世界とつながるために、自分たちの持っているものを見つめ直そう -- 粋プロジェクト

オリンピックイヤーまでの"時限集団"が産声を上げました。「粋プロジェクト」 ― 国際社会でも凛として立ち振る舞うことを目指す人たちで結成された集団です。

2020年の"東京オリンピック"開催決定を機に、書店には英語学習の方法や、たくさんやってくるであろう海外からの旅行客との接し方を特集した雑誌が並ぶようになりました。そしてまるでオリンピックに向けてのリハーサルのような、昨今の円安による訪日外国人観光客数の増加。数年前から観光業界でのみ知られていた"インバウンド"(訪日観光客誘致)という言葉が、私たちの間でも聞かれるようになっています。

そんな中、オリンピックイヤーまでの"時限集団"が産声を上げました。

粋プロジェクト」 ― 国際社会でも凛として立ち振る舞うことを目指す人たちで結成された集団です。"凛"は「厳しく引き締まっている様」を指す言葉。海外の人たちとコミュニケーションを取る時に、ひるんだり萎縮したりせずに、堂々と向き合えることを目指し、同時にそのコミュニティを広げていくことを目指しています。

「凛として世界とたたかうために必要なのは"自らのアイデンティティを見つめること"」と熱を込めて言うのは、プロジェクト発起人の永田勝也さん。過去にアメリカで生活する中で、日本人としてのアイデンティティをあらゆる場で感じたMy Eyes Tokyo主宰の徳橋は、その言葉に大いに賛同しました。またハフィントンポストの読者の皆様の中には「海外の人たちと交流する時に、自分たちの文化のことをきちんと知っておかないと、恥をかくことすらある」ということを身をもってご体験された方も多いのではないでしょうか。

自ら経営者として事業を営む多忙な身でありながら、自分たちの足下にあるものを学ぶための勉強会を開き、世界に向けて発信する映像の制作や、外国人向けのイベントの開催を矢継ぎ早に行う永田さんに、自身の原動力や目指すゴールについてお聞きしました。

■ 日本文化を、親しみやすく

「粋プロジェクト」は、「日本ってすげえ!」とアピールする集まりではありません。最近はやりの「日本文化は素晴らしい!」という風潮には違和感を感じますが、そうかと言って「日本の文化は分かりにくくて手が出しにくい。僕らとは関係ない人たちが勝手にやっていることだ」と言うのも違うと思います。格式高い日本文化を、私たちはもっと親しみやすい形で伝えたい。そんな思いでこのプロジェクトを立ち上げました。

■ "グローバル"って何?

私は長い間事業を営んでいますが、2008年のリーマンショックで岐路に立たされました。クライアントが相次いで倒産し、支払われるべきお金が回収できないなど、酷い目に遭いました。仕事も急激に減りました。その時に私は考えました。「今までの流れで業務を続けていても、いずれ仕事が無くなるかもしれない」と。

そこで私は、今後人口が増え続ける層として"訪日外国人"をビジネスターゲットにすることを考えました。

その当時に巷で言われ始めた言葉が"グローバル"でした。初めのうちは、その言葉がカッコ良く響きました。私自身も"グローバルな人材"に憧れました。

でもそのうち「待てよ」と思いました。グローバルの言葉の意味をずっと考えたけど、結局曖昧なまま。直訳すると「地球的な」ですが、グローバルな人って、つまりは"地球市民"のようなものなのか? 私たちは地球市民である前に日本人なのではないか? グローバル人材ってどんな人なのか、グローバル社会ってどんな社会なのか? グローバル化ってアメリカ化することなのか、西洋化することなのか、どうなることなのか、全くピンと来ませんでした。

■ 凛とした人であるために

やがて考えるようになりました。「グローバルって、結局はアメリカが作ったOS(オペレーティングシステム)みたいなものじゃないか」と。正解かどうかは分かりませんよ。でも何だか「アメリカが作ったOSの上で"日本"というアプリが動いているだけなんじゃないか」という気がしてきたのです。アップルがiPhoneを作らなければアプリも存在し得ないし、アップルが許可を出さなかったらアプリを世にリリースできませんよね。

