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東大を辞職して

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新年度が始まった。職場が変わった方も多いだろう。私もそうだ。3月末、東京大学医科学研究所を辞職し、研究室のスタッフとともに、新たに設立した特定非営利法人医療ガバナンス研究所に移った。

私は47才。残りの医師人生を人材育成に費やしたい。そのためには独立したほうがいいと考えた。

若き医師は、様々な経験を積み重ねることで成長する。私たちがすべきことは、彼らに良い環境を提供することだ。求められる役割は、従来型の医局ではなく、吉本興業に近いと思う。

ただ、このことを大学でやるには限界がある。それはスピードと資金が不足しているからだ。

2004年の独法化以降、国立大学はトップダウン型の組織に変わろうとしている。ただ、毎月の教授会で多くのことが決まる。意思決定は遅い。

また、運営費交付金が削減され、経営状態は悪い。科学研究費を含めた外部資金の獲得に熱心にならざるを得ない。これは二つの意味で問題がある。

まずは、研究者が外部資金を獲得した場合、約3割を間接経費として大学に供出することだ。我々の研究室の場合、毎年約2000万円を支払っていた。

もう一つは、この制度下では、研究成果よりも、外部資金の獲得額が重視されることだ。本来、研究費は目的遂行のための「コスト」であり、安いほどいい。ところが、研究コストが高いほど、大学はもうかる。これでは競争力はつかない。

一方、税金から研究費が支払われれば、膨大な手続きが求められる。科研費の申請書や報告書作成は若者にとり時間の無駄だ。

もし、活動資金を税金に依存しなければ、高い生産性を維持しながら、自由に活動できるはずだ。現に米国ではNPOや非政府組織(NGO)が研究分野でも大きな役割を果たしている。

幸い、医師はプロフェッショナルだ。患者を診療して、対価を得ることが出来る。サラリーマンと違い、組織を離れても生きていける。

臨床研究では、新薬や特別な検査を使わない限り、大半の費用は診療報酬で賄われる。基礎研究のように、すべての費用を研究費として調達する必要がない。

このような特性を活かせば、診療をしながら、研究を続けることも可能だ。税金に依存しなくても、若手を育成することもできる。

医療ガバナンス研究所の理事の一人で、立川・川崎などの駅ナカでコンビニクリニックを経営する久住英二医師も、その一人だ。

久住医師は、06年から当研究室のスタッフや学生たちとともに新宿駅西口に「コラボクリニック」を開設。約1年間の「社会実験」を通じ、コンビニクリニック運営のノウハウを貯め込んだ。

その後、08年に立川駅に「ナビタスクリニック」を開業し、現在、常勤11人、非常勤40人の医師が勤務するグループを育てた。

ナビタスクリニックの売りの一つがワクチン外来だ。これまで、ワクチンや感染症に関する多くの論文を発表し、昨年はネイチャー誌にレターが掲載された。

また、ナビタスクリニックなどを手伝った大学生たちは、現在、医師、ビジネスマン、官僚、デザイナーとして社会の一線で活躍し、独自のネットワークを構築している。

東日本大震災以降、福島で活動する坪倉正治医師は、昨年、東大医科研の大学院を修了し、現在、4カ所の医療機関、および2カ所の研究機関と契約している。そして、彼が稼いだ収入から年間数百万円を研究に投資している。大学生や統計家などに業務を発注し、彼らを「支援」している。

坪倉医師と彼のチームは、福島の健康問題について年間20報以上の英文論文を発表しているが、公的研究費は受け取っていない。

私は、久住医師や坪倉医師、さらに各地の志あるリーダーとネットワークを構築することで、若手が成長できる環境を提供できると考えている。

このような枠組みの中で、医療ガバナンス研究所の役割は事務局だ。関係者が情報をシェアし、有機的な連携ができるようにサポートする。

事務局は、皆で支え合う。幸いにも、我々の趣旨に賛同する方々から支援の申し出もいただいている。
私は、このような活動を通じ、「官でない公」を作りたいと思う。我々の活動にご興味のある方がおられれば、ぜひ、ご連絡いただきたい。大歓迎である。


*本稿は『メディカル朝日』の連載より引用しました。

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