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ダルビッシュの通訳、二村健次氏がMLB公認ブログをスタート

2014年06月14日 17時46分 JST | 更新 2014年06月14日 18時11分 JST

今やメジャー屈指の投手に登り詰めたMLBテキサス・レンジャーズ、ダルビッシュ有投手の通訳を担当されている二村健次氏が、MLB公認のオフィシャルブログ「Speaking Baseball-野球という共通語」をスタートされました。

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皆さん、初めまして。テキサスレンジャーズの球団通訳、二村健次と申します。このたび「Speaking Baseball-野球という共通語」というブログを始めました。通訳という仕事をしていると、色々な言語の表現を耳にします。日本語、英語、スペイン語の通訳をしていますが、各言語固有の言い回しがあれば、時には通訳泣かせの表現も登場します。同時に、そういう言葉こそ興味深く、掘り下げていくと、文化の相違や面白い発見があることも。他にも、選手、コーチ、メジャーのOBの方々と話していると、人生の教訓になるようなフレーズに出会います。メジャーで使われている野球独自の表現、日本語固有の言い回しの英訳、英語独特なフレーズをこのブログで紹介していきたいと思います。

「Speaking Baseball-野球という共通語」

 TVのスポーツニュース等で、たまにダルビッシュ投手が登板後のメディアインタビュー(記者会見)が放送されていることがありますが、そのインタビューの席でいつもダルビッシュ投手の隣に座り通訳を担当している方が二村氏です。2008年〜2011年にロサンゼルス・ドジャースで黒田博樹投手の通訳を務めた後、2013年からダルビッシュ投手が所属するレンジャーズに“移籍”されました。

 ニューヨーク大学大学院卒業後、スペインの大学で修士号も取得しているという二村氏は、日本語、英語のみならずスペイン語も操るトリリンガル。レンジャーズではダルビッシュ投手のみならず、今や全メジャーリーガーの20%以上を占めるラテン系選手たちの通訳もされています。NPBで活躍し好待遇でメジャー移籍する多くの日本人選手と違い、ラテン系選手は10代後半くらいでマイナーリーグに飛び込み数年かけてメジャーに上がってくる“叩き上げ”の選手が多いので、基本的に専属通訳などいません。とはいえ、英語が苦手な選手も少なくなく、そうした選手のサポート役を二村氏は率先して務めているのです(昨年にレンジャーズのクラブハウスを取材で訪れたとき、その日活躍したあるラテン系選手を取材するためアメリカ人記者たちが二村氏を囲んでいる光景が印象的でした!)。

 メジャーリーガーの通訳の仕事は多岐にわたります。というか、二村氏曰く「通訳の仕事は全体のわずか5パーセントに過ぎない」「残りの95パーセントは『コンシェルジュとガイド』」だそうです。MLBで通訳経験がある人を他にも複数人知っていますが、やはり同じように言います。

 選手はただでさえ不慣れな環境で可能な限りプレーに集中したいので、通訳は日々の生活サポート、たとえば遠征先のレストラン手配からときには日用品の購入までこなさなければなりません。また、球場での仕事も通訳に止まらず何かを“兼業”するケースが多いようです。僕がスポカルラボというユニットを一緒に立ち上げ活動している小島克典氏は、かつてサンフランシスコ・ジャイアンツで新庄剛志氏の通訳とビデオコーチを兼任していました。

 通訳の仕事は全体のわずか5パーセントに過ぎないという。残りの95パーセントは「コンシェルジュとガイド」というだけあって、何でもこなさなければならない。黒田のために他の日本人選手などから情報を聞き、遠征先での和食店や家族へのみやげ物のショッピング先などを下調べ。「選手がどれだけ野球に集中できるかの環境づくりを行うのが僕の仕事」「客観的に物事を見つめ、考え、行動する」という、大学で文化人類学を学んだことがここで生かされた。

 家族を大切にする南米出身者。そのため、選手のルーツを知るためにドミニカに赴いた。風光明媚な田舎町。選手の実家に泊めてもらい、郷土料理で歓待を受けた。LAに来た際には、お返しにすき焼きをご馳走した。

黒田投手と4年間過ごした:ドジャースの二村健次さん―将来は「日米と南米の懸け橋に」

 アスリートの通訳にとって何よりも大事なのは、言うまでもなく選手のことを理解し、信頼関係を築くことでしょう。前出の小島氏は以前、新庄氏の通訳を務めるということについて「新庄語をまず日本語にして、それを英語にする。だから、二段階通訳」と話していました(笑)。通訳泣かせの“新庄語”の一例が、ワールドシリーズの試合後の記者会見で発した「五右衛門風呂に入りたい」や、スタバの「シャリシャリ感」のあるフラペチーノ、など。もっとも、新庄氏自身も“新庄語”がどう訳されるのかを毎回楽しんでいたそうです(笑)。

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こんなぼくでも英語がしゃべれた―新庄剛志の元通訳(メジャーリーグ) (王様文庫) [文庫]

小島 克典

三笠書房

2005-01

 まあ、新庄氏のケースはパンチが効き過ぎとしても、アスリートの通訳というのは、たとえば国際ニュースの同時通訳とは全く種類が違うのだと思います。特にダルビッシュ投手ほどのレベルの選手になると、もう彼にしかわからない考えや拘り、あるいは苦しみがきっとたくさんあるでしょう。また、日米のメディアに毎日追い回されることで神経質にもなるでしょう。そんなスーパースターがより快適にプレーに集中できる環境をサポートすることが通訳の仕事であり、それはとても難しくタフな仕事なのだと思います。

 多国籍、多文化のメジャーリーグの世界において、通訳とは「外国語を訳せる人」に留まらない。コンドームを意味する「rubber(ラバー)」はマウンド上のプレートを指し、「Broadway(目抜き通り)」は「ど真ん中の甘い球」を意味する。豊かな比喩を楽しみながら、瞬時に野球用語をイメージできる柔軟な対応力がモノを言う。

 彼らは多様なバックグラウンドを持つ選手たちの架け橋となり、コミュニケーションの起点(ハブ)となる。メジャーリーグは今年から、これまで禁じてきた通訳のベンチ入りを認めるルール改正を行った。クラブハウスの多様化が進む昨今、通訳の重要性は増している。

ダルビッシュの心情まで伝えた通訳の“ファインプレイ”

 これまで、MLBの現場で活躍する(選手を除く)日本人の方がブログなどで定期的に情報発信をするというのがあまりなかったので、二村さんのブログは楽しみです。ユニークな英語表現はもちろん、選手たちに最も近いところから発信される奥深いMLBの魅力に期待!です。

↑ダルビッシュ投手が時折繰り出す独特のジョークにやや苦笑い(笑)の二村氏

↑先月9日のボストン・レッドソックス戦。惜しくもノーヒットノーランならず

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丹羽 政善

ジャパンタイムズ

2009-03-25

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(2014年6月6日「Splash Hits」より転載)