焦りがちなアラサー世代。でも、立ち止まる勇気を。世界は待ってくれる。

自分らしい生き方と芯の強さには憧れ、だけどいつも素直で等身大なところに共感もしつつ。そんな、どこか身近な、アラサー世代のロールモデル。

世界のロールモデルから学ぶ VOL.1

〜国際派アラサー香港女子の「自信のつけかた」〜

MANABICIAの池原です。つい先日、2年近くシンガポールと東京を行ったり来たりしながらパートタイムで学んでいたINSEADという学校を卒業しました。

振り返ってみると、全く自分に自信が無く、「こういうことをしたい」と人前で言うことすら恥ずかしかった私が、「失敗しても批判されてもいいからやりたいことをやる」と起業に踏み切れた一番の理由は、この学校で素晴らしいロールモデルの女性たちと出会ったことです。しかも、表面的なことだけではなく、彼女たちが、自身の弱さや葛藤をもさらけ出したことが、私に大きな勇気を与えてくれました。

ロールモデルが身近に居ない、という女性の話をよく聞きます。特に、組織の中で管理職になってくると、そもそも女性管理職自体の母数が少ないため、社内外を探してもなかなか「ちょっと先を行く憧れの先輩」に出会えない。一方でメディアで取り上げられているような女性リーダーは、とにかくキラキラまぶしすぎて、美談ばかりで、自身の現状とのギャップが大きすぎて余計に落ち込む、という悪循環。

ロールモデルは、「こうなりたい」という圧倒的な憧れとともに、自分との共通点を見いだし、「私にもなれるかもしれない」という励ましも得られる存在でいてほしい。そのためには、「素敵だなと思える女性に沢山出会うこと」と同時に、「彼女たちの素の部分を知っていくこと」の両方が必要なのではと思い至りました。

そこで、私がINSEADで出会ったロールモデル女性3名に「どうやって自分に自信をつけてきたか」を切り口に、本音をインタビューしてきました。若手、ミドル、そしてシニア世代それぞれを代表する素敵な女性たちです。国籍も立場も年代も違いますが、学ぶことがあると思います。

そこで今回は1人目、国際派アラサー香港女子の素顔をお届けします。

Enoch Li (イノック・リー)

香港生まれ。オーストラリアで数年を過ごし、香港大学時代はパリに留学。その後、国際的金融機関に就職。ロンドン、パリ、東京、北京で働きながら、順調にマネジメントへ昇進。その後退職し、現在は育児と両立させながら組織開発コンサルタントとして北京で活躍。自身のことを綴ったブログが女性たちの間で大きな反響を呼ぶ。

順調なキャリア、そして燃え尽きる

世界中を飛び回って順調にキャリアを積み上げてきました。東京でも3年間働き、部下全員が年上の日本人、ということもありました。仕事は非常にやりがいもあり、楽しかったですね。でも、猛烈に働いていくうちに、突然燃え尽きてしまったんです。ストレスから鬱になり、自分を見失い、そして、仕事を辞めました。当時は、人に会うのも嫌で目を合わせることもできませんでした。とにかく希望が持てない暗い日々でした。会社は辞めたものの、でも次に何をしていいか分からない。先が見えずキャリアも定まらない時期は、まるで裸になったような、心細い気持ちでいっぱいでした。

先の見えない日々、立ち止まって自分と向き合った

その時期、とにかく徹底的に自分と向き合ったんです。自分は何が好きで、何に情熱を持っているか、なぜこんな風に感じるか・・・とにかく自分を知ることに時間を使いました。特に感情面ですね。自分はなぜ怒るのか、なぜ嬉しいのか、なぜこんな風に感じるのか。とにかく沢山の本を読み、考えました。また、考えたことを頭の中だけにとどめるのではなく、ブログを書くことで他者に向けて自分の意見を発信していきました。

そうすると次第に「仕事が人生の全てではない」と思うようになったんです。仕事は大事ですが、名刺の肩書きが「私の存在そのもの」ではない。そこに捕われるのは止めよう。かっこいい肩書きが無くても、大会社に居なくても、私は私なんだ。そう思うようになりました。立ち止まったからこそ、見えてきた景色でした。

自分を知り、自分の意見をはっきり言うことが、自信の原点になる

このように、鬱の時に一旦立ち止まり、自分を掘り下げていったことで私は自信を取り戻していきました。ではそもそも、なぜ、自分を掘り下げ、自分を知ることが自信につながるのでしょうか?

