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上昌広 Headshot

読むこと、書くこと

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新学期が始まった。今年も大勢の大学生が研究室に来てくれている。

彼らは「どうすれば成長できるか」と質問する。
私は「広い教養を身につけること。そのためには読むこと、書くこと」と勧めている。

では、具体的にはどうすればいいのだろうか。

まずは新聞を読むことだ。研究室では全国紙5紙と東京新聞を購読している。学生には「複数の新聞の見出しに目を通すように。一面の記事に特に注意するように」と指導している。

複数紙を見比べることで、新聞によって論調が違うことに気づく。朝日・毎日と読売・産経の論調は、しばしば対照的だ。若者は、複数の新聞を読むことで、複眼的な視点を身につける。

次は読書だ。多くの知識人は「流行に惑わされず、古典の名著を読むべきだ」と言う。筆者も基本的には同感だ。ただ、これは多くの学生には荷が重い。

私は、まず、読書術の本を勧めている。佐藤優氏の『野蛮人の読書術』、『読書の技法』、立花隆氏の『ぼくが読んだ面白い本・ダメな本そしてぼくの大量読書術・驚異の速読術』、成毛眞氏の『面白い本』などだ。

何れも現代を代表する知性。彼らの読書術は、大学生の知的好奇心をくすぐるようだ。このような本をきっかけに読書量が増える学生が多い。

読んだら発信だ。新聞・読書の何れでも、フェースブック(FB)に要約するように勧めている。感想ではなく、要約だ。大学生に必要なのは、著者の主張を正確に理解することで、自己流の感想ではないからだ。

発信したい大学生にとって、FBは便利な媒体だ。安価で、大勢の友人に情報発信できるからだ。友人の中には、自らと趣味や興味が似ている人が少なくない。新聞や本の話題を提供することで、時に議論が深まる。

ある程度、実力がついたら、次は自分の経験をベースに文章を書くように指導する。
媒体は商業媒体。新聞の読者寄稿欄、JBプレスやハフィントンポストなどのネットメディアだ。

この際、重要なのは「当事者」として書くことだ。単なる評論では説得力がなく、掲載されにくい。こうなると、独自の経験が重要になる。何事にも積極的に取り組むようになる。

さらに、商業媒体への寄稿を繰り返すうちに、「読者」と「編集者」の存在を考慮するようになる。自らが、どんなに立派な意見を持っていようが、媒体の主旨に合わなければ掲載されないからだ。自分と周囲を相対的に見るようになる。

発信することは、ときに予想外の展開を辿る。南相馬市立総合病院の研修医である山本佳奈さんのケースをご紹介しよう。

彼女は高校時代から貧血に悩んでいた。生理とダイエットが原因だ。滋賀医大6年生のときに、みずからの経験を『日本は「貧血大国」だ—妊娠を考えている女性は、貧血の恐ろしさを認識してほしい』という文章にまとめた。そして、この文章をハフィントンポスト(以下、ハフポスト)に寄稿し、14年5月13日に配信された。

ハフポストは朝日新聞と連携している。山本さんの文章は、5月21日の朝日新聞で『妊婦の貧血、適切な対策を』として紹介された。

出版関係者の多くは朝日新聞に目を通す。この記事を読んだ光文社の小松玄氏から、山本さんに「光文社新書から出版しないか」とオファーが来た。小松氏は「多くの国民に知って貰うべきテーマ」と考えたようだ。

医学生が大手出版社から本を出すなど、前代未聞だ。山本さんから相談された私は「まずやり遂げられないと思う」と言った。ところが、彼女はオファーを受けた。

あれから約2年。4月19日に『貧血大国・日本 放置されてきた国民病の原因と対策』として出版された。当初、予想もしない展開となった。

調べて、書く。そして発信する。こうやって小さな実績を積み上げて行く。このような作業を繰り返し、医学生は自ら学ぶことを知る。こうやって、若者は一人前の医師に成長していく。

•本稿は『医療タイムス』での連載に加筆したものです。