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「企画とは"欲望の言語化"である」 〜嶋浩一郎氏の講義より(1)〜

2014年01月21日 17時06分 JST | 更新 2014年03月22日 18時12分 JST

今更ながらあけましておめでとうございます。ハルビッシュです。2014年最初のブログ更新です。

2013年は自分にとってフリーランス1年目、またスポカルラボ立ち上げ1年目ということもあり、ひたすらアウトプットしまくる日々を過ごしているうちに365日終わってしまいました。自分は元々、アウトプットすることでインプットするタイプの典型的なOJT型人間なのですが、今年はもっとインプットの時間を作るよう意識していきたいと思います。

さて、その一環というわけではないですが、1月8日からJ-WAVE MEDIA CREATORS ACADEMYというセミナーに週1で参加しております。これは開局25周年を迎えたJ-WAVEさんが主催する全10回のセミナーで、「激動するソーシャル・メディア時代の新しいクリエイターを育成するために、超一流のクリエイター、メディア人を講師に迎え、ラジオの枠に収まらないまったく新しいセミナー」とのことです。

講師陣はクリス・ペプラー氏、嶋浩一郎氏、津田大介氏、田端信太郎氏、亀田誠治氏、ジョン・カビラ氏、DJ TARO氏...と、確かに超豪華。講義はもちろんですが、同世代の幅広いメディア業界仲間ができるのも楽しいです。

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六本木ヒルズ森タワー33階のJ-WAVEオフィス

さて、先日15日は嶋浩一郎氏(博報堂ケトル共同CEO/編集者/クリエイティブディレクター)の講義だったのですが、 これが非常に面白かったのでその話を。

ご存知の方も多いと思いますが、嶋氏はクリエイティブディレクターや編集者としてのお仕事をはじめ、「本とビールのある生活」を提案する本屋「B&B」を下北沢にオープンするなど幅広く活躍されている、業界のトップランナーです。

先日の講義テーマは「企画とは何か」

結論から言うと、まあタイトルの通りですが「企画とは"欲望の発見"である」というお話でした。まだ顕在化していない、欲望として認識されていない人々の欲望を発見し言語化・顕在化する、それが企画という行為だ、ということです。多分、嶋氏の過去の著書や講演等でも同じ話はあったのではないかと思います。

たとえば、世の中に「おひとりさま」という言葉が生まれたことによって、それまで一人で食事や旅行をすることが好きだけど何となく後ろめたさを感じていた人たちが、「私はいわゆる"おひとりさま"なんだ」と認識することで(あるいは世間に共通理解が生まれたことで)、堂々と一人旅をしやすくなる(逆にカテゴライズされて不快感を覚える人もいるだろうけど)。「コギャル」という概念が生まれる以前のコギャルはただの「変な格好をした女の子」だったけど、「私、コギャルだから」とアイデンティティを見出せるようになった。こじらせ女子や草食男子、森ガール、美魔女、etc... この手のカテゴライズは全てそうですね。

キャラ付け的なキャッチコピーだけでなくて、たとえばスターバックスの日本上陸も"欲望の顕在化"だった、と嶋氏。街角アンケートをしても「美味しいコーヒーが飲めて完全禁煙で仕事や作業ができるチェーンのカフェが欲しい」という声は出てこなかっただろうけど、実際にスタバができたときにはじめて「そうそう、私こういうのが欲しかったんだ」と、欲望が顕在化される。他にパッとイケてる例が思い付かないんですけど、たとえばiPhoneもツイッターもH&Mもそうだと思います。

中田ヤスタカ崇拝者(信者じゃなくて崇拝者)の自分としては、彼の音楽もまさに"顕在化していない欲望"に応えるものであり、それこそが彼の音楽がクリエイティブたる所以だと思います。Perfumeがブレイクする以前は誰もPerfumeを求めてはいなかったというか想像もできなかった(概念がなかった)けれど、いざ目の前に現れたら多くの人々が虜になった。

ヤスタカ氏自身、過去のインタビューでこんな話をしています。

ここ最近の音楽業界って(ミュージシャンではなく)、無難なものばかり作り続けてきた感があるんですよね。"良いものを"って言うよりも、"悪くないね"ってもの。 安全な作品を作り続けているところがあるんですよね。

でも、僕が思うにリスナーは、安全ではないものが現れても、"そういうのもあるよね"って全然拒否しないと思っていて。楽曲提供しているときも、制作スタッフの人とかには、"アイドルにこんなことやっちゃって凄いよね!"とか言われるんだけど、聴いているリスナーはそこまで凄いと思っていないんですよ。普通に聴いてしまうと思います(笑)。躊躇したり、心配したり、何か考えてしまうのは、作り手の周りのスタッフとかが心配するだけだと思うんです。

中田ヤスタカ(capsule) Interview part1 - HMVオンライン

「安全な作品を作り続けている」というのは、嶋氏の言葉でいうと「既に顕在化している欲望」に応える作品ばかり作っているということでしょう。確かに、最近のJ-POPって鉄板のパターンというか、売れるためのエッセンスが共有されちゃってる感じありますよね。奇しくも今月29日に『すべてのJ-POPはパクリである~現代ポップス論考』という本が発売されるそうなので読んでみようと思います。

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すべてのJ-POPはパクリである。 (~現代ポップス論考) [単行本]

マキタスポーツ

扶桑社

2014-01-29

作り手が新しいものを出すことを勝手に躊躇して安全パイに走るみたいなのは、活字メディアでも大いにあるよなあと思います。インターネットがなかった時代ならともかく、これだけ情報が溢れて価値観もライフスタイルも娯楽も多様化した今日なら、エッジィなものに対する抵抗感ってそんなにないんじゃないかなあ、と。

まあ少し話が逸れましたが、既に見えている欲望ではなくまだ見えていない欲望をいかに発見するかが企画のキモだという話です。もちろん欲望を発見するだけじゃなくて上手く満たさなくてはいけないんですが、何を発見するかが企画のクオリティを大きく左右すると。少なくともクリエイティブディレクターという仕事は、何かを作ったり生み出す能力以上に、まず"欲望"を発見するセンスが重要なのだろうと思いました。

世間ではよく「顧客の声を聞け」と言われます。それももちろん大事なのですが、顧客の声に従って生まれるものは既に言語化・顕在化された欲望を満たすものに過ぎない。そもそも、言ってることと思ってることが違うということも、往々にしてある(人間だから)。

少なくともクリエイティブの分野においては、顧客の"心の声"に耳を澄ます方がより重要なのでしょう。

(2014年1月20日「Splash Hits」より転載)