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小泉進次郎氏も注目の「規制VSイノベーション」論 超ミクロ偵察機、空飛ぶ車...SF映画の世界が実現へ。ドローンの秘める無限の可能性(下)

2015年08月31日 23時45分 JST | 更新 2016年08月30日 18時12分 JST

ゲスト 野波健蔵・千葉大特別教授、自律制御システム研究所社長

皆さんと記者が一緒に考え、課題解決へ<朝日新聞・未来メディア塾 オープン・カフェ vol.5>(2015/7/28開催)

イノベーション分野のスペシャリストを招き、参加者の皆さんと朝日新聞記者がともに社会的な課題について向き合い、解決策を一緒に考える「朝日新聞・未来メディア塾」の「オープンカフェ vol.5」が2015年7月28日、東京・六本木ヒルズのアカデミーヒルズで開催された。

「ドローンで変わる!?未来社会」と題し、国内のドローン研究第一人者野波健蔵氏(千葉大学特別教授・自動制御システム研究所社長)をゲストに迎いた今回のイベント。レポート前半では、「空の産業革命」と言われるドローンの産業利用の現状について、野波教授が動画を活用しながら解説。畑ごとに生育状況の差を把握して効率的に農業ができる取り組みや、人間の目が届かない範囲をスピーディーに一望できるインフラ点検での活用など事例紹介の模様をお届けした。後半は、社会問題としてホットなトピックになっている法的規制とイノベーションの両立について触れつつ、参加者との質疑応答の中でどよめきが起きた「まるでSF映画」のようなドローンの近未来像の話に入る。(文・ソーシャルアナリスト 新田哲史)

小泉進次郎氏も注目の「規制VSイノベーション」論

野波教授が続々と提示する産業での利用動向に釘付けになってしまう一方で、ドローンが社会的に認知されたのは、紛れもなく今春以降相次いだ事件がきっかけだったことは忘れてはなるまい。

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4月には首相官邸屋上でドローンがすでに飛来していたのが発見され、機体に取り付けられた容器内の土からは、放射性セシウム物質が検出。のちに原発再稼働に反対する40代の男が威力業務妨害容疑で逮捕された。5月には、長野・善光寺の御開帳法要中にドローンが落下。これを操作していた15歳の少年はネット上で挑発的な言動を繰り返し、その後、東京・三社祭でドローンを飛ばすと予告したことが主催者の通常業務を妨害したとして、威力業務妨害容疑で警視庁に逮捕された。

一連の事件を受け、政府や国会で規制に向けた動きが本格化したが、一方で、コーディネーター役の篠健一郎記者が「産業の発展と規制の両立はどうあるべきか?」と提起したように、過剰な規制はイノベーションの芽を摘み取る恐れがある。"両立問題"を巡っては、少年の逮捕直後に小泉進次郎・復興政務官が報道陣の取材に「悪用を規制で防ごうと思ったら、イノベーションなんか産まれない」と発言し、ハフィントンポスト日本版で配信された質疑応答の記事がネット上で大きな反響を呼んだ。

規制化でむしろ産業活用は進む !?

イベントの後半、野波教授は日本国内で検討中の航空法改正等のドローン規制の動きについても解説した。それによると、通常国会で審議中の改正案人口密度が1平方kmあたり4000人以上の地域で国土交通省に無許可での飛行を禁止。つまり東京23区のような都市部で勝手に飛ばすことは違法になる。また日没から日の出まで、つまり夜間の飛行も原則禁止となり、危険物搬送も規制の対象になる。違反した者には50万円以下の罰金となる。改正航空法案が国会で成立すれば来年1月までには施行の見通しだ。

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一方で、人口の少ない地方では「ドローンを活用して地方への人の流れを変えようという動きがある」と指摘。"ドローン特区"のように地方創生に活用できる可能性についても取り上げられた。また、都市部でも首都直下型地震のような緊急時においては、自治体が認めれば飛ばせる特例もある。

野波教授は事件を機にマスコミでの登場が増えた経緯がある。

では、規制について教授自身はどう見ているのか。自らも大学発ベンチャーを起こしてドローンの産業活用に取り組んでいるが、「個人的にはありがたいと思っている」という。「航空法改正(規制化)によりドローンは飛躍的に発展する」とも語ったのは、一見意外にも思えるが、「事故が多いのはファントムを安易に買ってきて飛ばしているから」と指摘。その上で、「事故があれば会社の存亡に関わる。産業用ドローンは落ちない工夫をして安全管理を徹底している」と強調する。むしろイノベーションを促進する米国などは、日本で検討されている法規制よりも厳しいという

なお、教授も設立に関わったコンソーシアムでは、操縦から組立・分解のチューニング、危機管理までの学び、合格者が半数程度の厳しい試験を課しているという。ドローンは今後自動車と同じく、免許制の動きが進みそうだ。

