MET People - session #1 「美しいがん患者でいよう」イベントレポート

「私の体験したことをお話させていただきますので、ぜひ広めていただければ、そのような方々に少しはお役に立てるのではと思います」という、謙虚でありながらも力強い言葉で始まった、さとう桜子さんの講演。彼女の闘病生活は、苦難に満ちていました。

大変遅ればせながら、新年明けましておめでとうございます。まだまだ未熟なメディアながら、昨年中はハフィントンポストさん公式ブロガーの仲間入りをさせていただき、こうして皆様をはじめ多くの方々に、記事をご覧いただくことができました。ハフィントンポストの皆様、そして記事をお読みいただいている皆様、本当にありがとうございました。本年も引き続き、何卒宜しくお願い申し上げます。

さて、My Eyes Tokyoでは昨年10月より、これまで私たちが公私の場でお会いした素敵な方々を、活動分野や性別、国籍問わずリアルな場でご紹介させていただく試みをしております。これまで私たちは、3人の方々のライフヒストリーをお伝えしてきました。

1. "がん患者に優しいエステサロンを開業"さとう桜子さん

2. "10億人に日本を売り込むPR女子"小松崎友子さん

3. "全然LOHASじゃないナチュラル女子"羽田賀恵さん

どの方もとても素敵な方々ですので、ぜひより多くの方々にお伝えしたく思い、この場でもご紹介させていただきたく思います。

それではお1人目、自らもがん患者であるさとう桜子さんの、壮絶なる闘病記、そして病を乗り越えエステサロン開業に至るまでのストーリーをお送りいたします。お時間のございます時にお読みいただければ幸いです。

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My Eyes Tokyoで開催した新たなイベントのレポートです。私たちがこれまでに出会った素敵な方々をリアルにご紹介する「MET People」。その第1回目を2013年10月6日(日)東京・水道橋にある"ギークカフェ"にて開催しました。


スピーカーは、自身ががん患者でありながら、これまでの経験や知識を活かして、がん患者にやさしいエステサロン"セレナイト"を立ち上げた、さとう桜子さんです。この方との衝撃的な出会いが、一人の女性を突き動かしました。「MET People」の企画者であるMy Eyes Tokyoスタッフの山崎千佳による報告です。

■ 生き様に惹かれて

今回のスピーカーであるさとう桜子さんにお会いしたのは、2013年8月。私たちMy Eyes Tokyo(以下MET)が主催するプレゼンイベント「Mechakucha Night」の第4回目のセッションでした。ご本人はスピーカーではありませんでしたが、桜子さんを応援している男性がプレゼンしました。その内容が、桜子さんのことでした。

まず「がん患者がオープンしたサロン」というタイトルに目がとまりました。一体どんな話なんだろうと・・・正直、ネガティブな内容かなと身構えました。

しかし、闘病生活から起業に至るまでの経緯を聞くうちに、一人の女性の生き様にどんどん引き込まれていったのです。

途中、副作用を伝えるところで桜子さんご自身が登壇。その凛とした存在に惹きつけられ、最後にはこの方が今後どんなご活躍をされるのか、心の底からワクワクが溢れ出すのを感じていました。

ちょうどMETで新たなイベントを企画していたところでした。今までインタビューしてきた方々の記事はサイトにアップされていますが「バーチャルだけでなく、リアルにも伝えたい」「様々なイベントやご縁で出逢った方々とリアルな交流の場、化学反応が起こる場を作りたい」そんな思いが募ったちょうどこのタイミングで、桜子さんと出逢い・・・

伝えなければという使命感にかられました!

そのような経緯から、記念すべき「MET People - session #1」のゲストスピーカーに是非!と猛烈アタック。このセッションが実現したのです。

皆様はご存知でしょうか。毎年10月は"乳がん啓発月間"だということを・・・このイベントを企画したとき、私は全然知りませんでした。10月6日イベント当日、会場に来る前に知り、縁を感じました。

こじんまりとした和やかな雰囲気で、まずは参加者の自己紹介からスタート。それは、一人一人がどんな思いでいらしてくれたのか、私たちが何を提供できるかを模索するヒントとしつつ、一方でゲストスピーカーと参加者、また参加者同士でも繋がっていただきたいと思ったからでした。

そして講演スタート。さとう桜子さんの生き様を「闘病」「美容業界でのキャリア」「起業」という3つの切り口にフォーカスして語っていただきました。

■ 吐きっぱなしの闘病生活

「私の体験したことをお話させていただきますので、ぜひ広めていただければ、そのような方々に少しはお役に立てるのではと思います」という、謙虚でありながらも力強い言葉で始まった、さとう桜子さんの講演。彼女の闘病生活は、苦難に満ちていました。

