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新聞記者の"自分事化の術"。話を聞いたら、水をめぐる世界の問題が見えてきた《2030 SDGsで変える》

2017年03月30日 00時47分 JST

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新聞記者の"自分事化の術"。話を聞いたら、水をめぐる世界の問題が見えてきた《2030 SDGsで変える》

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藤谷 健 朝日新聞社コンテンツ戦略ディレクター

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《朝日新聞 2030 SDGsで変える》コーナーへ

「SDGsって聞くけれど、よく分からないなあ」。最近こんな言葉を聞く。

はじめから自分自身の話で恐縮だが、私は朝日新聞の記者として、タイやインドネシアなどの途上国にも住み、アジアやアフリカで貧困や紛争、食糧、難民といった問題を長く取材してきた。しかし、そんな私も、SDGsをきちんと理解しているか、本当のところ自信がない。

調べると、次のようなことが分かる。

貧困や気候変動、ジェンダーなど、地球上の課題解決を目指す国際的な約束。「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)」の頭文字がSDGs。2015年9月の国連総会で採択され、世界各国が2030年までに達成すべき17の目標と169のターゲットが盛り込まれている。日本でも昨春、政府のSDGs推進本部が発足した...。

国連広報センター外務省NGO「動く→動かす」など参照)

確かに、この世界は"社会課題"に満ちている。 SDGsはそこに注目している。

新聞記者だって分からない。だから聞きにいく

さらに、17の目標を読んでみた。<1.貧困をなくそう、2.飢餓をゼロにする、3.すべての人に健康と福祉を...>。いずれもその通りだが、どうも身近な感じがしない。一方で、地球温暖化とか異常気象とかは、それなりに日常会話にも出てくる。だがこうした言葉が、「SDGs」とまとめられると、急にぴんとこなくなる。

それはなぜなのだろう。結局、SDGsが「他人事」に思えてくるからなのではないだろうか。(夏が異様に暑かったり、大雪が降ったりするので、温暖化などは自分事に感じる、といった具合だ)

分からなければ聞きに行こう。「自分事」にする何か手がかりが得られるかもしれない。これまで取材で出会った"社会課題の解決に奔走する"人たちに「SDGsとは何か」「私たちは何ができるのか」といった疑問をぶつけてみよう。そうした積み重ねから、答えとなる、何かの像を結ぶことを期待しながら。

きれいな水がない社会

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▲写真右がウォーターエイドジャパンの高橋郁さん。

最初に訪ねたのは、NGO「ウォーターエイドジャパン」。東京・両国の事務所で、事務局長の高橋郁(かおる)さんが取材に応じてくれた。高橋さんと初めて会ったのは、インドネシア西部スマトラ島のメダンという街。2004年の年末に起きた大地震と津波で、スマトラ島を中心に16万人以上が犠牲になった際、緊急援助活動のため日本から入った高橋さんと被災地に一緒に入った。取材をするのはそれ以来かもしれない。

今回のテーマは、目標6「水と衛生」。ウォーターエイドは、水や衛生に特化して活動する数少ない国際NGOだ。高橋さんによると、イギリスで水道事業に携わる人たちが、途上国の人にもきれいで安全な水を届けたいと願い、立ち上げた団体だそうだ。

日本では、水道が完備し、コンビニやスーパーに行けば、水を買うこともできる。途上国でも、水を買うことはできるが、貧困層の住民には負担が重すぎる。一方で水道の整備は遅れているので、衛生的ではない水を使っている。その結果、慢性的な下痢が続き、多くの子供たちは栄養不足や栄養失調に悩まされている。高橋さんに、ウォーターエイドが活動する、アフリカ大陸の南東沖、インド洋に浮かぶ島国マダガスカルの事例を教えてもらった。

水のために、子供が学校を辞めなければならない

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▲ゼエちゃん(写真右)とソロちゃん(写真左)の水汲みの様子。写真提供:WaterAid / Abbie Trayler-Smith

高橋さんが語ってくれたマダガスカルのリアルは想像以上に深刻だ。同国は、人口の9割が1日2ドル以下で暮らす最貧国の一つとされる。中でも「安全な水」をどう得るかが、深刻な問題になっている。人口の48%にあたる1170万人が、汚れた川などからの不衛生な水を使い、例えば、1年間に下痢でなくなる子供の数は2100人にも達するという。

水がなければ生きていくことはできない。だが水道や井戸の整備が遅れており、住民は水売り人から水を買うか、決してきれいとはいえない水場から水汲みをするかの選択をせざるを得ない。経済的に余裕のない多くの人たちは1日に数度、水汲みに向かう。

大人や少年は農作業にあたるため、水汲みを担う多くは、女性、それも少女たちだ。水を詰めたバケツやポリタンクを頭にのせ、時には素足で、山道を上り下りしながら運ぶのは、彼女たちにとって、過酷な重労働だ。

