「地域医療を考える人はだれ??」福島県双葉郡広野町・高野病院奮戦記第9回

平成30年4月をめどに、双葉郡富岡町に「ふたば医療センター(仮称)」30床が開院されます。しかし、総事業費のことを聞き、複雑な感情を持たざるを得ませんでした。

平成30年4月をめどに、双葉郡富岡町に「ふたば医療センター(仮称)」30床が開院されます。

双葉郡には2016年9月現在、二次救急を受け入れる医療施設がありません。重症の場合は福島県立医大か、北の南相馬市立病院、南のいわき市立共立病院などに60分から120分かけて救急搬送する必要があります。

そんな中、今年5月の連休に、広野町の母子が乗った乗用車と観光バスが、いわゆる警戒区域内の双葉郡の高速道路で衝突する死亡事故が起きました。この事故が契機となり、二次救急に対応出来るための施設として建設されるのが「ふたば医療センター(仮称)」です。

高野病院は診療科が精神科・神経内科・内科・消化器内科と限られているため、すべての救急を受け入れることは残念ながらできません。

整形外科的処置や、ましてや交通事故の患者さんを十分に受け入れることもできませんが、震災後は双葉郡で夜間、日曜祝日等に機能している医療機関がないため、できうる限りの救急要請には応えてきたつもりです。

「自分たちができること粛々と行う」というのが当院の院長の考えなので、私たちは院長の下、そういう思いでこの地で医療を提供し続けてきました。

しかし、ある日突然まさに降ってわいたように、新聞による報道で、このセンターの建設を知らされたのです。前述したように、高速道路での事故をうけて、急がなくてはならないという県の判断だったようですが、私たちにとっては、ある日目が覚めたら、家の前に大きなお城ができていた…くらいの驚きでした。

このセンターは、経営責任は県が負うことになりますが、医師は県立医大の救急・内科・外科の医局から、加えて広島大学から家庭医の先生が派遣されると聞いています。対象患者は、救急車での搬送者と自ら来院された患者さんを予定しているとのことでした。

救急車の受け入れや時間外受診の患者さんが増加し、徐々に疲弊しつつある、我々、高野病院にとってもありがたい話、早く稼働して欲しいという思いは強くあります。

しかし先日、福島県病院局の課長がこの病院の整備について説明にいらした際、これにかかる総事業費のことを聞いて、複雑な感情を持たざるを得ませんでした。

「ふたば医療センター」の総事業費は約24億円です。医療機器などの備品代を含むかで前後はしても、30床で24億円。単純計算で1床8千万円です。

もちろん、この施設が地域医療に役立つならば、私達が口を出すことではありません。私たちは震災後、自分たちの出来る最高の医療の提供だけを考えて地域の方々に向き合ってきました。

人が少ない時でも、自分たちが思う100%の医療提供を目指して日々頑張ってきたのです。その気持ちは、どんな建物が建とうと、どんな施設ができようとも変わらないのです。

ですから、このセンターが開設された際、私達ができることは二次救急のバックアップ的な役割を果たすことではないかと考えました。周辺の病院と連携をとる必要もあるだろうと。。

この点において、今後の病診連携をどう考えるのか?という質問に対しても、病院局からは「私たちは、この病院の経営を考えており、地域医療のことは考えていません。それを考えるのは県の地域医療課です。」との回答。

では地域医療課はどう考えているのかと被災病院協議会の席上で地域医療課副課長に確認しても、あくまでも「この二次救急医療機関は、双葉郡の首長やみなさんが望んだもの。」で、自分たちはその要望に応えただけであるとの回答でした。

それに加えて、現在避難区域内で休止している県立病院を再開した際には、この施設を閉鎖するというのです。国の方針に沿えば5年以内には避難指示が解除される予定です。

つい、「最初からつぶすものに24億円ですか!」と大きな声を出してしまいました。どうして既存の医療機関を活用しないのだろう、どうしていつも形ばかりにお金をかけるのだろう。震災後、医療機関だけではなく、商業施設についてもいつも同じことを思っていました。

ふたば復興診療所(リカーレ)ができた時も、ふたば救急総合医療支援センターの制度ができた時も、双葉郡医師会がいわきに診療所を2つ建設したときも、既存の医療機関を支援して再生させてくれた方がよほどお金も労力もかからないのにと、つい愚痴ってしまうこともありました。

しかし、院長の「人のことはしょせん人のことだ、気にすることはない。自分たちの出来ることを考えろ。」という言葉に、行政に対して否定的な、自分の気持ちをその度に改める日々でした。

民間の病院に不平等に支援することはできない。私たちの病院を支援すれば平等ではなくなってしまうという、答えが出てくるのはわかります。

前例のない原子力事故によって、崩壊した地域の医療を再生し、医療を本当に必要な人たちのために提供するのに、民間も公もないのでは?何とかしてくれないのだろうかと思うのは思い上がりでしょうか。

今後も公の施設に、湯水のように使われるお金が、本当に本当に、地域の医療の復興に役に立つことを願ってやみません。

(2016年10月25日「MRIC by 医療ガバナンス学会」より転載)

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