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医療事故調査制度の在り方とその対応について

2013年12月07日 01時09分 JST | 更新 2014年02月05日 19時12分 JST

井上法律事務所

弁護士 井上 清成

2013年12月2日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  

1. 四国での医療法務セミナー

11月16日(土)に、香川県高松市内で、医療従事者を対象とした医療法務セミナー(医療事故調査制度の在り方とその対応について。主催・セイコーメディ カルブレーン株式会社、後援・株式会社幸燿)が開催された。常任講師の筆者以外の客演講師は、橋本岳衆議院議員と秋山正史医師であり、両名は高松から約1時間、本四架橋を渡った岡山県倉敷がその本拠である。

橋本岳議員はもともと医療事故調への造詣が深い。しかも、現在、自民党死因究明体制推進プロジェクトチームの座長を務めており(ちなみに、顧問は鹿児島の保岡興治衆議院議員)、異状死死因究明推進議連の事務局長でもある(ちなみに、会長はやはり保岡議員)。そこで、講演では、来年の通常国会に提出される医療法改正案につき、現時点での厚生労働省(特に、医政局総務課医療安全推進室)とのやりとりを踏まえた情報提供が行われた。

秋山正史医師は、地域に密着した医療を重視した有床診療所等を開設運営する医療法人福寿会の理事長を務めている。ただ、もともとは産科であったので、医療事故調のモデルとなった産科医療補償制度や産科の動向にも詳しい。そこで、「産科医療補償制度から医療事故調査制度を考える」という講演が行われた。

それらを受けた筆者は、そのような危険な医療事故調が実施された場合のリスクヘッジとして、医療安全推進の観点からの院内規則整備の事前準備に重点を置い た講演をすることになる。その実務的要領を講演し、医療法人福寿会の医療安全管理指針をサンプルとして提供いただき、必要最小限の手直しを具体的に披露した。

医療事故調のセミナーとしては、客演講師の尽力により出色の出来映えであり、大変に有益なセミナーだったと感じている。

2. 医療事故に係る調査の仕組みQ&A

橋本議員は、独自に厚労省に質問を行い、医療安全推進室が寄せた回答を披露した。以下、少しだけ抜粋する。

(1)証拠制限契約について

〈橋本議員の質問〉

医療者と患者の間の証拠制限契約について「(厚労省は)関与する立場ではない」とのことだが、これは「規制することも考えていない」と理解してよいか。

〈厚労省の回答〉

ご指摘のとおり、証拠制限契約については民間契約であり、国がコメントする立場ではないと考える。いずれにしても、証拠制限契約の妥当性等については厚生労働省が判断する立場にないため、規制も含めて実施することは想定していない。

(2)民事裁判での利用を防ぐ措置

〈橋本議員の質問〉

報告書作成のためのヒアリング記録等について、後日民事裁判で争われた場合の利用を防ぐための措置を講ずるべきではないかと考えるが如何。

〈厚労省の回答〉

医療事故調査結果の報告は、遺族に十分説明の上、開示しなければならないものとしているところ。一方で、ご指摘のヒアリング記録等については、調査の過程で生じる書類であり、調査結果報告書とは異なるため、遺族へ開示するものではないと考える。

 

その他、講演は多岐にわたったが、紙幅の関係上、省く。ただ、橋本議員は、5月29日の厚労省検討部会のとりまとめ、11月8日の社会保障審議会医療部 会での了承では、いまだ十分ではなく、「責任追及との分離をより明確にすべく、いま少し詰めるべき点を残す」との意見を述べた。そして、今後の検討プロ セスについても言及し、26年度通常国会への提出が予定されている医療法改正案に盛り込まれる方針だが、「法案提出前の事前審査プロセスにて、さらに細部 の検討を行いたい」との意向も述べている。

 

事前審査プロセスは、時期的には来年1~3月頃が見込まれるであろう。医療事故調に懸念を抱く、多くの医師からの意見をダイレクトに欲しいとのことであった。筆者としても、多くの医師の意見が直接に橋本議員に届いて欲しいと思う。

3. 産科医療補償から医療事故調を考える

産科医療補償制度における「原因分析委員会」の「原因分析」は、医療事故調における「第三者機関」の「事故調査」と同じである。「原因分析」で潜かに進行している危機は、「事故調査」でも同様に起きると筆者は思う。ただ、往々にして、産科の医師は他科の事故調についてはピンと来ないし、逆に、他科の医師は 産科の現状を全く知らない。また、現職の産科医は、産科医療補償制度をやはり表立っては批判しにくいであろう。その点、秋山医師は「元産科」なので、問題点を明確に指摘していた。

(1)原因分析報告書の一例

秋山医師は、原因分析報告書の一例を採り上げて紹介したので、それを抜粋する。

「妊娠中に尿糖が複数回みられていたが、ブドウ糖負荷試験を行わなかったことは基準から逸脱している。その後の胎児心拍数陣痛図でレベル5(異常波形高度)がみられたにもかかわらず、経膣分娩を継続したことは医学的妥当性がない。胎児心拍数がレベル5(異常波形高度)となった後にオキシトシンの投与を開始したこと、および初期投与量は基準から逸脱している。血性羊水を認めた際に超音波断層法により常位胎盤早期剥離を検索しなかったことは一般的ではない」

このような報告書が医療事故調でも作られて、そして、ウェブサイトで公表されてもよいのかどうか。他科の医師らは現状を認識し、自らの考えを表明すべきであろう。

(2)ガイドラインに沿った医療しかできなくなった

秋山医師は、水面下で、現職の産科医に聞きまくったそうである。その結論は、「産科医療補償制度ができてからの変化」は「ガイドラインに沿った医療しかできなくなった」ということであった。

医療事故調という、たった1つの制度のもたらす、医療本体への恐ろしいまでの甚大な影響を、端的に予言する結論といえるであろう。

(※この記事は2013年12月2日発行のMRIC by 医療ガバナンス学会 Vol293「医療事故調査制度の在り方とその対応について」より転載しました)

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