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貧困の苦難を自制心で乗り越える――荒廃した学校を立て直す「マインドフル・スクール」プロジェクト

2014年06月26日 22時29分 JST

■目の前にある“マシュマロ”を我慢できるか?

目の前のマシュマロを15分間食べることを我慢できた子供は、成長してからの学力や収入、社会的地位、健康状態までもが、平均して高い大人になる――。

そんな、「マシュマロ・テスト」と呼ばれる有名な研究報告がある。

これはスタンフォード大学のウォルター・ミシェル博士らによる研究で、186人の4歳児を対象に行われた。対象になった子どもたちを追跡調査し、子供の社会行動調査の中で最も成功した調査の一つとされているものだ。

この研究が広く知られるようになった後も、自己制御力(Self-Regulation いわゆる自制心)が、子供の学習能力、社会性、情緒の発達のために重要であるということは、多くのリサーチで確認されてきた。

これほど子供の成長の要となる自己制御力だが、幼稚園や小中学校で、これを高めるためのカリキュラムがどれほど取り入れられてきただろうか?

ほんらい、日本の学校における朝礼、運動会とその練習、教室の掃除といった活動は、自己制御力の開発という意味でも、大きな役割を果たしてきたと思われる。しかし形式だけが残ってしまっては、ほんらいの教育効果が薄れる。

今こそ、せっかくの価値ある伝統の意図を、もういちど見直してアップデートするチャンスかもしれない。

 

 

■子どもたちが楽しく学べるマインドフルネス

子どもたちが自己制御力を高めるメソッドとして、マインドフルネスを応用したアテンショントレーニング(注意力を養う訓練)が、アメリカやイギリス各地の学校で行われ、成功をおさめている。

iRest for Kids, Inner Kids, Mindful Schools, MindUp, Leaning to Breathe, the Mindfulness in Schools Project, the Inner Resilience Program, Quiet Time, Still Quiet Place, Stressed Teens (MBSR Teens), the Attention Academy Programを始めとして、多数拡がっているのだ。

(Shauna Shapiro, Kristen E. Lyonsらによるレビュー「Contemplation in the Classroom: a New Direction for Improving Childhood Education」(2014)より抜粋)

これらのプログラムの共通点は、

1. 自己制御力に含まれる、感情と社会性のスキル、そして脳の実行機能(Executive Function:目的に向かって反応や行動を調節する能力)を高めるためにデザインされ

2. 実施者(先生)自身がマインドフルネスメディテーションの熟達した実践者であること

3. 子供向けには、短時間で、道具(ぬいぐるみ、ベル、スノーボールなど)や物語を使うなど工夫する

4. 教師、スタッフ、保護者など周囲の大人も教育を受ける

などである。

【具体例と成果】

プログラム名・対象者プログラム概要リサーチ結果
Mindful Schools
主に貧困・非行などの問題の多い地区の53の小中高校で生徒18,000人、教師750人。(2012年3月現在)
音、呼吸、体感覚、感情などの観察法、テストを受ける心の準備、感謝、思いやり、やさしさなどについて、1セッション15分を週に2-3回、計15セッション行う。社会性の向上が見られ、また注意力を計測するANT-Cテストで、注意力の改善が確認され、その効果はプログラム終了後も維持された。
the Inner Resilience Program(IRP)
幼稚園から中2までの生徒と教師、学校のスタッフ対象。2002年より生徒40,000人、教師・スタッフ6,000人、保護者3,000人に対し行われている。
Building Emotional Intelligence: Techniques to Cultivate Inner Strength in Children (Lantieri 2008)に基づき、自己制御、マインドフルネス、思いやり、注意力などを教える。CDを用いて身体のリラクゼーション、マインドフルネスメディテーションなどを実習。教師の間では、ストレスレベルの低下、注意力のレベルアップ、同僚との信頼感の向上が確認された。生徒からは、自発性の向上や教室でのフラストレーションの低下がみられた。
Quiet Time
サンフランシスコ、オークランド近辺で62%が低所得世帯、98%が有色人種の、小5-高校3年までの生徒2000人と教師・事務職400人に対し実施。(2011年現在)
学校全体が、1日2回、1回15分の「クワイエットタイム」を毎日行う。その間、生徒はメディテーション、静かに読書、などその場で静かにリラックスして坐る。教師とスタッフも、ストレス管理法としてメディテーションを学ぶ。生徒の出席率が98%まで上がり、停学は45%減少、生徒の不安感が減った。またセルフエスティームの向上があった。教師・事務職のストレスが減り、EI(エモーショナルインテリジェンス)が向上。
現在10以上のベイエリアの学校が実施待ちである。
Quiet Timeの成果が紹介された記事はこちら

貧困層の多いエリア、不安定な家庭環境の多いエリアの学校でも、メディテーションやマインドフルネスの授業によって、良好な結果を得ていることが特に今後の希望を感じる。Shauna Shapiroらは上記に紹介したレビューで「メディテーションなど内面を観る行為を子供に実施させることは、健康な行動パターンと脳の発達をもたらし、子供時代もまた大人になっても有益であろう。特に幼少期は活発な神経可塑性(神経細胞を結ぶシナプスの伝達能力が、刺激量によって変化すること)により、自己制御力の向上など、健康的な影響が期待できるため、メディテーションを学ぶには好機である」と結論付けている。

■今こそ、教室の掃除や朝礼の意味を問い直すとき

以前のブログでも、ビジネスの世界で、IQよりもエモーショナルインテリジェンス(EI)の高い従業員が、より高い成果と満足を達成していること紹介した。EIの世界的権威であるダニエル・ゴールマンが指摘するように、自己制御力とマインドフルネスはEIの大きな要素であり、子どもにも大人にもこの教えは有益であることが様々な分野で示されているのである。

日本で行われてきている、自己制御力を高めるための活動(教室のそうじ、朝礼、挨拶の励行、運動会とその準備、他)は、子どもたちが善き人生をつかむためにも実は大切なもの。それに加えて、このようなマインドフルメディテーションやクワイエットタイムのようなプログラムが教室で取り入れられていったら、どのような変化が起こるのだろうか?

(一般社団法人マインドフルリーダーシップインシュティテュート理事 木蔵(ぼくら)シャフェ君子)

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