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サッカーW杯はなぜ盛り上がるのか

2014年05月09日 18時18分 JST | 更新 2014年07月08日 18時12分 JST

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米MLS(メジャーリーグ・サッカー)、Chivas USAの応援団(2014年4月撮影)

 ご存知の方も多いと思いますがここ数日、欧米のスポーツ界が人種差別問題に揺れ、アンチ・レイシズムの波が起きています。

 まずはアメリカ4大スポーツのひとつ、NBAのスキャンダル。ロサンゼルス・クリッパーズのオーナー、ドナルド・スターリング氏が知人女性と交わしていた会話を録音した音声がWebに流出し、同氏の悪質な差別発言が発覚。NBAのアダム・シルバー・コミッショナーは永久追放処分を発表し、スターリング氏にはクラブを売却させる方針です。

NBA、人種差別発言のクリッパーズオーナーを永久追放処分

 続いては、スペインのリーガ・エスパニョーラ。FCバルセロナのダニエウ・アウヴェスが観客からバナナを投げ込まれる事件を発端に、欧州をはじめ世界中の選手やサッカー関係者たちが、レイシズムに反対する意思表示としてバナナを手にした写真や動画を次々とWeb上に掲載するキャンペーンを繰り広げています。

バナナを投げた男、人種差別行為で逮捕 「バナナの輪」には長友、ジーコも参加【動画】

 サッカー界のバナナキャンペーンに関しては、ひとりの品位なき観客により引き起こされた事件であり、それ自体は決して珍しいことではありません。MLBでも昨年、やはり黒人選手が観客からバナナを投げつけられる事件がありました。今回は「バナナを投げ入れる」という誰もが目視できる行為であったために世界的なキャンペーンにまで発展しましたが、TV画面には映らない言葉の暴力は日常的に飛び交っているものと思われます。

 NBAの一件は、クラブオーナーによる人種差別とあって問題は遥かに深刻でしょう。アメリカのバスケットボール界が現在、多くの優れたアフリカン・アメリカンの選手たちによって支えられていることは、誰の目にも明らかです。コミッショナーによる永久追放処分は、当然の英断だと思います。

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米MLS(メジャーリーグ・サッカー)、Los Angeles Galaxyの応援団(2014年4月撮影)

 「代理戦争」ともいわれるスポーツとレイシズムは、切っても切れない関係にあります。そしてその関係は、スポーツがビッグビジネスとして成長した今日、より一層強固になっていると感じます。

 「非日常の体験」こそが価値であるスポーツには、人々から日々の不安を一時的に取り除く(忘れさせる)力があります。

 昨年、東北楽天ゴールデンイーグルスが日本シリーズを制したとき、仙台をはじめ東北の人々はたとえ一瞬でも復興の苦しみを忘れ涙しました。ソチ五輪で羽生結弦選手が金メダルを取った瞬間、日本人の多くが日々の不安を忘れ歓喜しました。MLBではボストン・レッドソックスがワールドシリーズを制し、爆破テロ事件で傷を負った市民を癒しました。少なくとも、メディアはそう報じます。

 スポーツは、たとえ一時的だとしても人々を日々の不安から解放し、彼等彼女等のアイデンティティを肯定する力があります。楽天イーグルスの勝利は東北の人々を肯定し、羽生選手の金メダルは日本人を肯定し、レッドソックスの勝利はボストン市民を肯定したのです。少なくとも、メディアはそう報じます。

 スポーツは、人々の日常における不安や不満が表面化することを一時的に抑えるための最高のツールなのです。

 さて、世界中の政治家はおそらく誰もが、国民や市民の不安や不満が表面化することを抑えたいと毎日思っていることでしょう。現代社会においてこの仕事を請け負っているのが、スポーツの試合を放送するテレビ局です。

 今日、プロスポーツ選手の高額なギャラは、高額な放映権料に支えられています。その放映権料の大半を支払っているのは、世界の名だたるグローバル企業です。グローバル企業が成長するほど放映権料は高騰し、プロスポーツ選手のギャラはさらに高額になります。

 テレビ局は、スポーツコンテンツを通じてナショナリズムを煽ります。煽れば煽るほど人々は熱狂し、放映権料は高騰するからです。

 日本で、普段はサッカーを見ない人々がなぜワールドカップになると日本代表の試合に熱狂するのか。ひとつは、単純に皆で盛り上がることでアドレナリンを放出し日々の不安から解放されること、要するにストレス発散です。そして、国際試合は「国の威信をかけた戦争」であり、自身のアイデンティティを肯定するためのビッグイベントだからです。

 日本におけるワールドカップの盛り上がりは、多くの日本人が潜在的に抱いている"欧米コンプレックス"が表層化した現象と見ることができます。ワールドカップのような国際試合でなくとも、たとえばイチローや本田圭佑が海外のリーグで活躍し、現地で認められると我々は皆大喜びです。欧米人に対する深層心理的な劣等感を払拭し、日本人である自分を肯定することができるからでしょう。

 僕のことを「何てひねくれた奴だ!」と思われる方もいるかもしれません。が、日米のスポーツ業界とメディア業界に携わっている人間として、極めて冷静にこう感じます。

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 今日、急速なグローバル化とテクノロジーの発展によって、世界は複雑化、混沌化しました。その結果、人々は自身のアイデンティティは見失い、その反動として各地でネオ・ナショナリズムが加速しています。スポーツがここ20年ほどでビッグビジネスに成長した背景には、こうした社会環境の変化があるのだと思います。

 人々がスポーツの試合に自身のアイデンティティを投影する以上、人種や民族、そして宗教の問題は切り離せません。スポーツとレイシズムが密接に関係しているのも、そのためでしょう。

 「スポーツに政治を持ち込むべきでない」は、もちろん理想です。が、現実問題としては無理でしょう。たとえば今、ロシア代表とウクライナ代表が試合をしたら最高に盛り上がることは間違いありません。そこにビジネスチャンスがある以上、活かそうと考える人は必ず出てきます。

 幸か不幸か、政治が持ち込まれているからこそスポーツは盛り上がるのです。

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(2014年5月3日「Splash Hits」より転載)