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医療ガバナンスに「メディア」の果たす役割とこれからの医療

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私は医療ガバナンスを研究している。ガバナンスとは何か?一般的には「統治」と訳されることが多い。ところが、この訳は、高度市民社会にはそぐわない。ボーダーレス化した高度専門社会では、国家の果たせる役割には限界があるからだ。特に、医療分野では、この傾向が顕著だ。

私は、医療におけるガバナンスで重要なのは「合意形成」だと考える。「関係者の合意形成」に影響するのは、「熟議」と「メディア」である。これが「国民の合意形成」となると、「メディア」の果たす役割が大きくなる。その典型例が、先日来のSTAP細胞報道だ。短期間に世論が180度変わったのは、一重にメディア報道による。医療ガバナンスの研究の一つの柱はメディア研究である。

では、メディアは、医療をどう報じてきただろうか。図は「医療崩壊」、および「医師不足」という単語が全国紙に掲載された頻度の推移を示したものだ。関家一樹氏が、日経テレコンを用い、朝日新聞・読売新聞・毎日新聞・産経新聞・日経新聞・共同通信・時事通信・NHKの報道数を調査した。2006年の大野病院産科医師逮捕事件で増加し、2007年参院選から2009年総選挙の期間までに大いに盛り上がっていることが分かる。

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当時、与党の医療政策をリードしたのは舛添要一・厚労大臣(当時)。抜群の知名度を誇る舛添氏は、このような政治手法を得意とする。また、当時の参院は野党である民主党がリードし、医療重視を前面に押し出した。このときの民主党の医療政策をリードしたのは仙谷由人・鈴木寛・足立信也議員たちだ。

彼らの政治的な力量が高かったことも事実だが、大量のメディア報道により、「医療崩壊」が国民的コンセンサスとなっていたため、医学部定員の増員、産科・小児科・外科への重点配分など、政策転換を行うことが出来た。業界団体、族議員、厚労省の反対を、世論の支持を背景に押し切ったことになる。特記すべきは、リーマンショック後の2010年に、民主党が診療報酬を増やしたことだ。世論の後押しが強く、財務省も反対し続けることが出来なかった。

この時期に、舛添氏や民主党が登用した人材からニューリーダーが生まれる。亀田隆明氏、土屋了介氏などが、その代表だ。彼らがメディアに登場し、社会へ説明した。彼らの活躍は、自民党への政権交代後も続いている。

一方、医療に関する国民の関心は、民主党への政権交代以降は低下する。この結果、診療報酬から医学部定員まで、従来型の政策が復活した。さらに、アベノミクスが奏功し、税収が増えたにも関わらず、2014年の診療報酬改定で実質減になった。物事には旬がある。

さて、これから医療はどうなるか?医師不足や看護師不足は、依然として深刻だ。やがて「救急車のたらいまわし」や「医師不足による病院閉鎖」という形で顕在化するだろう。ただ、現在は小康状態だ。

私が注目するのは、医学研究だ。昨年のバルサルタン事件からSTAP細胞事件まで、メディアは長期間にわたって、この問題を取り上げてきた。STAP細胞事件で、ワイドショーまでもが報じ、「医学研究には不正が蔓延している」という国民的コンセンサスが出来上がっている。

ここで必要なのは、多様な意見をまとめ上げていく医学界、および政治的なリーダーだ。さて、誰が、この役割を担うのか?注目したいと思う。

(本稿は「医療タイムス」で発表した文章を加筆修正したものです。)

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