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全てのクリエイターには「中田ヤスタカにとってのCAPSULE」が必要である

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タイトルは大真面目です。煽ってすみません。解説します。

唐突ですが、プロとしてメディアコンテンツを作る仕事をしていると、しばし「自分が作りたいもの」と「仕事として作るべきもの」のギャップに葛藤する場面に遭遇します。自分の個人的な趣味趣向や興味関心と、世の中のニーズがマッチしない、ということです。「本当はヘヴィメタが好きなんだけど、それじゃ売れないから(仕方なく)J-POPの曲を作ろう」みたいなやつです。

こういうギャップは、音楽でも文章でも映像でもイラストでもファッションでもITでも、クリエイティブな仕事(とは何であるか、ここでは敢えて定義はしません)であればどんな分野でもあると思います。「自分が作りたいもの=仕事として評価されるもの」という考えの人もいるかもしれませんが、多くの人は多分そうではないです。少なくとも、僕の場合は違います。

当然ですが、 クライアントのオーダーに応えるのがプロの仕事です。ビジネスなので、基本的に「売れる」コンテンツを作らなければなりません。インディーズのバンドが好きな音楽をひたすら演奏したり、個人ブログで書きたいことを好き勝手書くのとは違います。それが、プロとアマチュアの違いです。

プロの仕事は、オーダーがあって、制約の中で相手が求めるアウトプットを出さなければなりません。それは、アマチュアとして自由な表現・創作活動をした経験のある人にとっては、窮屈に感じられることがあると思います。少なくとも僕にとっては、そうです。

それは単純に「表現の自由度が(アマチュアに比べ)低い」ということであり、必ずしもネガティブな感情ではないです。後に詳しく説明しますが、与えられた枠の中で最適なアウトプットを生み出す工夫を凝らすことは、プロの仕事の面白さであり醍醐味でもあります。

とはいえ、プロの仕事はアマチュアに比べて、創作活動としては格段に自由度が低いのです。

個人的な話ですが、僕の場合はライターやマーケッターとして、主に文章を書いたりメディアコンテンツを企画する仕事をしています。音楽同様、プロとして文章を書く仕事にも様々な制約があります。

まず、基本的に「売れる」文章であること。雑誌であれば売上部数に貢献し、WebだったらPVを稼ぐこと(部数やPVが全てではないですが、最もわかりやすい指標として)。媒体のトーンに合わせたテイストで書くとか、文字数を1000〜1200字に収めるとか、あるいは画像やイラスト、映像コンテンツ、レイアウトデザインを組み合わせてどう見せるかなど、テクニカルな制約もあります。

これがたとえば自費出版の小説や個人ブログであれば、基本的には自分が書きたいことを好きなように書けます。PVを気にせずに世界で5人くらいしか興味を持ってくれなそうな記事を書いても、誰にも文句は言われません。そこには果てなきフリーダムな世界が広がっているのです。

ライティングや活字メディアの仕事は、少なからず右脳的なクリエイティビティを要求される仕事です。

僕はもともと、趣味として個人のブログを運営していて、それがキッカケで今プロとしてメディアの仕事をいただくようになりました。先述の通り、個人ブログはアマチュアとして自由に書きたいことを書ける場です。僕はブログでの創作活動を通じて、文章表現やメディアデザインにおける自由で遊び心ある発想や思考を培ってきたという自負があります。

ところが、プロとして仕事をいただくようになってから、そのブログを6ヶ月以上放置してしまいました。言い訳ですが、忙しくてそれどころじゃなかったのです。大繁盛していたのではなく、右も左もわからないまま独立して、一杯一杯だったのです。

目の前のオーダーがあり、それをひたすらこなしていく日々には充実感を覚えました。一方で、自分にとって「自由な創作活動」の場であったブログを放置することで、自由な発想やクリエイティビティが徐々に死んでいくのではないかという葛藤を抱きはじめました。

さて、いつもの如く前置きが長くなりました。そんなことを悶々と考える日々の中でたまたま出会い、震えるほど感銘を受けた文章が、これです。

Changemakers of the year 2012 [クリエーター部門] 受賞 中田ヤスタカ(capsule)