桜子さんの癌が発覚したのは、2011年夏。その当時桜子さんは、誤解を恐れずに言えば、病気を軽く考えていたところもあったようです。「初期ならば誰もがかかってもおかしくないのでは?」という思いや、"アトラクションに乗っかっちゃう"気持ちもあったと言います。

癌を見つけた婦人科から紹介を受けて移った大学病院では「心が苦しくなる言葉をたくさん投げかけられた」そうです。先生とは馬が合わず、ご友人が紹介してくれた病院に移ったところ、子宮体がんと診断。そこからまた紹介状をいただきました。最終的には2011年10月に、国立がんセンターで子宮体がんの手術をしました。

しかし退院2日前、国立がんセンターの先生から、リンパへの転移を知らされます。手術では50個以上のリンパを取りましたが、その後ずっと吐きっぱなしだったそうです。食べていないのに吐きっぱなしで、吐瀉物を入れる袋をたくさんテーブルに並べて、どれに吐いても良いような状態にしていました。体重も7~8キロ減り、顔色は真っ黒。一人で歩くこともできないくらいでした。

■ 人を拒絶

この写真は、桜子さんが抗がん剤投与を開始してから1ヶ月後。2011年12月半ばからそれは始まりましたが、シャンプーしても、いつシャンプーを終わらせれば良いのか分からないくらい髪の毛が抜け、排水溝が髪の毛でつまるほどだったそうです。

しかもその脱毛は、頭髪に留まりませんでした。眉毛もまつ毛も無くなり、全身の毛が全て無くなったそうです。「本当に人を拒絶していて、がん患者としか会いたくなかった」そんな心境だったと言います。

でも、桜子さんは「この先生だ!」と思える医師に出会って、その辛さを乗り切りました。職業上「大丈夫!」とは言えないけど、この「MET People」のことを話したら「頑張ってお話してきてね!」と言ってくれたそう。もう私まで嬉しくなりました。

「がんは、手術したら終わる病気ではありません。その後もずっと付き合っていかなければいけない病気だから、自分を全て預けられる先生に会うまでは、病院をいくつも転々としても良いと思います」

■ 無臭なのに臭う

そんな素晴らしい出会いに恵まれた桜子さん。でも彼女の体に、さらなる副作用の魔の手が伸びました。「臭い」です。抗がん剤を処方している間は、体内から余分なものを出すために水をたくさん飲まなければなりません。最初のうちは抵抗なく水を飲めた桜子さんも、そのうち飲めなくなりました。水は無臭のはずなのに、水の臭いを感じて吐き気がするようになったのです。

そのうち、他の患者さんへのお見舞いのお花の香りや、オーガニックの無香料のシャンプーにさえも臭いを感じてしまうようになりました。また臭い以外にも、関節痛で歯磨きのキャップが開けられなくなったり、"ムーンフェース"と呼ばれる独特の顔のむくみ、口の中に広がる得体の知れない"苦み"、爪の黒ずみなど、ありとあらゆる副作用に襲われたのです。

確かに、このような闘病記は私も心を打たれずにはいられませんでした。現在は一般的には生涯で2人に1人ががんになると言われています。そんな時代だから、私だって他人事ではありません。

でも私たちMETは、決してこのイベントを"お涙ちょうだいの会"にしたいわけではありませんでした。今年8月に桜子さんのお話を初めて聞いたときに、もし彼女が「がん患者になって、闘病して、辛かった・・・」で話を終えてしまっていたら、多分私の心には響かなかったでしょう。

私たちが一番強く惹かれたのは、それでも桜子さんがキャリアを活かして起業に踏み切ったこと。なので後半は、桜子さんのこれまでのキャリアについて、そして起業に踏み切った経緯についてお話しいただくことにしました。

■ 楽しくて病気に気づかなかった

桜子さんは、ヘアメイクアーティストとして美容界デビューし、それから化粧品業界に移りました。「生活のため」に入った世界でスキンケアを知った桜子さんは、そのスキルを人に伝える仕事にのめり込みました。

「がんになる前は"自分の人生の中で、こんなに仕事したことない!"というほど働いていました」と語る桜子さん。病気になる前は全国様々な場所へ出張に行き、朝8時から夜11時までトレーニングをしていたこともあったとのこと。でもそれは「楽しくて」されていたことだったそうです。美容はこんなにも仕事に幅があるのだと感じ、楽しくて仕方がなかったから、病気に気づいていなかった - トレーナーとしてさらにスキルアップしたいと思った矢先、桜子さんはがんにかかりました。好きなことを仕事にさせてもらっているから、その仕事ができなくなってしまうのではないか・・・という不安があったと言います。

