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待機児童解消のために「病院内保育所」を開放するというアイデア

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日本が国を挙げて加速的に取り組んでいる社会問題のひとつに「待機児童問題の解消」があります。しかし、現実には保育士不足などの課題があり、仕事をもつ保護者の負担は軽減されていません。

この問題を解決するため、地域医療を担う公的病院グループ"JCHO"の理事長であり、WHOでは西太平洋地域の責任者を務めた尾身茂先生は、職種や年齢を問わず誰もが参加できるNPO法人「全世代」を立ち上げました。

今回は、「病院内保育所の地域住民への開放」など、具体的な待機児童解消プランについてご紹介します。

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日本人の就労や心身の健康問題を解決するためのNPO法人「全世代」とは?


「政治家や行政庁に依拠しすぎることなく、日本の未来を自分たちの手でよくしていきたい。」

NPO法人「全世代」は、このような想いを持った老若男女が一同に会し、「参加型市井会議」を開こうという発想から、2015年の9月に設立されました。

立ち上げメンバーは医師や実業家、アスリートに文化人と非常に多彩です。また、立ち上げから2年が経ち、ボランティアスタッフも増えたことで、構成人員は更に多様性に富んだものとなっています。

今、出身も性別も仕事も異なる全世代のメンバーは、「巷からニッポンを作る」をスローガンとし、3つの領域においてミッションを掲げ、一丸となり活動しています。

  • JOB:若者が仕事に就くことができ、経済的自立が可能な社会の構築

  • WELLNESS:医療・介護が投入された資源に見合う効率性を有し、人々が積極的に体のみならず心の健康増進に取り組む社会の構築

  • EMPOWERMENT:個人それぞれの価値観や能力に応じ、自己実現が可能な社会の構築

では、これらの目標を達成するために、実際にどのようなプロセスや資源が必要なのでしょうか。順にご紹介していきます。

これからの「就業満足」とは?若い世代の経済的自立が可能な社会


1つ目のミッションは、就業に関する問題の解消です。日本はこれから「若者が仕事に就くことができ、経済的自立が可能な社会」を作っていかねばなりません。ここでいう若者とは、学校を卒業したばかりの方から、出産・育児世代の方まで幅広い層を含みます。

少子高齢化がすすみ、政府も盛んに「一億総活躍社会」を謳っている一方で、待機児童問題などが解消されないために、職場復帰や再就職ができない若い世代が増えています。

保育施設を新設すべく、国も各自治体も力を注いでいますが、それでも供給が需要に追いつかないという現状は変わりません。

待機児童をゼロに!「病院内保育所を地域の親子に開放する」というアイデア


待機児童問題を解消するために、全世代では、全国約2700の病院内保育所を地域住民に開放しようというプロジェクトを始めました。
病院内保育所を開放することには、以下3点のメリットがあります。

【病院内保育所の持つ3つの可能性】

  • 既に保育所運営の実績があり、住民の理解が得やすい。

  • 病院内保育所を利用できる人が短期間に増える。

  • 通常の保育所では預かれない37.5度の発熱に素早く対応できる環境が整っており、病児保育の充実につながる。これにより、働く親にとって深刻な問題である、保育中園児の容態急変時の負担を軽減できる。

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支援金を集めるべく、クラウドファウンディングを開始!


実際に病院内保育所の開放を実現させるためには、様々なプロセスをたどる必要があります。

まず発生する仕事は、調査、病院や自治体との交渉、地域住民への説明などです。

つづいて、モデルケースを作るため、数か所の病院内保育所で試験的に開放プロジェクトを実施します。その後、全国2700の施設で応用できるガイドラインを作成し、内閣府や厚生労働省からの補助金を受け、規模を拡大していきます。

このプロジェクトを本格的にスタートさせるため、全世代では2016年11月1日に、事業立ち上げ支援金の寄付を募る目的で、クラウドファウンディングを開始しました。クラウドファウンディングとは、インターネットを介して不特定多数の賛同者から資金を集める方法です。
WEBサイトやSNSを用いるという新しい手段を活用し始めたのは、全世代の若いメンバー達の発想によるものです。

(NPO法人全世代公式WEBサイト 待機児童問題解消に向けたクラウドファウンディングの詳細ページはこちら

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ポリオ根絶を成し遂げた経験から待機児童プロジェクトを見つめる


全国の不特定多数の方に支援のお願いをしていく過程で、しばしば私はWHOでポリオ根絶プロジェクトを主導していた頃の自身を思い出します。

ポリオ根絶プロジェクトも、資金がゼロに近い状態から始めたため、最初の2~3年は苦労したものです。押しつぶされそうだと感じるほどのプレッシャーもありました。その苦しみを乗り越えるための原動力となったものは、道徳的な心といった美しいものではありません。

私はチーム皆でパブリックニーズに応えていくこと、社会的な問題を解決していくことで、「生きている手応え」や「充足感」を感じることができるのです。私だけに限らず、自分に関することだけをやり続けて満足感や充実感を得られる人は、そう多くはないのではないでしょうか?

