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メジャーリーグでInstagram革命が進行中

2015年02月08日 16時06分 JST | 更新 2015年04月09日 18時12分 JST

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MLBヒューストン・アストロズの本拠地、ミニッツ・メイド・パークで写真を撮るファン(2014年4月撮影)

ここ数年、様々なメジャーリーグのスタジアムを訪れているのですが、スタンドを歩いていると、フィールドに背を向けてスマートフォンを掲げる若いファンの姿をよく見ます。試合そっちのけで、友達や家族、ガールフレンド(ボーイフレンド)とセルフィー(自撮り)に勤しんでいるのです。

写真・動画投稿ソーシャルメディアのInstagramは毎年、同サービス上でもっとも多く写真が投稿された世界の人気スポットランキングを発表しています。

昨年12月に発表された2014年のベストテンを見ると、ロサンゼルスのディズニーランドやニューヨークのタイムズ・スクウェア、パリのルーブル美術館、バンコクの大型商業施設サイアム・パラゴンといった世界の名だたる観光名所がズラリと並ぶ中、2位にロサンゼルス・ドジャースの本拠地ドジャー・スタジアム、そして9位にニューヨーク・ヤンキースの本拠地ヤンキースタジアムと、メジャーリーグのスタジアムが2つランクインしています。

ディズニーランドやルーブル美術館、サイアム・パラゴンが年中営業しているのに対し、メジャーリーグのホームゲームは年間でレギュラーシーズン81試合、しかも試合は大体3時間程度ですから、もし時間当たりの投稿数を計算したら、おそらくドジャースタジアムが断然トップなのではないでしょうか。

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ドジャースタジアムのサンセット(2014年4月撮影)

メジャーリーグ屈指のクラシックなボールパークとして知られるドジャースタジアムは、南カリフォルニアの素晴らしい青空とサンセット、ロサンゼルスの美しい夜景、さらには年俸総額2億4000万ドルのスター選手たちを同時に楽しめる素晴らしいスタジアムです。

僕は普段、あまり写真を撮らない人なのですが、今ふと自分のiPhoneの写真フォルダを見たら、昨年4月にドジャースタジアムを訪れた際に撮った写真が80枚くらいありました。悪趣味なセルフィーがなくて安心しましたが(男ひとりで行ったので)、メジャーリーグのスタジアムはそれくらい、写真を超撮りたくなる(そしてシェアしたくなる)場所なのです。


■バックスクリーンで写真コンテスト

ファンが試合中にもソーシャルメディアにガンガン写真を投稿する状況を受けて、メジャーリーグは近年、ファンがソーシャルメディアに投稿したコンテンツと連動したイベントや企画を積極的に展開しています。

たとえばよくあるのが、球場にいるファンが場内で撮影しInstagramに投稿した写真を、イニング間に場内のスクリーンで表示するというもの。いうなれば、ファンによる写真コンテスト。

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ヒューストン・アストロズの本拠地、ミニッツ・メイド・パークでイニング間に行われたイベント。ファンがInstagramで#ASTROSHAPPINESSのタグを付け投稿した写真が表示される(2014年4月撮影)

場内のファンをズームカメラで映し、映されたファンが手を振ったりキスをしたり(Kiss Cam)といったイベントは昔からありますが、ファンはあくまでも受動的に「カメラに映される」存在でした。その点、このInstagramの企画は、ファンが自ら撮影した写真を紹介するという点で、ファンの自己表現欲求を満たしてくれるものです。ファンがInstagramに投稿しないと企画が成り立たたない、いわゆるUGM(User Generated Media)なのです。

場内のスクリーンだけでなく、メジャーリーグ公式ウェブサイト上でもファンが投稿した写真やツイートをキュレーションして紹介するコーナーがあったりします。リアルとバーチャルを横断して、ファンに「野球観戦を楽しむ自分」を自由に表現してもらい、それをオフィシャルなコンテンツとして紹介する場を作っているのです。


■スマホ&SNSで「受動的な観戦者」から「主体的な表現者」へ

Instagramの写真コンテストで盛り上がるスタジアムを見ていると、若い層を中心とした今日のメジャーリーグファンは、ただ野球観戦を楽しむだけでなく、野球観戦を通じたソーシャルメディアでの自己表現、そしてそこから生まれるコミュニケーションを楽しんでいるのだと感じます。

インターネットがなかった時代は、スポーツ観戦体験がスタジアムの中で完結していました。でも今は、Instagramに「メジャーリーグなう!」と写真を投稿すれば、スタジアムにいない友達が「Like!」してくれたり、コメントしてくれたりします。スタジアムの中でも、自分の写真がバックスクリーンをジャックする、なんてことができます。

Instagramは、ファンが「メジャーリーグという非日常的な空間を楽しむ自分」を表現することを、超簡単にしたのです。そして今、メジャーリーグのスタジアムは野球の試合を見るだけの場所でなく、誰もが気軽に参加できる写真コンテスト会場となりました。Instagramが、メジャーリーグというエンターテイメントの在り方に革命を起こしているのです。

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テキサス・レンジャーズの本拠地、グローブライフ・パーク・イン・アーリントンのファン(「世界の野球写真展×旅」より)

いつもスコアをつけならが観戦するような熱心なファンからすると「けしからん!試合を見ろ」と言いたくなるかもしれません。でも、多くの若者は今、名もなき観客として試合を見るよりも、名を持つ個人として自分を表現し、仲間とコミュニケーションを楽しむことの方が、きっと楽しいのです。

現代テクノロジーを手にした今日のスポーツファンは、ただ与えられたものを楽しむ「受動的な観戦者」ではなく、スポーツ観戦を通じて自己表現を楽しむ「主体的な表現者」なのです。

(2015年2月6日「Splash Hits」より転載)