誤解していただきたくないのですが、私はアメリカ文化を否定しないどころか、私自身はこれまでサーフィンやスノボ、スケボーにハマり、クラブイベントも数多く開いてきた洋楽好き、スターバックスで毎朝のようにコーヒーを飲んでいるような(笑)アメリカ文化に少なからず影響を受けてきた人間です。でも一方で、何の疑いも無く「グローバルってカッコいい!」と思うことが、むしろダサいと思うようになったのです。日本は日本で、自分の足で立つことを考えなければならないのではないか、と思うようになりました。

その一歩として、自らのアイデンティティを見つめることを自らの目標に据えました。自分のアイデンティティを基礎にして、凛とした佇まいで海外のいろんな人たちとコミュニケーションを図る。それが私の理想とする人間像になりました。譬えるなら、明治初期に欧米各国を歴訪し、帰国後に日本の文明開化に大きく貢献した"岩倉使節団"の人々でしょうか。

■ アイデンティティとコミュニケーション

そんな理想の人間像に向かって、私は自分たちのことをもっと勉強しようと思いました。そこで私は、歴史や宗教、芸術など様々な分野の専門家から学ぼうと考えました。しかも私のオフィスならスペースは十分にあるし、私一人だと根気よく勉強を続けられるか分からないので(笑)多くの人をお招きして彼らと一緒に勉強することにしました。

また自分たちのことだけでなく、世界のことも知りたいと思ったので、訪日外国人が宿泊するゲストハウスで定期的に国際交流パーティを開きました。

それらの活動が"アイデンティティ"と"コミュニケーション"を柱とする「粋プロジェクト」の母体になっています。"粋"という言葉を冠することは、プロジェクトを企画した当初から考えていましたし、他の選択肢はありませんでした。自分が行ってきた活動を一言で凝縮した言葉とも言えるし、私自身が東京の下町で育ってきたという背景が影響しているかもしれませんね。

■ 変化の中にある"普遍"を大事に

この「粋プロジェクト」には、華道家や僧侶、茶道家、剣士といった精鋭が集まっています。彼らは昔ながらの伝統に捕われてはいません。例えば華道家は、鋏をエフェクターやアンプにつなぎ、花材を切る時に出る音をパーカッションにしてベースやドラムと共演するパフォーマンスを展開しています。また茶道家は、ニューヨークのタイムズスクエアでゲリラ的に茶屋を開きました。言わば"本物をカジュアルに伝える"人たちの集まりであり、そうすることにより、最初に申し上げた「日本の良いものをもう一回見直し、足元を固める」ことを容易にしたいと考えています。

つまり"世界とつながるために、自分たちの持っているものを見つめ直す"ということです。アイデンティティとコミュニケーションを掛け合わせてイノベーションを生み出す ― それが「粋プロジェクト」の狙いです。

(2014年8月 浅草)

"粋なPOLITAN"で華道のパフォーマンスを訪日外国人観光客に見せた時、彼らは言葉なく釘付けになっていました。日本語が通じず、文化背景も異なる人たちが惹き付けられた。つまり彼らは華道の"コア"の部分に惹き付けられたのだと思います。そしてその"コア"こそが、日本文化の持つ普遍性なのではないかと思います。

時代によって変化するものは、当然存在します。価値観はその良い例です。かつてはハンバーガーやコーラがもてはやされたのに、今はそれらが健康を害する諸悪の根源のように扱われており、中でもマクドナルドの売上は急下降しています。

そんな中で私たちは、時代ごとに変わるものの中に、普遍的な、時代を貫くものを見いだしたいと思っています。コアの部分をきちんと伝えることが出来れば、その相手の国籍や人種は関係なくなると思います。コアを伝えるために、外側の"見せ方"を柔らかくする。それが今後の国際社会で必要になってくると思います。

自分たちが2本の足でちゃんと立てるようになるために、これまで先人たちが培ってきた文化をもう一度見直し、そこから新たに文化を作る。そして日本が"精神の開国"を果たすことに貢献する。期限は2020年です。私たちは、それを可能にする集団でありたいと思います。

【関連リンク】

粋プロジェクト:http://www.ikipj.com/


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