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EU側からみた英国離脱の衝撃

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6月23日の英国国民投票でのEU離脱派の勝利は、大きな衝撃だった。その結果をもたらした英国内の事情や、主に経済面における対外的インパクトについて、当面の分析としては日本でもすでに多く議論されている。そこでここでは、残る側のEUから見た英国離脱に関する背景、政治的感情、影響などについて考えてみたい。

「英国疲れ」


まずは今回の事態にいたる背景である。英国以外のEU諸国はこれまで、英国を引き留めるための最大級の努力を重ねてきた。加盟条件の再交渉といわれるものであり、その結果としての英・EU合意が、今年2月の欧州理事会(EU首脳会合)で妥結された。EU域内の移民労働者の扱いや各種経済ガバナンスなどに関し、英国に対して一部例外的な措置を認める内容である。

これへの英国内の受け止めは必ずしもよくなかったものの(国民投票の過程ではほとんど話題にすらならなかったものの)、EU内では英国に対して譲歩し過ぎたとの批判が強かった。しかし、英国が離脱するのであればこの合意は無効になる。そして離脱を決定できるのは唯一英国政府であり、EUにこれ以上の引き留め手段はない。さらにいえば、手段があったとしても、「もういい加減にしてくれ」というのが他のEU加盟国の本音であり、まさに「英国疲れ」である。

というのも、離脱をちらつかせてEUに譲歩を迫る英国の姿勢は、他の諸国にとって好感を持てるものではなかった。しかもこの交渉が行われた2015年から16年は、移民・難民危機、パリでの連続テロ事件(2015年1月、11月)を受けたテロ対策の強化、「イスラム国」への対応などで、EUは文字通り忙殺されていた。そうしたなかで加盟条件の再交渉を持ち出してきたのが英国であり、空気も読まずに自分勝手な要求を繰り返したと見られて当然である。欧州内、特にEU関係者の反発・反感は非常に強かった。

それでも譲歩せざるを得なかったのは、英国がEU主要国の1つであり、EUとして失いたくなかったからである。他国の側には、英国を引き留めるコストを一定程度負担する用意があった。

「出て行くのであれば早く出て行って欲しい」?


しかしその結果が国民投票での離脱派の勝利である。EUとしては、もうこれ以上英国にかき回されたくないと考えて自然であろう。

実際、国民投票翌日の6月24日に出された欧州理事会常任議長(EU大統領)、欧州委員会委員長、議長国オランダ首相による異例の共同声明では、国民投票結果を残念だとしつつも、「英国政府に対しては、それがいかに苦しいプロセスだとしても、英国民の決定を可能な限り早期に実施に移すように希望する」と述べている。

6月25日に行われた欧州統合の原加盟国6カ国(ベルギー、仏、独、ルクセンブルク、オランダ)による外相会合でも、「出て行くのであれば早く出て行って欲しい」との見方がコンセンサスだったと報じられている。中途半端な状況が続き不確実性が長引くことは、残る側にとっても不利益だからである。

ただし、これがEU側の明確なコンセンサスであるともいえない。実際、上述6か国外相会合の直後、ドイツのメルケル首相は、「(離脱のプロセスは)終わりなく続くべきではないが、即時の脱退を求めているわけではない」と述べている。そもそも、残り27か国の結束が必要なときに、わざわざ原加盟国6カ国のみで会合を行うセンス自体が批判の的にもなっている。

いずれにしても、離脱にあたり、EU側には英国に対してこれ以上譲歩をする動機に乏しいことは明確である。そのため、英国に続く離脱国を出さないためにもEU側は、見せしめとして、英国に対して厳しい条件を突きつけるだろうとの見方も可能である。ただし、交渉を早期に妥結すべきとの政治的判断が主流になれば、離脱後の英国とEUとの関係と合わせて、より穏健な政治的妥協が成立する余地が広がるのであろう。

開かれたパンドラの箱


英国はこれまでもトラブルメーカーであり、だからこそ、英国が抜ければEU統合はむしろ進めやすくなるという声すら、EU内では以前から存在していた。しかし、英国が「やる気がないのに文句ばかりの加盟国」だったとしても、本当に離脱するとなると、話は別である。残る側にとって最大の問題は、英国がいわばパンドラの箱を開けてしまったことだといえる。

