M&Aが招いたクライシス! 買収後に人材流出。組織崩壊した2つの失敗例

海外M&A人事に詳しい森範子氏が、統合プロセスの失敗例から学ぶヒントを語ります。

M&A Online編集長の田口です。今回ご紹介する記事は、「M&Aが招いたクライシス! 買収後に人材流出。組織崩壊した2つの失敗例」です。海外M&A人事に詳しい森範子氏が、統合プロセスの失敗例から学ぶヒントを語ります。(田口 雅典)

M&Aによる人材の流出。経営陣にとって最も恐ろしいのは、キーパーソンの退職ではない。雪崩のように起こる"普通に貢献していた社員"の流出にある。買収後の人材流出による組織崩壊を食い止めるにはどうすればよいのだろうか?

買収後に社員が流出。組織崩壊を招いた2つの失敗例

買収によって人材が流出して組織が崩壊するということは、それほど頻繁に起こることではない。社員は、まずは様子見をするものだ。

人材流出が起こるとすれば、買収後に確実に自分のポジションがなくなる幹部社員が辞めるケース(自分のチームを連れていくことも)と、競合会社がチームごと引き抜くケースくらい。

この2つのようにキーパーソンが関わるケースは、流出の恐れがある対象者を特定しやすく、比較的対策しやすい。買収後の処遇を確約したり、退職時の罰則を強化・遵守したりすることで防ぐことができるからだ。

一方、深刻なのは、キーパーソンとまではいかないが普通に貢献していた中堅社員が買収後半年以上たってから次々に辞めていく状態である。このケースは統合プロセスの失敗が招いた組織崩壊だ。実際の事例を取り上げ、統合プロセスの問題点を示してみたい。

事例1 経営不振に陥った大手企業を買収した救済型M&A

ある新興企業A社が自社の川下事業に参入するため、経営不振に陥った大手企業B社を買収した、救済型M&Aの失敗例から見てみよう。

買収会社のA社は、被買収会社であるB社の事業に魅力を感じ、自社の事業とのシナジー効果を期待してM&Aを決断した。

しかしB社の帰属意識が強い企業風土に危機感を抱いていたため、統合プロセスではB社社員に経営不振の原因を理解させるためのメッセージビデオを作製したり、管理職をいったん全員解任したりしてから再評価の下に再配置するなど、過去との決別に力点を置いた手法を取った。

そうしなければ、自社の伝統に固執してドラスチックな再生に踏み出せないと考えたからだ。

しかし、再生の鍵となる事業のノウハウをA社は持っておらず、現場のコントロールが効かないので中途採用に頼ることとなる。そうした状況下で月日は流れ、買収後3年の時点で、元B社の管理職ポストの8割が離職、中堅手前30代の若手も離職率が3割に達した。

B社は地元の有名校の就職先だったが、A社買収後の組織の混乱が広く知られることになり、新卒の採用も難しくなってしまった。

事業の方向が定まらぬままさらに時がたち、最終的には買収したB社本来の事業が採算ラインに乗るまで縮小され、新規事業は散発的に対策が取られた後、空中分解となってしまった。

事例2 外資企業が日本企業を買収したクロスボーダーM&A

次に外資企業であるX社が、優れた技術力と顧客基盤を持つ日本の企業Y社を買収する、クロスボーダーM&Aの事例を見てみよう。

買収企業のX社は、被買収企業のY社に一定の配慮をするため、買収後も旧経営陣の続投を決定。経営方針や事業戦略はY社に指示し、進捗を遠隔管理していた。

Y社に新任社長を送り込んだのは買収から数年たってからである。Y社の社員から見れば、新しい指導体制も確立されず、方針が示されず、目標達成のためのPDCAもない状態であったので、オペレーションは機能不全に陥っていた。

一方で「チェンジ・マネジメント(個人、チーム、組織を現在の状態から望ましい将来の状態へと変換させる体系的な手法のこと)プロジェクト」が発足し、経営不振の原因はリーダーシップと企業体質の問題とされ、さまざまな研修が行われた。評価の低い社員は、リストラ対象となる人事制度も導入した。

しかし、買収後も経営悪化を止められず、1年後に最初のリストラを行ってからほぼ毎年リストラを行うことになった。

幹部クラスの離職は少なかったが、優秀な中堅社員は最初の1、2年で競合に転職していった。長期関係を望む日本企業の顧客離れが進み、競合に転職した社員からの契約打ち切りも発生した。

事例から学ぶヒント

これらの事例から言えるのは、被買収会社の社員が会社の将来性を信じ、新組織へのアイデンティティーを持てるようにすることが、買収後の統合プロセスで大事だということである。

被買収会社の社員は何よりも新しい展開図と新しいリーダーシップを求めている。

過去との決別のプロセスは早期に終わらせ、できるだけ速やかに新しい組織としての戦略や活動に向けて社員を奮い立たせることが、統合後の人材流出や統合の失敗リスクを減らす。

救済型M&AやクロスボーダーM&Aでは特に注意が必要であることを意識しよう。

※いずれの事例も実際のケースを加工しております。

(文:オフィス・グローバルナビゲーター 森 範子)

M&A Onlineより転載

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