「ystkかよオイ!」とは言わず、どうか話を聞いて下さい。

中田ヤスタカ氏はご存知の通り、Perfumeやきゃりーぱみゅぱみゅのプロデュースなどで有名な、今をときめくサウンドプロデューサーです。この記事は、彼が日経ビジネス主催のプロジェクト「Changemakers of the year 2012」受賞に際し、クリエイターとして「今の時代」を生きる上での哲学を寄せたものです。

色んな話が出てきて、どれもすごく面白いので是非元記事を読んでいただきたいのですが、個人的に魂を揺さぶられるほど感銘を受けたのが「プロだからこそ、アマチュアの環境を」という話です。

プロになったときはそれ自体が嬉しくて、それまでの自分とは音楽のつくり方やつくる環境が変わっても、最初は「これがプロのやり方なのか」と受け止めていました。 でも、徐々に違和感を覚えていくシーンが増えていったんです。

デビューした頃は、ある意味無理をして型にはまったプロっぽさを受け入れていたわけですが、やっぱりアマチュアのときの環境の方が、僕には合っていました。クリエーターとしては、アマチュアであるときほど恵まれた環境はありません。つくりたいときに、つくりたいものをつくれて、それを自由に発信できるからです。プロではなかなかそうはいきません。

デビューから10年近くかけて少しずつ、むしろアマチュアのときのように「つくりたいときに、つくりたい曲をつくることができる」環境を整えていきました。プライベートスタジオによる音楽制作をしているのもそのためです。もともとアマチュアのときは自分の部屋にあるものだけで好きなように作っていたわけですし。

天才的な感性で今日まで突き進んできたようなイメージが強いヤスタカ氏ですが、そんな彼にも「プロとアマチュアの狭間での葛藤」があったのです。いや、そんな彼だからこそ、強烈な葛藤があったのかもしれません。

「型にはまったプロっぽさ」とありますが、プロとして仕事には多くの場合、テンプレートがあります。明文化こそされていないですが、「ココを抑えておけ」みたいなセオリーがあります。音楽の世界なら、たとえば(商業的に)失敗しない曲構成とかメロディみたいなものが、絶対にあります。現在のヤスタカ氏ほどの大御所になると別でしょうが、そうしたテンプレートを逸脱するのは基本的にNGです。

こうしたテンプレートの中で魅力的なコンテンツを作ることがプロの仕事ではありますが、毎日それだけをやっているとやがて自分の思考にもテンプレートができてしまい、イノベーションを生むような型破りの思考はできなくなってしまう。これこそ、ヤスタカ氏が恐れていたことだと思います。

つくりたいときに、つくりたい曲をつくることができる」環境を整える。簡単そうに聞こえるかもしれませんが、これはメチャメチャ難しいです。

オーダーを受けて仕事をこなす行為は受動的であるのに対し、自分のために自分の環境を整えるのは超能動的な行為だからです。制約があるとはいえ、ギャラを貰ってモノ作りができる充分に恵まれた環境がありながら、敢えて自分の身を削ってまでアマチュア的環境を作るのは、莫大なエネルギーを要します。なので、大抵のクリエイターは葛藤を抱えながらも、多分どこかで妥協してしまいます。

「クリエーターとしては、アマチュアであるときほど恵まれた環境はありません」と語るヤスタカ氏は一方で、プロの仕事を否定しているわけでも、楽しんでいないわけでも全くありません。

プロになって、ミュージシャンとしての顔と同時に、他人をプロデュースしたり、CM音楽をつくったり、映画のサントラを担当したりする、プロデューサーの役割が大きくなっていきました。アマチュア最強、と言ったそばから矛盾するように聞こえるかもしれませんが、プロデューサーの仕事、大好きです。オーダーをもらうこと、「枠」があること、オーダーと「枠」を前提として、最大限いい曲をつくること。これは、プロとしての面白さでもありますね。

