UBERが後押しするアフリカの青年の夢

UBER(米国発配車サービス)は日本ではまだあまり発展していないようですが、その対極にあるのが、アフリカ大陸での急成長ぶりです。

UBER(米国発配車サービス)は日本ではまだあまり発展していないようですが、その対極にあるのが、アフリカ大陸での急成長ぶりです。

UBERは2009年に米国のサンフランシスコで誕生し、2012年には国際的にその事業を展開し始めました。アフリカには2013年南アフリカのヨハネスブルグでその営業を始めています。2016年10月現在、以下のアフリカの都市でUBERが使えるようになっています。

南アフリカ:ヨハネスブルグ・プレトリア、ケープタウン、ダーバン、ポートエリザベス

ナイジェリア:アブージャ、ラゴス

エジプト:カイロ、アレキサンドリア

ケニア:ナイロビ、モンバサ

ガーナ:アクラ

ウガンダ:カンパラ

モロッコ:カサブランカ

実は、私が実際にUBERを使ったのはごく最近です。

南アフリカ・ダーバンに住み仕事をしている私は、通常、移動には自分の車を使います。が、今回、続けてタンザニアとヨハネスに合計2週間出張する機会があったので、自宅と空港の往復にUBERを使ってみたのです。

最初のUBERは、ダーバンの町中から空港(約19キロ)まででした。料金はR146、日本円にして1100円ほどです。通常のタクシ―ですとR220から、ということですので、料金的にはUBERが35%ほどお得ということになります。

タンザニアではUBERを使う機会に恵まれなかったのですが、ヨハネスでは友人と一緒に頻繁にUBERを利用しました。ヨハネスに住む友人が、"Let's UBER!"とUBERを動詞として使っていることに驚かされました。もう、動詞になるほどUBERがヨハネスでは市民権を得ていたのです。

ダーバンの空港から我が家までは、R474(3600円)で、かなりお得感がありました。以前、空港でタクシーを使って、我が家に着く前に、あまりの高さに途中下車しようとさえ思ったことがあるからです。ちなみに我が家から空港までは60キロです。

さて、国際的にも同じだとは思いますが、南アでのUBERの使い方はこうです。

① 利用者のスマートフォーンに、UBERの無料アプリをインストールする。

② そのアプリに利用者の個人情報と使用したいクレジットカードの情報を入れる。

③ クレジットカードは、ビジネス用と個人使用とに分けたい場合、複数のカード情報を入れることができる。

④ UBERを使用したい、と思ったら、アプリを立ち上げて、利用者の所在地を確定する。

⑤ 行先を入力する。

⑥ 利用者の現在地から一番近くにいるUBERドライバーに連絡が入り、何分で利用者の現在地に到着するか、といった情報が届く。

⑦ ドライバーの名前と車両のナンバープレートの番号情報が届く。これは、UBERの車両には、一切UBERのロゴなどが示されていないため。

⑧ 想定される料金情報が提供される。

⑨ ドライバーの現在地情報がどんどん更新される。

⑩ ドライバーが到着し、利用者がUBERのアプリで示されている車のナンバープレートを確認して乗車する。

⑪ 高速料金などは、ドライバーが負担し、料金に加算される。

⑫ 目的地到着。

⑬ チップも料金もすべてカード決済のため、そのまま下車する。

*私の携帯に届いたスボンギレの写真と料金の提示

これが一連の流れです。正直言って、アフリカで暮らしていて、ぼったくられる可能性が非常に高い外国人である私にとって、これはかなり画期的な体験でした。

また、UBERの運転手さんたちのフレンドリーなことと言ったら、感激ものでした。

性格柄?商売柄?、根掘り葉掘り彼らに質問してしまいました。まず、UBERのドライバーになるためには、自分の自動車を持っていなくてはいけない、ということ。新車である必要はないようですが、中古車でも4年以上使った車はダメ、ということです。また、車両保険なども必ず入らなくてはいけないルールがあるようです。