勇気を出して、職場で「私、がんなんです。この髪の毛も、実はかつらなんです」とカミングアウトした桜子さん。彼女から指導を受けているスタッフさんが「え?」と驚きました。「でも私が"それでもこんなに元気なんですよ"と生徒さんに言う。それで気持ちの切り替えができたのです」桜子さんはそう言って笑いました。ちなみに今の桜子さんの美しいサラサラヘアーは、全て自毛です。

■「私こそ、やるべき!」

働いても働いても、それを楽しんでしまうほどの天職に出会った桜子さんでしたが、起業の経験は皆無でした。それでも彼女は、東京都心に自身のサロン「セレナイト」をオープンさせたのです。しかも退院したとは言え、まだまだ病気の身。桜子さんは「確かに無茶なことをしたと思う」と笑いましたが、当時は彼女がいくら調べても、セレナイトのようなサロンはありませんでした。

抗がん剤の投与で肌がボロボロになった桜子さんは、ある日エステに行きました。しかし、実際は満足よりも、ショックの方が大きかった。施術をする人はがん患者ではないので、キツい言葉を投げかけたり、水のにおいが苦しいと言っている状態なのにスチーマーを焚かれて苦しくなったそうです。

「これらのことを経験した私だからこそ、同じような思いをした人のことを理解できる。だから私がやるべきじゃないかと思ったのです」

エステのアイデアが浮かんだのは、2012年夏。桜子さんは2人の闘病仲間と共に始めるべく準備を進めていました。ちょうどその頃、中畑隆拓さんという男性と知り合いました。中畑さんこそが、今年8月に私たちが主催した「Mechakucha Night Vol.4」でセレナイトについてプレゼンをした男性です。彼は優秀なウェブエンジニアであり、起業に関して桜子さんに真摯にアドバイスされたそうです。

本当に悲しいことに、今年6月のオープン目前に、そのうちのお一人が亡くなられました。でも中畑さんのおかげで、ここまで来れたと桜子さんは言います。

今ではがん患者だけでなく、違う病気で苦しんでいる人も"セレナイト"にいらっしゃるそうです。普通のサロンだと質問されたくないことまで聞かれたりするけど、セレナイトはそうではないからホッとするし、お部屋も広いのでリラックスできる、という声が、桜子さんの耳に届くようになりました。

■ 絶対に"先"はある

最後に、桜子さんは決意を新たにこのように述べました。

「貯金は全て使い果たしました。"こんなになるなんて・・・"と思うほど今は厳しい状況にありますが、やりがいはあるし、日々勉強です。

私は、このビジネスは"絶対に先がある"と思っています。ある人からは"絶対にセレナイトを必要としている人はたくさんいると思う"と言われました。今は、多くの人にセレナイトのことを知ってほしいという思いだけでやっています。

今日来て下さった皆様が何かしらの形で発信していただけると、私みたいに悩んでいる人、いえ、それ以上に想像もし得ないようなことで悩まれている人たちに届くこともあると思います。私は不安でいっぱいですが、絶対に成功させたいと思っています!」

振り返ってみると、桜子さんに猛烈アタックをしてから急ピッチで企画を進めてきました。桜子さんはとても謙虚で、自分にスピーカーなんて務まるか終始不安なご様子でしたが、そこは私たちMETの情熱で押し切ってしまったようなものです(笑)

METもプロモーションのプロではありません。しかし、失敗しても別に失うものはない(そもそも何をもって失敗かという定義もありません)、とにかく桜子さんの活動を少しでも多くの人に伝えたい、共感して欲しい、応援して欲しい・・・この思いだけでイベントを行いました。

実際、話をされている時の桜子さんは、迷いがなく、自信に満ち溢れていました。がん患者であることをすっかり忘れてしまうくらいでした。

実は私は、応援するなら実際に施術してもらって、自分でそのサービスを体感し、納得したいとの思いがありました。ですので個人的にカウンセリングやフェイシャル、メークアップレッスンなどを受けてみました。いち顧客の山崎千佳と接している時の桜子さんは、取材の時の不安な様子とは打って変わってキリッとした、でもおっとりした、まさにプロフェッショナルの顔でした。

「ああ、プロとはこういうものなんだな」と実感しました、同時に「え?がん患者だっけ?そもそもこのサロンのコンセプトは何だっだっけ?」と思い返さなければならないほどでした(笑)

闘病生活で苦しんでつらい思いをして、悩みながら自分の道を探した結果、自分の価値を最大限に活かす選択をした桜子さん。きっとこれは"ミッション"に違いありません。

その強く美しく優しい存在を、私たちMETは今後も応援していきます!

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