テレビCM用の音楽をプロデュースする場合には、CMが扱う商品があり、CMの流れがあります。あらかじめそういった「枠」が用意されていて、それが僕の前に示される。その「枠」を制約と捉えることもできるけど、でも、その「枠」をベースとして自分を広げていけるとも捉えられる。「枠」を示してもらうことで、それまでの自分が持っていなかった新しいアイデアや新しいインスピレーションが得られることがいっぱいあります。CMに音楽をつけるって、とってもクリエイティブです。

『枠』をベースとして自分を広げていける」。これがまさにプロの仕事の面白さであり、クリエイティブたる部分だと思います。好きな服を自由に着るよりも、ルールを抑えた上でスーツを最大限かっこよく着こなす方が刺激的である感覚に似ています。スーツの着こなしを楽しめる人は、多分プロとしての仕事を楽しめます。

僕も「枠」の中で文章を書くことで、それまで自分にはなかった発想や視点に気付くことが多々あります。制約がない中で自由にやっているだけでは得られなかった引き出しが得られる、そんな感覚です。

そして、プロの仕事を楽しみながらも、やはり「作りたいものを作る」アマチュアとしての活動を並行して継続することが大切である。それがヤスタカ氏のメッセージです。

もちろん、自分のユニット=capsuleで音楽を続けています。人から依頼されてつくるのではなく、自分のアイデアを提案し、実行する場として、僕にはなくてはならないものです。アマチュア的な砦。これが僕の音楽の核です。

繰り返します。

つくりたいものを、つくれるような環境に自分を置く。
実はこれが一番難しいことです。特にプロとしては。
だからこそ、つくっている人が一番頑張るべきところも、ここです。

つくりたいものを、つくれる環境をつくる。

一応補足しておくと、CAPSLUEはヤスタカ氏自身のユニットです。Perfumeやきゃりーのプロデュースを手掛けるずっとずっと前から、彼が高校時代から続けているユニットです。今でこそ商業的にもそこそこ成功していますが、プロデュースの仕事とは違い結構コアな音楽をやっています。

ヤスタカ氏にとってCAPSLUEというユニットは「人から依頼されてつくるのではなく、自分のアイデアを提案し、実行する場」なのです。「つくりたいものを、つくれる環境をつくる」それこそがCAPSLUEなのです。

ヤスタカ氏の仕事で最大の成功は、おそらくPerfumeのプロデュースではないかと思います。従来の"アイドル"のイメージを覆す斬新なサウンドと世界観を築き上げ、結果的に商業的にも大成功しています。そしてPerfumeの成功は、CAPSLUEでの継続的な活動があったからこそ、と思います。

音楽に限らず全てのクリエイティブな仕事には、ヤスタカ氏にとってのCAPSLUE、即ち「アマチュア的な砦」が必要だと、僕は思います。制約のない中で、遊び心と冒険心を持って表現に取り組む環境と時間です。

たとえばファッションデザイナーであれば、次のシーズンに向けて新作を作るだけでなくて、ビジネスを度外視して自分が本当に作りたい服を作ってみる時間を持つべきと思います。Googleが導入している有名な「20%ルール(業務時間の20%は各社員が何でも好きなことをして良いというルール)」も、ある意味「アマチュア的な砦」と解釈できます。

ライティングを仕事にしている僕にとっては、書きたいことを自由に書けるブログこそがCAPSLUEです。このブログをはじめたのは、「自分のアイデアを提案し、実行する場」を改めて持つためです。

正直に、自分がいいと思うものを主張していけばいい。簡単なことでないけれど、その困難を乗り越えて、自分のやりたいことと、相手から求められていることのバランスがとれたとき、ほんとうに新しいものが生まれると思うんです。

自分がいいと思うものを正直に主張するのは、特にプロとして仕事をさせていただいている立場だと、怖いです。でも、それを恐れて自分を殺し続けていると、新しいものを生み出すエネルギーもクリエイティビティも死んでいくのではないかと思います。

自分のやりたいことを追求し続けることは、相手の要望に応えることと相反するものではありません。どちらにも真剣に取り組むことで、両者はフィードバックし合えると思います。もちろん簡単なことではないし、上手くバランスを取れるようになるまでに時間はかかると思いますが。

(この記事は、2013年12月5日の「Splash Hits」より転載しました)