私は高校時代、香港で「自己表現」を重んじる女子校に通っていました。学校では、人前で自分の意見を言うこと、主張すること、異なる意見を受け入れることを訓練されてきました。思春期の子供たち、特にアジア系の若者は人前で意見をいうことをためらう傾向にありますが、私はたまたま、このような変わった教育を受けたので、特殊かもしれませんね。

「これが私の意見です」と誰かに主張すれば、相手から何らかのフィードバックをもらいます。賛成されることも批判されることもあります。でもこのプロセスを繰り返していくと「意見の違いがあることは悪いことではない。ただ違うだけなのだ」ということに気づくはずです。そして、あなたの意見や主張は、人に依存しているのではなく、あなた独自のものであると確信していくでしょう。この気づきが、自信に結びつきます。

また、私たちの多くは、何かうまくいかない時に、「どこからか良いチャンスが巡ってこないかなぁ」と期待して待ちますよね?でも、そのようなチャンスはなかなか来ない。だから落ち込み、自信を失います。でも、チャンスは「創るもの」だと思います。そのためにも、前述したように「私は何が好きで、何をしたい」という、自分の意見を他者に向かって言い続けることが大事になるんです。

話したり書いたりして自分の意見を主張し、他者からフィードバックをもらう。つまり、自分を開いて、他者と繋がる。そうやっていくうちに次第にチャンスが創られる。それがまた、自信につながっていきます。

Enoch

初めての子育てで失いかけた自信。でも「私は私」

鬱を克服し、今はパートタイムで組織開発のコンサルタントとして働いています。そして昨年出産し、1歳の娘の子育て真っ最中です。一度どん底から立ち直り、自信を取り戻したとはいえ、初めて、ママたちの交流会に行ったときはパニックになりました。どのママ達たちも、子育て情報を沢山持ち、おすすめのベビーブランドやクリームなどについてもとっても詳しい。でも私は全く何も知らない。何がいいのかとか、何がダメなのかすら分からない。同じ歳の子を持つ年下のママでさえ、既に幼児教室をいくつもハシゴしている...完全に焦りましたね。

でもしばらくして、自分が鬱の時に書いたブログを読み返し、「人と違うことを恐れない」ことを思い出しました。そして、私がどういう母親になりたいか?と自分に問うことだけに集中するようになりました。

このように、子育てを通じて再度自信を失いましたが、今回は割と早く立ち直ることができました。

人と違うからといって、悪い母親ではない。家庭のあり方も、母親の性格も、また子供の成長も、それぞれ違います。子供がいるとどうしても、自分の子育てと他のお母さんの子育てを比較し、違っていると、批判したくなったり、何かジャッジしたくなる気持ちが涌いてきます。でもそこで、他人のことは判断せず、自分も決して他者の判断に振り回されないという意思を強く持つことが大事だと思います。他者の子育てから学ぶことは大事ですが、良いと思うことだけをポリシーを持って取り入れればいいと思います。同世代の子育てに悩む女性たちにもぜひ伝えたいですね。

日本人女性は自信が無いのではなく、自信を出しにくいだけ

東京には3年しかいませんでしたので、一般化はできませんが、日本社会の中では、女性には選択の機会があまり多くないような気はします。日本の文化が、人と違うことを良しとせず、また、自己主張を傲慢だと捉える傾向があるのではないでしょうか。例え相手が間違っていたとしても、それを堂々と指摘することは少ないと思います。私の同僚にも、優秀な日本人女性は沢山いましたが、日本社会の中では、なるべく自己主張しないように控えめに振る舞っていたのは印象的です。しかし、彼女たちは、自信が無いのではなく、社会的な雰囲気の中で、自信を隠しているだけなのではないででようか。

また日本駐在時代には、日本人女性用のトレーニングを用意し、昇進しやすくなるように本部に働きかけたこともあります。しかし彼女たちの多くは、リーダー職を望んでいませんでした。ただそれも、自信が無いからリーダーになりたくない、のではなく、リーダーになるための組織ネットワークの作り方とリーダーシップスキルの磨き方がわからないだけだと思います。

もっと、自分を出せる機会とリーダーシップを身につけるトレーニングさえあれば、もっともっと日本人女性は前に出ていけると思います。出会った女性たちは皆素晴らしく、素敵でした。

同世代の女性たちへ...「自分に優しく」

自分に優しくしましょう。辛い時でも焦ることなく、しっかり自分を見つめるために立ち止まりましょう。30歳前後の女性は、キャリアや結婚、子育てで焦る時期ですが、しっかり時間をとること。世界は待っていてくれます。

インタビューを終えて

池原(左)とEnoch(右)

自己理解と自己主張が自信の原点だというEnoch。そんな彼女はとても柔和で穏やかな女性です。臨月のお腹を抱えながらも、授業の度に北京からシンガポールへ通学しており、「何と意思の強い女性だろう」と思っていました。インタビューを通じて、彼女の穏やかさと強さの裏には、もがき苦しんだ日々の葛藤があると知りました。今でも彼女のブログには、落ち込んだり元気になったりする、ありのままの気持ちが綴られています。自分らしい生き方と芯の強さには憧れ、だけどいつも素直で等身大なところに共感もしつつ。そんな、どこか身近な、アラサー世代のロールモデルです。