中部ヴァキナカラチャ県の農村部に暮らすソロちゃん(当時13歳)は、毎朝夜が明ける5時ごろ、水汲みのために起床する。「早起きは大変だけど、朝の方が水がきれいだから」。一人だと心細いので、近くの友達の家をノックして回る。日によって違うが、12歳から16歳ぐらいの少女達が2人から数人集まり、一緒に水辺に向かう。道すがら、たくさんおしゃべりをするのが楽しみだ。

道は、細く、曲がりくねり、坂もある。両脇には背丈ほどの草や棘のある木が生えており、けがもしょっちゅうだ。親友のゼエちゃん(当時12歳)は、水汲みの途中で足首をひねった。痛くて歩けず、泣きながら這うように家に戻った。ゼエちゃんは、低栄養が原因で、6歳児ほどの体つきだ。彼女にとって、水汲みは本当に辛い。朝一番に田んぼの脇にある水場に着くと、水は澄んでいる。でも水を汲むにつれて、汚れが増し、黄色くなっていく。嫌なにおいがするだけなく、小さな虫もいる。時にはヒルがいるので、目をこらす。「間違って飲んでしまうと、大変なことになってしまうから」

家に戻ると、朝食づくりもソロちゃんの仕事だ。両親は畑仕事の準備があるためだ。食事が終わると、薪拾いに行く。水汲みには日に5回、多い時には7回向かう。11歳の時に入学した小学校も、結局2年もたたず、自分の意思でやめてしまった。作文の授業が好きだった。「学校が懐かしい。学校に通う友達が羨ましいです。でも家族が暮らすためには、両親を支えなければなりません」。家事の合間に、教会からもらった人形でお母さんごっこをしている。「前はとうもろこしを赤ちゃんに見立てていました。いまはこの人形が大好きです」

日本では当たり前の設備が、子供に未来を与える

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▲水道に喜ぶ子供達。写真提供:WaterAid / Ernest Randriarimalala

最近、ソロちゃんたちの村に新しい簡易水道ができた。村人が総掛かりできれいな水の出る井戸を掘り当て、パイプをつなぎ、村の簡易ポンプまで水を運んだ。その結果、村の少女たちは水汲みから解放され、ソロちゃんもゼエちゃんも学校に再び通うことになった。

高橋さんによると、他の地域では、学校に戻っても、また別の問題があるという。「学校にトイレがないので、周辺で済まさざるを得ない。それが嫌で学校に行かない子もいる。また水源を汚染し、病気の蔓延につながります」。水や衛生は、教育や健康の問題に深くつながる。支援によって、ソロちゃんやゼエちゃんのような少女たちの暮らしを大きく変えることができる。ポンプからきれいな水が出てきた時の写真を見せてもらった。二人の弾ける笑顔がとても印象的だ。

聞けば、見えてくる。世界の課題が実像化してくる

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写真提供:WaterAid / Abbie Trayler-Smith

SDGsは解決すべき課題として次のように定義する。

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目標6:すべての人に水と衛生へのアクセスと持続可能な管理を確保する

Ensure access to affordable, reliable, sustainable and modern energy for all.

・安全な水を得られる人々の割合は改善している。一方でトイレなどの基本的な衛生サービスを利用できない人は25億人に達する

・安全な水と衛生が十分確保されていないため、1日平均5000人の子供の命が失われている

・水力発電は2011年時点で、最も重要かつ広範に利用される再生可能エネルギー源になっており、全世界の総電力生産量の16%を占めている

・自然災害関連の死者のうち、15%は洪水による

(国連広報センターのプレスリリース<2015年9月17日>より抜粋)

蛇口をひねれば、きれいな水が出る。私たちにとっての日常も、ある国には"当たり前"でない。そして子供の未来に大きな影を落としている。21世紀のいまも、世界中に多くのソロちゃん、ゼエちゃんがいる。二人の話を聞くことで、リアルな現実の一端を知ることができた。次は自分が何をできるかを考える番だ。いかに自分事にするか。そこが問われている。

アイキャッチ写真提供:WaterAid / Ernest Randriarimalala

writer:藤谷 健

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朝日新聞社コンテンツ戦略ディレクター

1987年、国際基督教大学(ICU)卒業後、朝日新聞社入社。在学中、フィリピンの大学に留学。宇都宮、札幌を経て、ロンドン大学東洋アフリカ研究学院(SOAS)で開発学修士。ローマ、ジャカルタ、バンコクに駐在するなど、主に国際報道畑を歩む。途上国の開発問題や日本の国際協力、アジアやアフリカがテーマ。英語のほか、インドネシア語やタイ語を話す。