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NYのアートスクール学生が作った野球アプリが凄い

2013年12月13日 17時27分 JST | 更新 2014年02月11日 19時12分 JST

先日、ネットでこんな記事がちょっと話題になっていました。

【Number Web】"戦力外"ながさわたかひろが個展?「これは野球美術家のトライアウト」

ながさわたかひろ氏は、東京ヤクルトスワローズの今季全144試合を「ぬりえ」で描くなどスワローズに関連するアートをひたすら作り続けている、知る人ぞ知る"野球美術家"です。

記事の論旨をものすごくざっくり言うと「ながさわ氏はスワローズの作品作りに果てしない情熱と愛を注いでいるが、野球界からも芸術界からも異端扱いされ色眼鏡で見られている。経済的にも破綻し、限界のところで活動を続けている。それでもまだ諦めずに頑張っている」という感じです。記事を読むだけでも、作品作りにかけるその凄まじい情熱をひしひしと感じることができます。「昨年の引退から今シーズン半ばに現役選手へ復帰した」そうです。

筆者の村瀬秀信さんは、様々な「野球に携わる活動」を取材されているらしく、「野球芸術界に殴り込み!女子大生ユニットの大いなる野望。」という記事も執筆されています。

どちらの記事を読んでも思うのですが、日本では野球と芸術を「相反する文化」と見なす風潮がある気がします。アウトドアvsインドア、筋肉vs知性、真逆のクラスタというか。「スポーツと芸術」に置き換えても、大体同じ感じかなと思います(フィギュアスケートみたいに芸術性の高く、芸術クラスタの人々も見るような競技はあるけど)。

これがベースボールの本場アメリカだと、「ベースボールとアート」はもはや芸術におけるいちジャンルといっても過言ではないくらい、というと過言かもしれませんが、少なくとも日本よりは遥かに根付いています。メジャーリーグの球場内を歩けば、昔の名選手を描いた絵画作品なんかがたくさん飾ってあります。スポーツ文化が成熟していることに加えて、アート文化も日本より先進的かつ多様であることも理由かもしれません。

 僕が個人的にメジャーリーグを好きな理由のひとつが、日本だと"畑違い"と思われそうな様々な分野とナチュラルに融合し、それがメジャーリーグをより魅力的にしていることです。アートの他に、たとえばデザインとかITとか建築とか、異分野のエキスパートたちが普通にメジャーリーグに携わり、日本ほど色眼鏡で見られることもありません。『マネーボール』は、それまでベースボールとは無縁と思われていた統計オタクが野球界にイベーションを巻き起こす話でした。

ベースボールと異分野のコラボレーション事例として是非紹介したいのが『Pennant』というIPadアプリです。このアプリは、MLBの過去60年分、計115,000試合以上のデータを、スコアだけでなくイニング単位、打席単位で見ることができるという、MLBファンには堪らない変態アプリです。

60年分のデータを打席単位で網羅しているそのデータ量も凄さまじいのですが、特筆すべきはその斬新なグラフィックデザインです。 

実はこのアプリの開発者は、ニューヨークにある世界的に有名なアートスクール、Parsons The New School for Designの学生。大量データがただ並んでいるだけでは味気ないですが、直感的で楽しい操作感、スタイリッシュなインターフェイス、グラフィカルなデータの見せ方(表現力)など大変素晴らしい。アプリのDescriptionには「未だかつてなかった、インタラクティブに楽しむベースボールの歴史」とあります。

このデザイン性の高さが評価され、2011年にAppleがテーマ別に優れたアプリを選出するApple Design Award受賞作品にも選ばれています。

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一見畑違いとも思える名門アートスクールの学生からこんなアイデアが出てくることが、アメリカスポーツの強さというか、超えられない壁だと思います。これを言ってしまうと元も子もないのだけれど、アメリカにはその土壌があるのです。

少し話が変わりますが、現地9日からフロリダ州オーランドでMLBのウィンターミーティングがはじまります。各球団のGMや選手のエージェントら関係者が一同に介し、来季に向けた編成や契約を詰める場ですが、ここでは他にもジョブフェアや野球関連の見本市など様々なイベントが行われます。

たとえば今年は、MLBのロゴデザインなどを担当するグラフィックデザイナーの方が「ベースボールとデザイン」をテーマにプレゼンテーションを行うそうです。僕は現場には行きませんが、もし来年以降で行く機会があれば、他の報道記者たちのようにトレードや移籍の噂を追いかけるのではなく、こういうのをじっくり見たいなあと思います。

それまで無縁だった2つ(もしくはそれ以上)のものを組み合わせることで新しいものが生まれるとは、よく言います。特にスポーツの場合は、それまで「興味がなかった」「縁がなかった」人に対して、新しい扉を用意できる可能性があります。

たとえば建築関係の仕事をしているうちの母は野球のルールもよくわかっていませんが、僕が「メジャーのスタジアムって半分以上同じ建築事務所が作ってて、ここ20年くらいレトロモダンブームがあって...」という話をすると少し興味を持ってくれます。それまで別世界の話だったのが、自分との共通項を見つけることではじめて自分の世界に入ってくるのです。何事もそうです。

これはスポーツメディアに携わる一個人としての話ですが、僕は専門家として競技そのものを深く掘り下げることよりも、どちらかというと「馴染ませる」ことに興味があります。マニアックな領域のコアファンに向けて発信するよりも、それまで縁もゆかりもなかった人々に向けて扉を作りたい。僕は最近よく「丸の内OLにメジャーリーグの試合を観てもらうキッカケを作りたい」と言ってますが、本気です。

一見華やかだけど狭く閉鎖的なスポーツ業界において「馴染ませる」役割を担いたいのです。

(※2013年12月9日の「Splash Hits」より転載しました)

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