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「ビッグデータで分析できる"欲望"は5%」 〜嶋浩一郎氏の講義より(2)〜

2014年02月03日 23時35分 JST | 更新 2014年04月05日 18時12分 JST

「企画とは"欲望の言語化"である」 〜嶋浩一郎氏の講義より(1)~の続きです。

前回書いた通り、企画とは「まだ顕在化していない、欲望として認識されていない人々の欲望を発見し言語化・顕在化する」作業です。

街角アンケートをしてもわからない人々の欲望を見つけ、実際にその欲望に応えるソリューションを提示することによってはじめて、「あ、そうそう、私こういうのが欲しかったの」となるものを生み出す、それが企画です。嶋さんの講義では、こうした潜在的欲望に応える具体的なクリエイティブ事例(米Googleの求人広告など)がいくつか紹介されたのですが、ここでは省略します。

個人的に面白かったのが、潜在的欲望は「データからは発見できない」というお話。まだ顕在化していない欲望は、言葉にもデータにもなっていないのです。

たとえば「安くて美味しい焼肉店に行きたい」という欲望は、既に日本社会で広く共有された欲望であり、既に言語化された欲望です。なので、Googleで「安い 美味い 焼肉」と検索すれば色々と情報が出てきます。今の情報社会では、既にある欲望のほとんどはデータ化されています。

一方で、たとえば「ビールを飲みながらゆっくり本を読みたい」という欲望は、表面的にはあまり存在していなかったと思います。しかし、「ビールを飲みながらゆっくり本を読んでみてはどうですか?」と言われれば、それいいかも、と思う人は少なくない気がします。これを欲望として発見した嶋さんが作ったのが、「本とビールのある生活」を提案する下北沢の本屋「B&B」です。

嶋さんは人間の欲望を、海に浮かぶ氷山に例えていました。海上に見えている、即ち顕在化している人間の欲望は5%くらい。水面下に、見えない欲望が95%くらいある。流行のビッグデータで分析対象となる欲望、ググって調べられる欲望は、水上の5%に過ぎないのです。「人間は不器用だから、自分の欲望を自分で表現できない」というフレーズが印象的でした。

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企画とは、水面下に眠る95%の欲望を刺激する仕事です。「最近、(ビッグデータを分析する)データサイエンティストがセクシーな職業だとか言われますけど、彼等は欲望の5%を分析しているに過ぎない。僕はこっち(95%の見えない欲望に応える)の方がセクシーだと思います」と嶋さん。嶋さんからは"アンチ・ビッグデータ"の精神がひしひしと感じられました(笑)。

もちろんこれは趣味志向の問題であって、どっちが良い悪いの話ではない。レイヤーが違うという話です。ただ、この"欲望の氷山"をいつも頭に描いておくのは、データサイエンティストにとってもクリエイターにとっても大事だなと感じました。

僕は偶然にも講義の翌日、ハフポストさんにご招待いただき朝日新聞社・未来メディアプロジェクトシンポジウム「オープンデータが社会を変える~共創によるイノベーション~」というイベントも聴講させていただいたのですが、こちらはタイトルの通りまさにデータのお話でした。

MITメディアラボ石井裕副所長のお話は正直、僕には何が何だかさっぱりわからなかったというか脳の性感帯が死んでいたのですが、ものすごくざっくり言うと「データは量ではなく使い方が大事」という話だったと思います、多分。そういえば僕も昔コンサル会社で働いていた時代は、クライアントに似たようなことを(よくわかってないくせにドヤ顔で)言っていた気がします。

多分、その筋の人たちにはものすごく熱い話をされていたのだと思います。が、僕は前日の嶋さんのお話がとても印象的だったため、講義を聞きながら頭の片隅に「データをどうこう熱く語ってるけど、でもそれって人間の欲望のたった5%の話なんだよなあ...」などと考えてしまっている自分がいました。まあ、データを扱ってどうこうという仕事には向いてないんだなあと自覚しました。

氷山の5%と95%のどちらにセクシーさを感じるかって、人によって真っ二つにわかれるような気が何となくします。"アナリティカル"と"クリエイティブ"の違いというか。脳の性感帯は、露骨に反応します。

(2014年1月22日「Splash Hits」より転載)