スパイ映画の小道具と見紛う凄い機体にどよめき

さて、イベントは佳境へ。「ここからは未来の話をしましょう」という野波教授の一言を皮切りに、アメリカ等ですでに試験段階、あるいは実用化が想定されているドローンの将来像が次々に紹介された。

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災害での活用は現在、ネパールの地震等で活躍したような現地調査が中心だが、今後は物品の運搬まで広がる見通しだ。たとえば心停止した人に電気ショックを与えるAED(自動体外式除細動器)を運んで要救助者のところに落下させたり、海で溺れる人に浮き輪を投下したり、山火事で消火活動をしたりといった利用法が想定されている。ここまでは運搬までは想定内なので驚かなかったが、今後はドローンが大型化して、山岳地帯など人間の行けないところに飛んで負傷者を運ぶ救急ヘリも構想に上がっているという話は強い印象に残った。

ほかにもドローンの大型化で考えられるイノベーションとしては、自動車もあるという。

この日は終盤に会場との質疑応答も行われたが、「有人ドローンのタイミングはいつ頃か」という質問に対し、野波教授は「7〜8年後」との見通しを示した。自動車のイノベーションを巡っては、「自動運転」が既存の自動車メーカーに加え、グーグル等のIT企業も参入して激烈な開発競争が繰り広げられているが、野波教授は「3、4年後に自動運転が実用化する。車の自動運転が進めば、次は空」と断言。なんとSF映画で見たような空飛ぶ車がドローンの技術をベースにできるというのだ。

しかし驚くのは大型化だけではない。圧巻は「どれだけ小さくすることができるのか?」という質問が出た時だった。野波教授がその写真をスライド上映した時、会場のお客さんからどよめきが起きた。なんとサイズが1センチほどで、外見も「蚊」と見紛う"偵察機"が開発中というのだ。

「国防総省から大学に研究開発用の大量の予算が投下されている」と野波教授。"蚊"型ドローンは民生用というよりCIAの諜報活動や軍事用を想定している。もし今夏公開の人気スパイ映画『ミッション・インポッシブル』で、トム・クルーズがこの"蚊"型ドローンを使ったとしても、多くの観客が「スタッフが面白い思いつきをするものだね」といった具合にフィクションの産物と思うだろう。しかし、この"蚊"は紛れもなく現在実用化に向けて鋭意開発中で、近い将来、実戦に投入されるというから、もう現実なのかフィクションなのか分からなくなりそうで、篠記者も指摘したプライバシー保護の問題も起こりかねず、少し背筋の凍る思いもした。

このほか、会場からは「パソコンが普及したのはソフトウェアがオープンソースだったからが、ドローンはどうなのか」といった実務的な視点の質問も。野波教授は「5年くらいでドローンもOSができると思うが、かつてビデオの規格を巡ってベータとVHSが争ったように、日本としては世界標準を取らなければいけない」と述べた。コーディネーター役を務めた朝日新聞経済部の篠健一郎記者からも「ドローンの開発はアメリカ、中国の方が進んでいる。オールジャパンでドローンを作っていくべきで、きょう皆さんからアイデアをいただいたように、意見を出し合っていくことがドローンの発展にも大事だと思う」と語った。

ドローンによる「夢物語」はこれからだ

野波教授は締めの一言で「2027年にスーパーコンピューターは、スピードもメモリも現在の1000倍になる。きょうはSF的な写真もあったが、それらは夢物語ではない。今から12年後(2027年)を考えるとワクワクする」と目を輝かせた。ただ、それは参加者も同様だった。

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私立大学商学部2年生の女性は「ドローンというと悪いイメージしかなかったが、様々な可能性や使われ方があるのを知ってとても勉強になった」と感心し、大手ネット企業の男性(28歳)は「会社でもドローンで何かできないか新規事業のヒントになればと思い、参加した。野並先生のプレゼンテーションは事例が豊富でわかりやすく、2020年以降はこうなるという点で参考になった。蚊の事例は驚いた」と興奮していた。一方、プラスチック素材メーカーで法務を担当する男性は、「国による規制がどうなっていくのか動向は興味があった。篠さんの説明で、各国で規制がバラバラというのに驚いたが、安全性やプライバシーといった面のルールは統一化していくのが望ましいと思った」と、実務に即した視点から感想を話していた。

ドローンがテーマとなった今回のイベントは、日本社会が抱える規制とイノベーションの両立という社会的課題から、SF映画と見紛うようなイノベーションの可能性まで内容も多岐でありながら深いものになった。印象的だったのは、前回のテーマでもある「人工知能(AI)」、あるいは自動車業界で注目の「自動運転」といったほかのイノベーションの動向とも密接に関係があるということだ。その意味で、テクノロジーや産業の新しい動きは、多面的に注目して分析していかなければならないとも感じた。(了)