母乳の落とし穴・ビタミンD不足

近年増えているのが赤ちゃんのビタミンD不足です。

母乳育児にはたくさんのメリットがありますが、隠れた落とし穴もあります。

近年増えているのが赤ちゃんのビタミンD不足です。

2017年9月の日本外来小児科学会で、順天堂大学の中野聡医師は、母乳栄養の赤ちゃんの75%がビタミンD不足であるという研究結果を発表しました。1

ビタミンDが不足すると、カルシウムが骨に沈着せず、骨の変形や成長障害を起こす「くる病」になることがあります。くる病の増加については2015年4月の日本経済新聞で、東京大学の北中幸子准教授が指摘しています。戦後間もない時期によく見られ、その後減少して20年前にはほとんど確認されていなかったのに、ここ十数年で再び患者が増えているというのです。2

母乳栄養とビタミンD不足にはどんな関係があるのでしょうか?

実は、もともと母乳にはビタミンDとビタミンKが足りません。「日本人の食事摂取基準(2015年版)」3によると、ビタミンDの摂取目安量は乳児5.0μg(上限25μg)、授乳婦8.0μgとなっています。成人の上限は100μgです。育児用ミルクには10μg/L前後のビタミンDが含まれているのに対し、母乳のビタミンD濃度は0.16~1.5μg/L4程度と、とても少ないのです。

ビタミンKが不足すると出血を起こしやすくなるので、赤ちゃんが産まれると、ビタミンKのシロップを飲ませます。同じように、アメリカでは赤ちゃんにビタミンDのサプリメントを飲ませることが推奨されていますが、実際にはあまり浸透していないようです。確かに、赤ちゃんに毎日サプリメントのシロップを飲ませるのは、抵抗感がある方も多いのではないでしょうか。

そこで、アメリカのサウスカロライナ医科大学とロチェスター大学のグループが、完全母乳育児をしている家庭を対象に、赤ちゃんにサプリメントを飲ませるグループと、お母さんにサプリメントを飲ませるグループを比較する研究を行い、2015年に結果を発表しました。5

この研究では、お母さんに一日160μgのサプリメントを飲ませると、赤ちゃんに一日10μgのサプリメントを飲ませるのと同じくらい、赤ちゃんの血液中のビタミンDが上昇することがわかりました。ビタミンDが過剰になると、血液や尿中のカルシウム濃度が高くなり、腎結石のリスクが上昇すると言われています。160μgというのは日本の摂取上限量を越えていますが、この研究では過剰症になった人はいませんでした。

しかしそれでもサプリメントを摂るのが心配な場合、どうしたら良いでしょうか。

ビタミンDは魚やきのこ、卵に多く含まれています。例えば、イワシやサンマ一尾に約15μg、鮭一切れに約26μg、まいたけ100gに約5μg、卵黄1個に約1μgです。ビタミンDは身体に蓄積することができるので、2日に1回は魚を食べ、卵やきのこ類を積極的に摂れば、授乳婦の摂取目安量はクリアできます。とはいえ、食品からの摂取だけでは、一日100μgにも達しません。

そこで大切なのが赤ちゃんの日光浴です。

国立環境研究所が2013年に発表したデータによると、ビタミンD5.5μgを生成するのに必要な日光浴は、晴天の7月の正午なら札幌・つくば・那覇でそれぞれ、4.6分・3.5分・2.9分、晴天の12月の正午なら76.4分・22.4分・7.5分です。6

これは大人が顔と手の甲を露出した場合の時間なので、赤ちゃんの場合は3〜4倍程度の時間が必要かもしれません。東北地方や北海道の冬は難しそうですが、夏場は日光浴だけでもかなりのビタミンDを補うことができそうです。

子どもの日焼けは、しわやしみなどの皮膚老化を早める・将来、皮膚ガンを起こしやすくなる・目の病気を起こしやすくなるといったデメリットもあるので、7皮膚が赤くなるほどの日焼けは避けるべきです。しかし、ビタミンDは紫外線が皮膚に当たることで生成されるので、日焼け止めを塗ると生成量が減少します。

夏場は朝や夕方の涼しい時間に、赤ちゃんを連れて20分程度の散歩をしましょう。北海道や東北地方の秋冬生まれの赤ちゃんは、完全母乳育児の場合、お母さんがビタミンDのサプリメントを摂ることを考えても良いかもしれません。

我が家の息子はもう離乳食が始まっていますが、母乳育ちです。これを調べてからは、紫外線をあまり気にしなくなりました。帽子はかぶせていますが、UVカットのレッグウォーマーはやめて、脚を出すようにしています。離乳食でも、卵の黄身や白身魚を積極的に食べさせています。タラにはビタミンDが少ないので、カレイやシラスがおすすめです。

母乳は赤ちゃんにとって最良の栄養源ですが、完全な栄養源ではありません。お母さんのバランスの良い食事と、赤ちゃんの日光浴を心がけて下さい。

参考:

4.Butte N, Lopez-Alarcon MG, Garza C. Nutrient adequacy of exclusive

breastfeeding for the term infant during the first six months of life. Geneva:

WHO; 2002.

5. Hollis BW, Wagner CL, Howard CR, et al. Maternal Versus Infant Vitamin D Supplementation During Lactation: A Randomized Controlled Trial. Pediatrics. 2015;136(4):625-634. doi:10.1542/peds.2015-1669.

(2017年9月25日「MRIC by 医療ガバナンス学会」より転載)