Huffpost Japan
ブログ

ハフポストの言論空間を作るブロガーより、新しい視点とリアルタイムの分析をお届けします

内野ムネハル Headshot

「アイデアと移動距離は比例する」~ 優秀なクリエイターが例外なく"飽きっぽい"理由

投稿日: 更新:
印刷

「アイデア(の質、量)は移動距離に比例する」

"ハイパーメディアクリエイター"として知られる高城剛氏の言葉です。良いアイデアをたくさん生み出すためには、たくさん移動をしろと。

これは「旅をして広い世界を見て見識を広げよ」という類の話ではないです。もっと物理的な話というか「移動を繰り返すことで五感に刺激を与えよ」的な話だと思います。

個人的な話ですが、今月7日から出張で東京→バンコク(タイ)→ダッカ(バングラデシュ)→バンコク→ホーチミン(ベトナム)→バンコク→東京と、移動を繰り返していました。12日間でタイの入国カードと出国カードを3枚ずつ書きました。

これだけ短いスパンで移動を繰り返すと、景色、街並、空気、気候、人、言葉、音、色、匂いなど、五感を刺激するあらゆるものが目まぐるしく変化します。移動とは、環境の変化です。人はある場所から別の場所に移動した直後、程度の差こそあれ「さっきまでの"当たり前"が全然当たり前じゃない世界にいる」という状態に陥ります。

人は生きるために、この環境の変化に適応しようとします。適応しようとするため、五感がいつもより敏感になります。多分、人間に備わっている本能的な危険察知センサーみたいなものが発動するんじゃないかと思います。それは旅先の治安の良し悪しなどは関係なく、たとえばアフリカのスラム街から日本に帰ってきても、安心感といった感情とは別のところで「新しい環境に適応しなければ」というセンサーが働くのではないかと思います。

で、この五感が敏感になった状態こそが、アイデアを生み出すクリエイティビティの源泉になります。クリエイティビティというのはスキルではなくセンスであり、センスは「多くを感じる」ことで磨かれるからです。

「アイデアと移動距離は比例する」とはつまり、移動することで環境が変わり、適応するために感覚が研ぎ澄まされ、瞬発的なセンスが磨かれる、ということなのだと思います。その移動は、たとえば今回僕がしたようにアジア各国を転々とするような移動よりも、「東京→南極→月面」みたいにラディカルな変化であればある程効果が大きいのでしょう。

この理論の提唱者(?)である高城氏はおそらく、たとえばバルセロナのビーチにいた20時間後に六本木ヒルズで講演、みたいな状況が多々あるのではないかと推測します。ここまで短時間のうちにラディカルに環境が変わると、おそらくちょっと普通の精神状態ではいられないというか、脳がハイになるでしょう。ビーチでくつろいでいた20時間に地球の反対側で講演しても、多分自分でも何を喋ってるかわからない感じになると思います。でも、そういうときに思い付きで出てきたアイデアが面白かったりするんですよね。

見知らぬ土地に移動しても、しばらくすると人は慣れてしまいます。ので、新しい環境に慣れて感覚が鈍る前に、また違う環境に移動する。このジプシー的移動を短いスパンで繰り返せば、常に感覚が敏感な状態をキープすることができ、従って常にクリエイティブでいられることになります。

この話は、何も物理的な移動に限らない話だと思います。たとえば、二つの全然違う仕事をやってみるとか、二人の全然タイプが違う恋人と付き合ってみるとかいうのも、良いアイデアを生むという観点ではプラスだと思います。クリエイターにとって重要なのは、自分を取り囲む環境を短いスパンでラディカルに変化させ続けることなのだと思います

以前に津田大介さんがおっしゃっていて、これは僕も120%同感なのですが、今日のメディア業界で成功を収めている人はほぼ例外なく"飽きっぽい"です。すぐ今の環境に飽きてしまうからこそ、必然的に環境の変化が激しくなり、その結果センスが絶えず磨かれていくのでしょう。「石の上にも三年」的な価値観を否定はしませんが、そのような考えの人はこの業界には絶対に向いていません。適正の問題です。

我々は今日、何においても「目的・目標を達成すること」が大切だと考えがちです。まず目的と目標があり、そのために何をすべきかを考える。ビジネスの世界でもアスリートの世界でも、それが一般的な思考パターンです。

でも、価値観が多様化し、また変化も激しいこの時代、極端な目的・目標オリエンテッドな思考は諸刃の剣かもしれません。1年経てば、周囲はもちろん自分の価値観だって変わります。そう考えると、我々はもっと肩の力を抜いて、今自分をどんな環境に置いておこうか、くらいに考えながら生きる方が賢いようにも思えます。

移動という行為は通常、目的地に行くための手段であり、それ自体が目的ではありません。でも、ときには移動を手段ではなく、それ自体を目的にしてみても良いのかもしれません。理由はないけど、環境を変えるためだけにとりあえず移動してみる、みたいな。

人間を作るのは、自分自身ではなく環境です。

da
バングラデシュの首都、ダッカにて

(2014年3月21日「Splash Hits」より転載)

Close
11 Travel Sketches From Southeast Asia and Japan (PHOTOS)
/
シェア
ツイート
AD
この記事をシェア:
閉じる
現在のスライド

他のサイトの関連記事

「インターネットは無法の荒野」ネットでぶん投げられる罵倒からクリエイターが生き延びるには?【GDC 2014】

3年以内に一億総クリエイター時代を目指す――Eエブリスタ社長が語るスマホ出版界の最前線

「AnimeJapan」と「TAAF」開催の裏でジブリは? 名物の「クリエイターズワールド」終了に無念の声も

クリエイター集結 デジタルコンテンツの祭典

稀代のクリエイター故・飯野賢治氏の遺志を継ぐプロジェクト「KAKEXUN」!その謎に迫るため関係者にインタビューしてみた!