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フィンテックはMONEYの未来を変えるか?お金の不安を減らすテクノロジー時代が到来(下)

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フィンテックはMONEYの未来を変えるか?お金の不安を減らすテクノロジー時代が到来(下)
皆さんと記者が一緒に考え、課題解決へ<未来メディア・カフェvol.7>(2016/5/18開催)

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各回テーマの専門家を招き、参加者の皆さんと朝日新聞記者がともに社会課題について考え、何ができるかを模索する「朝日新聞・未来メディア塾 未来メディアカフェ」が2016年5月18日、朝日新聞メディアラボ渋谷分室(東京・渋谷区)で開催された。

今回のテーマは「フィンテックはMONEYの未来を変えるか?」。

朝日新聞経済部の藤崎麻里記者が、まずフィンテックを取り巻く現状を整理。ゲストの株式会社マネーフォワード取締役の瀧俊雄さんによって、フィンテックで可能になるサービスやその未来が語られた(上)に続き、政府が金融サービス向上のために活性化を図っているフィンテックと法規制との兼ね合いについて、もう一人のゲスト、金融庁総務企画局企画課信用制度参事官室企画官の神田潤一さんが語った。

後半の「ディスカッション&ワークショップ」では、フィンテックの未来を左右しかねない法規制の方針に、参加者らの強い関心が集まり、藤崎記者までもが神田さんに質問を畳み掛ける場面も。白熱したその模様をお伝えする。

■規制を見直すことで、フィンテックを推進■

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瀧さんに続いてマイクを握ったのは、金融庁の神田さん。これまで、金融機関はテクノロジーをうまく取り込み、サービスを提供してきたという経緯を紹介した。しかし、それはあくまで金融機関やノンバンクといった、銀行法や貸金業法、資金決済法といった規制の中の担い手によって進められてきた。

ところがフィンテックでは、規制の範囲内で行われてきた金融のコアの部分を、金融機関以外のベンチャー企業が規制の外側で担うようになってきた。資金管理サービスや口座管理アプリ、決済代行サービスやコンビニでの収納代行サービス、仮想通貨などがこれに該当する。

さらには、個人がお金を運用する部分と、個人にお金を貸す部分とは別事業としてこれまでは明確に分けていたが、貸し手と借り手をweb上でつなげて融資を行うP to Pレンディングは、「両者を橋渡しし、規制の境界をなくすようなサービスである」と神田さんは解説する。

仮想通貨については、テロ資金の調達などに用いられているという指摘があり、昨年6月にFATF(金融活動作業部会)ガイダンスが公表された。各国は仮想通貨の交換所に対し、登録・免許制を課し、顧客の本人確認義務等のマネロン・テロ資金供与規制を課すことを求められている。それを受けて、今回の改正法案には、仮想通貨に関する法規制も盛り込まれている。

一見すると、規制を強めているようだが、金融庁の意図は「利用者が安心して仮想通貨を利用できる最低限の環境を整備すること」にあると、神田さんは言う。

日本では2年前に仮想通貨「ビットコイン」の取引所である「マウントゴックス」が破綻するという事件が起こり、顧客は多大な不利益を被った。仮想通貨における規制が整備されていなかったこともその一因として指摘されている。そうした事例も踏まえながら作成されたのが、今回の改正法案だ。

こうしたフィンテックの動きに対応していくために、規制体系を見直す必要が出てきており、すでに「情報通信技術の進展等の環境変化に対応するための銀行法等の一部を改正する法律案」が国会に提出され、議論がなされている(その後、5月25日に成立)。

現状では、金融機関が金融以外の分野のベンチャー企業に出資することには厳しい制約があったが、改正法案では、銀行業の高度化や利便性の向上に資すると見込まれる業務については、金融庁が認可をする形で、柔軟に認めていくということが盛り込まれている。これにより、既存の金融機関がベンチャー企業と提携をし、外部のイノベーションを取り込むオープンイノベーションを推進する。

■フィンテックの成長を行政がバックアップ■

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さらに法案の審議と並行して、金融システムの根幹を支えるインフラ整備も進めている。高度なITを利用できるような柔軟かつ安全な設計が求められるが、その分莫大なコストがかかるため、「金融庁が旗を振りながら推進するべき分野でもある」と神田さん。注目を集めているのは仮想通貨の取引を支える「ブロックチェ―ン」という技術だ。

中央集権ではなく、分散型のコンピューターネットワークで取引情報を共有するとともに監視し合うシステムのため、コストの削減や、効率化が図れ、様々な分野に応用できる可能性があると大きな期待が寄せられている。
 

他にも金融機関のシステム上にある口座や決済情報を外部の業者がアクセスできる仕組みを公開する「オープンAPI」や、銀行の決済に用いている電文という情報フォーマットを国際標準に合わせて高度化する「XML電文」、国際送金の手数料を安く抑える「ローバリュー送金」など、多方面にわたってインフラ整備が進められている。

一方で、フィンテックビジネスが生まれやすくしたり、大きくしたりしていくためのサポート体制も欠かせないと神田さんは言う。昨年12月には「フィンテックサポートデスク」を金融庁内に立ち上げ、フィンテックビジネスに関する相談を専門部署につなぐ窓口の役割を果たす。

また、フィンテックに関わる各分野の第一人者を招いて行われる有識者会議も発足。フィンテックを大きく育て上げ、ベンチャーがベンチャーを生むような環境を整えていくとともに、こうした動きが金融業に与える影響に関する議論も期待されている。