まずは前述の加盟条件の再交渉である。これまで交渉の余地のない現実だと思われていたものが、突如として再交渉の対象になる。そうしたら、様々な国が再交渉を要求し始め、収拾がつかなくなるかもしれないが、他方で、もし再交渉が英国のみに認められて、他国には認められないとしたら不公平である。英国は特殊なケースであるとの主張には一理あるかもしれないが、それだけで他国の不満を押し切るのは難しい。

そして今回はさらに離脱である。英国の国民投票結果を受けて、フランスやデンマーク、オランダでも、極右のナショナリスト政党がEUからの離脱の是非を問う国民投票の実施をより強く求めるようになっている。他国が英国に続いてEUを離脱する、いわゆる「離脱ドミノ」が実際に起こる可能性は、少なくとも短期的には低いものの、これまで当然と思われてきた各国の加盟条件、そしてEU加盟という基礎的なものまでも、交渉や是非の議論の対象になり得ることが、英国の例により示されてしまった。これをもとに戻すことはできないだろう。

支えを失う諸国の不安


英国の離脱を見るEU内の視点としてもう1つ触れなければならないのは、陰に陽に英国を頼りにしてきた諸国の存在である。英国ほどの国力や発言力がないために前面に出る機会はあまりなかったとしても、さまざまな分野における英国の主張に共感し、英国を応援していた諸国は決して少なくなかった。

例えば、外交・安全保障政策において米国との協力を重視する姿勢(大西洋主義)は、オランダ、デンマーク、ポーランド、バルト諸国等により支持されてきた。保護主義や管理主義に対する自由貿易の主張には、ドイツ、オランダ、北欧諸国などの後ろ盾があった。経済成長のための構造改革・規制改革路線に関しては、ドイツの立場とも重なる部分が少なくなかった。そのため、英国とEUの加盟条件の再交渉においても、ドイツは交渉妥結に重要な役割を果たしたのである。

ウクライナ危機を受けてのロシアに対する制裁でも、英国はドイツとともに大きな役割を果たし、バルト諸国やポーランドにとっては頼りになる存在だった。

EU内の中小国はいわば英国の陰に隠れながら、英国の働きかけによって、自らの立場に近い政策や方針が選択されることを願い、その恩恵を得てきたのである。そうした諸国にとって、英国の離脱は大きな不安材料である。

加えて、より大きな問題はEU内におけるパワーバランスの変化である。欧州統合においては伝統的にドイツとフランスによるリーダーシップ(独仏枢軸)が指摘されてきたが、最近はドイツの比重が増している。ドイツの意図とは無関係に、他国にとって、ドイツの影響力が突出することは必ずしも素直に歓迎できるものではない。

そこで実質的にバランサーの役割を果たしてきたのが英国だった。そもそも1973年に英国がEUの前身の当時のEEC(欧州経済共同体)に加盟したときは、当時圧倒的だったフランスの影響力を削ぐ役割が期待されていたのである。この観点からも、英国のEU離脱による影響は大きなものになると考えられる。

やはりEUの主導的な国だった英国・・・


これまで検討してきた限定的な側面だけでも、図らずも明らかになるのは、EUにおける英国の存在と、同国が果たしてきた役割の大きさである。英国は欧州統合のブレーキ役とし悪者扱いされることもしばしばだったが、それでも結局のところ、「すべては英国の力の及ばないブリュッセルで物事が決められている」といったEU離脱派の主張よりは、EUにおいて英国はかなり大きな、おそらく国力以上の影響力を有してきたとの理解の方が現実に近かったのだろう。

そして、離脱してしまえば、その後にどのような関係が構築されるにしても、EUの政策形成・決定においてこれまで英国が有してきた影響力は大幅に低下する。それは英国にとっての損失であると同時に、EU全体に大きな変化をもたらすことになる。英国なきEUにおいて、どのような新たな均衡を作り出せるのか。EUからの離脱で英国も大きな試練に立たされるが、EUにとっての試練はおそらくそれ以上なのかもしれない。