ポリオ根絶も待機児童解消プロジェクトも、そして医師の地理的偏在解消に向けた活動も、事象が異なるだけで、軸は同一であるため、一貫性のある違和感のない活動なのです。

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尾身茂先生のWHO時代。子どもに小児麻痺(ポリオ)のワクチンを投与しているところ 画像提供:尾身茂先生

医師の地理的偏在解消に向けて-厚生労働省への提言


全世代では、国民の健康面(WELLNESS)にも焦点をあて、「医療・介護が投入された資源に見合う効率性を有し、人々が積極的に体のみならず心の健康増進に取り組む社会」の構築をミッションに掲げています。

これまで、医療分野では「安全性」と「効率性」については重要視されていたものの、その効率性が「投入された資源に見合うものか」という捉え方はなされていませんでした。

結果、資源が不足したまま高い効率性を目指さざるを得ない地域も多く、破綻をきたす施設やスタッフも実際に存在しています。

そこで全世代が力を入れているのが、「医師の地理的偏在」の解消に向けた取り組みです。この取り組みは、2015年9月に創設した全世代の最初の大仕事でもあります。

既に全世代内部で約14回もの勉強会を行っており、具体的解決策をまとめた提言書を塩崎厚生労働大臣に提出しました。

厚生労働省の医師需給分科会で講演も行い、全世代の提言は医療界のなかでも認知され始めています。

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尾身茂先生と塩崎恭久厚生労働大臣 画像提供:尾身茂先生

個性を活かしながら自己実現できる社会とは


3つ目の目標は、「個人それぞれの価値観や能力に応じ、自己実現が可能な社会づくり」です。日本を外側からみると、個々人の「多様性」が認められづらい風土が根付いているように思われます。一例を挙げると、少し前までの日本には、"偏差値の高い大学に進学し、一流企業に就職すること"が「王道」「理想的」とされ、このレールに乗ることで「勝ち組」とみなされていました。

しかし、人間には元来生まれ持った個性というものがあります。たとえば、机に向かう勉強は得意でないものの、ものづくりの分野においては抜きん出て秀でている子どももいます。

世界的にもダイバーシティが重視されているなか、皆が皆同じ方向を向き、一本のレールに乗らんとする風潮は、時代にそぐわないものとなりつつあります。

これからの社会は、一人ひとりが自身の個性や価値観を活かし、自己実現できるものであるべきでしょう。

また、周囲がそれを認める土壌を築いていくことも重要です。

現在全世代では、若者からシニアまで、それこそ「全世代」の人々が議論し、社会で活躍するチャンスを得るための場の創設作業を進めているところです。

「少しでも恵まれていると感じる人は社会に貢献できることがきっとある」次世代を担う私たちにできること


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人間は誰もが挑戦、選択できる環境下に生まれてくるわけではありません。経済的な理由で、生まれたその瞬間から進むことのできる道が限られている子どもも存在します。

全ての国民が経済的にまったく平等な社会を作ることは夢物語でしょう。

しかし、経済的格差があるなかで、富裕層と呼ばれる人々が自分たちだけ幸福ならばそれでよいと考える社会は、健全な社会とはいえません。

恵まれていると感じる人には、社会に対してできることが、少なからずあるはずです。

富裕層だけでなく、なんらかの「選択」や「チャレンジ」ができる環境下にあることは幸運であると考えます。

私たちには「何もしない」という選択肢もあります。しかし、リスクがあっても行動するという選択肢をとれば、必ず何らかの変化は生じます。

ゼロから開始したポリオ根絶プロジェクトのときも、「動く」ことで手助けしてくれる人々が現れ、西太平洋地域での根絶宣言を出すことができました。今回取り上げた待機児童問題や医師の地理的偏在も、勇気や努力の結集でコントロール可能な事柄です。

自分たちの手でできることを見極めること、何らかのアプローチをすれば、必ず化学反応のように「何か」が起こるということ、これを志を持つ読者の方々へのメッセージとしてお伝えし、本文を締めくくりたいと思います。

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【執筆・インタビュー】尾身茂

地域医療を担う公的病院の統括組織、独立行政法人 地域医療機能推進機構(JCHO)の理事長を務める。1990年から2009年まで20年間WHOに勤務し、西太平洋地域におけるポリオ根絶を達成したことで世界的に知られる。SARS制圧時には西太平洋地域事務局事務局長として陣頭指揮をとった。現在はWHOでの経験をもとにシームレスな地域医療サービスの拡充に取り組むとともに、NPO法人「全世代」を立ち上げ、就労や医療・介護など現代日本が抱えるあらゆる分野の社会問題解消のために尽力している。