UBERが営業許可を受けていない、いわゆる"白タク"ではないのか、という疑問もあるようですが、ネットで調べてみる限りでは、南アでの営業許可は収得しているようです。

UBERのドライバーがUBER社に手数料として持っていかれるのは売り上げの20%だそうです。UBERに職替えして、ものすごくシアワセだ、という、運転手さん・スボンギレ(仮名)にずばり聞いてみました。彼は前職の営業中に怪我をして、その保険金を頭金にして、新しめの中古車を購入しUBERのドライバーになり、現在に至っているそうです。

「すべての経費、それこそ、車のローン、ガソリン代、車両保険代、修理費、タイヤの代金などなど、すべて引いて月額どのくらいの収益があがるの?」

「すべての経費を引くと、手元に残るのは、平均でR15000(11万3千円)ほどかな。UBERのドライバーになる前の運送会社では無理を言って12時間くらいシフトを組んで働かせてもらっても、給料の総額が税金を引かれる前でもっと少なかった。実際手取りはR9000(68000円)くらいだったから、僕は今、ものすごく嬉しいんだ。家族もね!」

実際、現金収入としてのこの金額は、大学を卒業した公立学校の先生の月給がR8000~R20000くらいだということを考えると、破格です。

スボンギレは、目を輝かしてこんなことも語ってくれました。

「このいま使っている車のローンもあと少しで終わる。そうしたら、もう一台の車を買うための頭金が貯金できるんだ。あと2年以内にはもう一台新車を買って、運転手を雇って二台目のUBERのオーナーになるつもりなんだ。僕にこんな希望を与えてくれたUBERにはとっても感謝しているんだ」

彼の境遇を聞いてみると、シングルマザーのお母さんに育てられて、一番年長の彼は、下に5人の弟がいるそうで、弟たちの学費はすべて彼が面倒を見ているそうです。

南アフリカで多額の資本も持たず、学歴も特殊なものを持っていない青年が、社会的にのし上がって行くのは不可能ではないにしても、かなり困難です。

まず、将来の展望をこんなに希望を持って語ること自体が非常に珍しいのです。さらに私が感嘆したのは、彼のこんな発言。

「僕はダーバンにいるUBERの運転手の組合を作って、車両保険会社と保険料の交渉をしたいんだ。中にはあまりいい保険にはいっていないドライバーもいるんだよ。大勢で加入したら、保険料だってもっと値引きされていいはず」

スボンギレの視野には、自分だけでなく、他の同業者のことも入っているのです。弱冠28歳でこの矜持。これはUBERの事業形態が、アフリカにおいて起業家精神を持つ若者を後押ししているか、ということの証明です。

UBERはここにきて、アフリカならではのサービスも始めています。それはずばりキャッシュでの支払いです。このキャッシュでの支払いを試したケニアでのナイロビではそれまでの3倍に利用者が増えた、ということです。

ただUBERには、やや懸念されることもあります。

それはずばり、税金の支払いです。なんと、スボンギレは、収入に関わる税金はUBERに鞍替えしてから一回も払ったことがないそうです。これでは他のタクシー会社から文句が出るのは当然です。南アは年間収入が約60万円以上になると、所得税がかかりますから、元締めの南アUBER社がドライバーたちを"個人事業者"として、厳しく指導していくべきのことでしょう。難しそうだけど......。

残念ながら、地域によっては、お客を取られて不満のある他のタクシー会社のドライバーたちがUBERの車にいちゃもんをつけたり、暴力沙汰になったり、ということも起きているようです。

新しい社会現象が起きると、旧体制から嫉妬されたり、また後追い的に制度ができてくるのは世の常です。つまり、新しい動きに社会が追いついていない、ということですね。でも、ぜひこういったスボンギレたちドライバーの夢がつぶされないよう、柔軟に対応していって欲しいと願っています。

スボンギレ、がんばれ~!

(2016年11月1日「空の続きはアフリカ」より転載)

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