フィンテックは、決済や送金、融資や保険、不動産など、非常に多岐にわたる領域にまたがり、サービスを提供している。そのため、金融庁としても多くの案件に同時並行して対応していかなければならない。

そのような中で神田さんが強調するのが、「これはバブルではない」ということ。フィンテックは、5年、10年というスパンをかけて着実に私たちの生活を変えていくものである。金融庁では、非常に大きなエネルギーをもった動きであると捉え、フィンテックの活性化に取り組んでいる。

■誰もがフィンテックを当たり前のように利用する社会へ■

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イベントもいよいよ後半に差し掛かり、「ディスカッション&ワークショップ」へと移っていった。参加者は2、3人グループに分かれ、感想や気づきなどをシェア。その上で、登壇者への質問をスケッチブックに書き込み一斉に掲げてもらった。

藤崎記者の目に留まったのは、日本から海外に向けてのフィンテックの展開や可能性、取り組みについての質問。これに対し、瀧さんは「世界へ展開していけるものは、おそらくインフラレイヤーのものになる」と回答。

直感や肌触りが重要なサービスレイヤーのものは、一つの国の中で閉じる傾向にあるため、ブロックチェーンのようなシステムや、送金網を敷くようなインフラに関わるもののほうが、海外展開の可能性は高まるのではないかという考えだ。いずれにしても具体的な戦略はまだこれから話し合っていく段階とのこと。

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すると、今度は逆に海外から日本にフィンテックベンチャーが進出してきた場合に、規制がかかるのかという質問が飛び出した。今のところ公式見解はないと前置きしたうえで、神田さんは「利用者の利便性を高めるものであればウェルカムだ」と答えた。

一方で、日本の金融システムが不安定化するのであれば、受け入れのスピードや範囲の面で段階的に規制の整備・見直しを進めることもあると可能性を示唆。

すると質問者は、「フィンテックの規制を考えた場合に、事前規制型か事後規制型のどちらの方向で対応していくのか」と重ねて投げかけた。

金融庁では、フィンテックに関して事前規制か事後規制かという整理は行っておらず、あくまで個人的な考えとしたうえで、「ベンチャー企業は失敗を繰り返しながらいいものを生み出していくものなので、失敗を許容する文化を金融の中にも取り入れる必要がある。そういう意味では規制の方針も変わっていく可能性がある」と神田さんは回答。

そこへすかさず藤崎記者が、規制を一部分だけ特区的に緩める「レギュラトリー・サンドボックス」という考え方について、神田さんにマイクを向けた。これも個人的な意見と前置いたうえで、「レギュラトリー・サンドボックスという枠組みの導入が重要なのではなく、どんなサービスやコンテンツを実現するか。

実現したいサービスやコンテンツにそうした枠組みがどうしても必要なのであれば取り入れる可能性は十分ある」と神田さんは見解を述べる。一貫しているのは、利用者の利便性が向上するかどうか。それを実現するフィンテックの中身によって規制の形が変わっていくべきだと神田さんは考える。

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その他にも数多くの質問が掲げられたなかで、瀧さんは「シニアにおけるフィンテックの活用」に注目。フィンテックは決して若者だけに向けたトレンドではない。シニア層にこそ、金融は最も重要なトピックであり、フィンテックはシニア層にとってもやさしいものでなければならないと、瀧さんは思いを語った。

続いて神田さんが提示した視点は「地方の課題」。世界中どこでもつながるネットワークがある中で、フィンテックがどのように地方にアプローチをしていくか。シニアであっても、地方にいても、フィンテックであることを意識することなく、フィンテックのサービスを利用しているような環境が早く実現してほしいと、神田さんは目前に迫る夢を描いた。

5年後、10年後、この場で交わされた議論がこうなったのかと振り返る日が必ずやって来るだろう。関係各所が感じているフィンテックのインパクトを一同が共有しつつ、今回のイベントは幕を下ろした。(了)

■スピーカー■

ゲスト:神田 潤一(かんだ・じゅんいち)
金融庁総務企画局企画課信用制度参事官室企画官

1994年東京大学経済学部卒業、同年日本銀行入行。2000年に米イェール大学より修士号取得。2004年より日本銀行金融機構局で、主要行や外国金融機関等のモニタリング・考査を担当。2011年に日本生命に出向し、運用リスク管理を担当(2012年まで)。2014年より日本銀行考査運営課市場・流動性リスク考査グループ長。2015年より現職で、日本の決済制度・インフラの高度化を中心とする調査・政策企画に従事。


ゲスト:瀧 俊雄(たき・としお)
株式会社マネーフォワード 取締役 兼 Fintech研究所長

2004年 慶應義塾大学経済学部卒業後、野村證券入社。野村資本市場研究所にて、家計行動、年金制度、金融機関ビジネスモデル等の研究に従事。2011年にスタンフォード大学経営大学院卒業。同年に野村ホールディングスCEOオフィスに所属。2012年10月より株式会社マネーフォワード設立に参画、取締役兼Fintech研究所長として経営全般を担当。経済産業省「産業・金融・IT融合に関する研究会」に参加中。


コーディネーター:藤崎 麻里(ふじさき・まり)朝日新聞東京本社経済部記者
2003年に一橋大学を卒業後、ロンドン・スクール・オブ・エコノミックス(LSE)の国際関係学などで修士。2006年に朝日新聞に入社し、仙台、津総局、東京本社編集センターを経て、東京本社経済部。経済産業省、エネルギー、金融を担当し、現在はIT・ベンチャーを取材している。