは国の政策としてFHの早期発見・治療に取り組み、FHの診断率は約70%に上ります。しかし、日本、アメリカでは医師であってもFHの概念を知らない人は多く、診断率は1%以下という状況です(注4)。

「コレステロール値が高い」あるいは「心臓発作」と聞くと、皆さんは太った人や高齢の人を思い浮かべるかもしれません。しかし、必ずしもそうではないのです。

2012年にノルウェーの競泳メダリスト、ダーレ・オーエン選手が26歳の若さで急死したのは、スポーツファンの皆さんにとっては記憶に新しいことではないでしょうか。実は、彼の死因は心臓冠動脈の凝血による心臓麻痺で、米国内で行われた解剖結果によると、オーエン選手は重い動脈硬化により冠動脈に病気を抱えていたそうです。ロイター通信は、彼の心臓病は遺伝性のものと明示していますし、彼の祖父も42歳の若さで、心臓病で急死しているそうです。

メダリストになるようなアスリートであれば、当然、普通の人の何倍も運動をしているでしょうし、おそらく食生活についても、管理されていたはずです。それでも、FHに対する治療がなされていなければ、急速に動脈硬化が発症・進行する危険性があるということを彼の死は教えてくれています。

さて、では、自分が遺伝による家族性高コレステロール血症(FH)なのかをどのようにして知ることができるのでしょうか。

若い人については、LDL-Cが常に高い、あるいは家族で心臓病などで若くして亡くなったと人がいるという場合は、まずFHかもしれないという疑いがあります。そして、FHの人は年齢とともにいくつかの症状が現れてきます。例えば、コレステロール沈着による黄色っぽい隆起した斑点が、手の甲、膝、肘、瞼、手首などに見られます。また、黄色腫の症状として、アキレス腱が健康な人よりも硬く肥厚していることもあります。

それから、FHの患者さんでは、若い年齢(男性55歳未満、女性65歳未満)で心筋梗塞や狭心症を発症しやすいことがわかっています。男性では20歳代から起こり、40歳代がピーク、女性では30歳代から始まり、50歳代が発症のピークです。

家族性高コレステロール血症(FH)の患者さんでは、急速に動脈硬化が発症・進行する危険性があります。そのため、FHは生命にかかわる深刻な疾患ですが、しかし治療により管理することが可能です。より早くFHと診断し治療することで、より適切にLDL-Cを管理して動脈硬化の進行を抑えることができます。若くから治療を行いLDL-Cをコントロールすることで、FH患者さんでも健康な人とほぼ同じ寿命を得られることが分かっています。

30万人以上と言われる日本のFH患者さんの中でも、99%にもおよぶ確定診断されていない患者さんは、自分が心疾患を起こすリスクが高く、生命にかかわる深刻な状態にあることを知らずにいることを、意味しています。

知ることで救える生命があります。FHについて知り・学ぶことは、あなた自身や家族、友人を救うために、重要なことです。FHの血族では、2人に1人がFHになります。皆さんにはまず、自分のLDL-Cを知ることから、家族と話しあうことから初めてみてください。こうした一人ひとりの行動が、日本でFHを知る人が増え、早期に治療を受ける方が増えることにつながっていくと思います。

世界FH Day

さてこの9月、実はもう1つ、コレステロールに関して考える大きな機会があります。それは、9月24日世界FH Dayです。この世界FH Dayに合わせ、今月24日、25日に米国ロサンゼルスにおいて、米国のFH患者団体である「FHファウンデーション」http://thefhfoundation.org/による主催で、"FHデー・グローバル・サミット"が開催されます。ここには、家族性高コレステロール血症の患者団体、医者、研究者などが集まり、家族性高コレステロール血症について、その治療法をはじめとする、さまざまな情報について共有し合う場となることが期待されています。

私もこのサミットに出席する予定です。日本でも推計30万人と言われる家族性高コレステロールの患者さんが手遅れにならないうちに、その人たちが自分がFHであることに気づくことができるよう、日本でどんなことができるのか、しっかりこの目で見てきたいと考えています。

注1 Soujke B, et al. Familial hypercholesterolemia: present and future management. Curr Cardiol Rep 2011;13:527-36.

注2 What are the risks with FH?. FH Foundation. Available from http://thefhfoundation.org/about-fh/what-are-the-risks-with-fh/. Last accessed 12 December 2014.

注3 多田紀夫ほか. 成人病と生活習慣病 2005; 35(10): 1187-1197.

注4 Nordestgaard BG et al. Eur Heart J 2013;34:3478-3490a