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ひきこもる女性たち――表面化しない日本社会の真実

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先日、「ひきこもる女性たち」という書籍を上梓した。

筆者が約20年間「ひきこもり」問題を追い続けてきたにもかかわらず、抜け落ちていた視点であり、またこの界隈の関連書籍で初めて「女性たち」周辺に特化した内容だ。

本書が、今、世に問われる理由を探っていきたいと思う。

◆表面化しないSOS


これまで「ひきこもり」というと、統計の数値としても、イメージとしても、男性に多いという考え方に支配されていた。国や自治体のデータでも「ひきこもり」層に占める男女比の割合は、男性が7割前後、女性が3割前後という結果だったからだ。平日の昼間、本来ならば仕事に行くのが当然とされる男性は、周囲の視線が気になって外に出られなくなるプレッシャーも強いと考えられていた。

一方、女性が同じ場面を歩いていたとしても、そのようなプレッシャーを感じることや、周囲に咎められることが少なく、そこまで辛い状況ではないだろうという考えが、筆者を含めてあった。

けれども、筆者の元に毎日届くメールの半数近くが女性であることや、メールを一生懸命くださる女性当事者の方々の指摘、筆者が講師を務めていたライタースクールの生徒たちの中に、家の支配から逃げようとしている専業主婦たちの姿が多くあったことから、これは国が公表しているデータと、リアルな実態とは違うのではないかという問いが、確信に変わっていった。

それを裏付けるかのように、2010年に行われた内閣府のひきこもり実態調査の定義を見ると、「自宅で家事・育児する者を除く」として、女性特有の「家事手伝い」「主婦」などは対象から外されていることに気づいたのである。

◆主婦たちがひきこもる?


これまでも、姿の見えなかった彼女たちの声は、何度となく寄せられていた。

そこで筆者は連載している「ダイヤモンド・オンライン」上でも、女性たちの声を積極的に取り上げるようになった。それに呼応するように、「私も同じ状況です」という女性たちの声がより届く。特に専業主婦という肩書を持ちながら、ひきこもるメカニズムが本質的には同じ状況に陥っている人の声を取り上げると、そのたびに反応が寄せられてくる。

さらに今回、本書で取り上げた当事者8人や支援者たちを取材して新たに見えてきたのは、背景に「性暴力」や「DV」などあらゆるハラスメントが潜在化していることだ。もちろん、これらの被害者のすべてが女性というわけではない。しかし、こうした被害が表面化しない背景には、彼女たちのこんな声が象徴している。

「恐怖の中で硬直してしまって、被害に遭った自分自身が信じられなくなり、何も行動できなくなる」

そして、これはデリケートでナイーブな話のため、そもそも言葉にすることができない、どこに相談したらいいのかわからない、相談しても的を射た回答が得られず余計に傷つけられる、という悪循環が起こり、なかなか表には出てこない。

最近も、熊本地震の被災地で、「車に連れ込まれそうになった」「ガスの検針を装って、家に入ろうとした」などの「性暴力」の報告があるという記事を書いたところ、大きな反響があった。

主婦の話などにも通じるが、誰しもがそんなところでそんなことが?という、表面化していないからこそ想像しにくい部分に、真実があると思う。

◆男性目線で、問題を語られることの弊害


これまで社会が男性の問題として認識しているからこそ、表ざたには声を上げることができず、ただ黙ってひっそりと生きるのが精いっぱいという女性たちが多くいる。そこで最近、一向に変化のない、より悪化していくばかりのこの問題を取り巻く状況や環境を打開したいと、自ら動き始めた当事者、経験者、支援者たちも取材した。

彼女たちの根底にあるのは、男性目線で語られている場にいたからこそ自ら窮屈な思いをしていて、少しでもそのような人を減らせればという
思いだ。現場の声を拾い集め、小さな積み重ねを繰り返して新たな居場所やムーブメントを作ろうとしている人もいる。

筆者はそのような動きの「つぼみ」と、それを必要としている人々とがうまくつながるよう、認知を広められればと思う。

「ひきこもる」という行為はあくまで表象だ。

その裏に抱えている問題は実に多様であり、なかには言葉にならない人々がいる。それぞれの出口や解決につなげるためには、周囲の人間が根気よく、想像をめぐらせ、丁寧にひも解いていく姿勢が必要だ。

このまま、目をつむっているだけでは一人一人が活躍する社会「一億総活躍社会」などにはほど遠く、女性が真の意味で活躍する社会も遠のいていくばかり。

日本社会のひとつの特徴である、この深い社会問題を永遠に解決することはできないのだろうか。

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『ひきこもる女性たち』