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橋下流メディア・コミュニケーションのあやうさ

2013年05月29日 23時47分 JST | 更新 2013年07月29日 18時12分 JST

橋下徹大阪市長による従軍慰安婦関連の発言を報じた朝日新聞に対し、橋下氏が「誤報だ」と指摘している件、これは完全に橋下氏の暴走ですね。

この記事で事実関係は十分だと思いますが、一応、問題となった5月13日午前の囲み取材の記録もご参照ください。

そりゃそうですよ、あれだけ銃弾の雨、銃弾が雨嵐のごとく飛び交う中で、命かけてそこを走っていくときにね、それはそんな猛者集団といいますか、精神的にも高ぶっている集団はやっぱりどこかでね、まあ休息じゃないけれどもそういうことをさせてあげようと思ったら慰安婦制度っていうものは必要なのはこれは誰だってわかるわけです

こう語った以上、朝日記事の見出し「『慰安婦は必要』波紋 橋下氏発言」が誤報でないことは明らかです。

橋下氏がこだわる「『僕が』なのか『当時は』なのか」云々は、本人がどう思おうと、メディアの裁量範囲の事柄ですから。これで誤報になるのなら、すべての新聞もテレビも報道活動はできなくなるでしょう。無意味なイチャモンで、友好的なメディアまで敵に回しかねない愚行は、政治家として、避けるほうが得策です。

もう1点、指摘しておきたいのは、橋下氏に特有のメディア・コミュニケーション手法とその危うさです。

13日午前の囲み取材で橋下氏は、「植民地支配と侵略をおわびするという村山談話についてどう考えるか?」という、たった1つの質問に対し、文字にして3,783字、400字詰め原稿用紙9枚半におよぶ言葉を、一気に吐き出しているのです。いったい何分間、話し続けたのか・・・?

全文をゆっくり読めば、言わんとしていることはなんとか分かるし、それなりに論旨も通っていると感じます。メモも見ず、これだけ多岐にわたる内容を一気に話す能力は尊敬に値しますが、政治家のメディア対応としては、「場」の性格を間違えています。

囲み取材はオープンな報道現場であり、オフレコのバックグラウンド・ブリーフィングや懇談ではありません。橋下氏はおそらく「全体の文脈で(発言の意味を)判断してくれ」という気持ちだと推測しますが、記者はあくまで通常の取材活動として「ニュースになる発言を記事にする」ために集まっているのです。橋下氏の歴史観や世界観をじっくり拝聴しようというわけではありません。

知事になり、今市長ですが、この5年間、毎日会見に応じています。朝と夕方では、だいたい30分から長いときで1時間、週に1度は2時間の記者会見、質問は制限がありません。メディアから質問がなくなるまで答え続けています。メディアの制限、資格制限はしていません。すべてテレビカメラに記録されています。 そのような5年間のなかで、今回私の一つのワードが抜き取られて報じられたのが、今回の騒動のきっかけです。

橋下氏は27日の会見で、このように語っています

毎日、たくさんの番記者に囲まれ、30分から1時間におよぶ囲み取材をこなす。そのうち、気心の知れた記者も何人かできてくる。長尺のコメントをしてもテレビは好意的にオンエアしてくれるし、新聞もおおむね好意的に書いてくれてきた。こうした日々の積み重ねが、いつの間にか、政治家に必要な警戒心をゆるめていたのだろうと推測します。

単に村山談話への考えを質問されたのに、わざわざ従軍慰安婦というリスクのきわめて高いテーマを持ち出し、さらに、いろいろなテーマとごっちゃにしてだらだらと話すものだから、聞き手は全体の論旨が分からなくなる。だから、ニュースになりそうな「言葉」をピックアップし、その後で論旨を推量するしかなくなる。こういうメディア側の状況を、自らが生み出したといえます。

政治家が「論旨をねじまげられた」「発言の一部を恣意的に取り上げられた」などとメディアに抗議するケースでは、今回のように、「本筋の話の"ついで"や"おまけ"としてリスキーなテーマをひょっこり持ち出し、論旨(意図)が不明確なまま、中途半端に言及する」ケースが多いものです。

橋下氏の朝日新聞に対する言い分は、件の記事の見出しが「当時の各国は慰安婦制度を必要としていた事実がある、と話したのに、橋下自身が(慰安婦制度が)必要だと考えている、との誤解を生む」ことにあるようです。

しかし、その原因は、橋下氏が政治家として、慰安婦制度についてどのように考えているのか、明確に(聞き手が理解できるように)コメントしなかったことにあります。

本来、望ましくないものだと考えるのなら、「私自身はこうした制度は望ましくないと考え、世界からなくしたいと願っている」――といった「意図」をはっきり示したうえで、「しかし現実には・・・・」と持論を展開していれば、結果は違っていたと思います。

それを無視してまで発言の断片のみをクローズアップすることは、たとえ悪意のある記者でも、なかなかできないものですから。

橋下氏が賢明な政治家なら、これを機に、リスク案件に関わるコミュニケーションの手法を変えてくることでしょう。