「利益の創造と社会への貢献が同時にできる文化」をつくります -- 城宝薫さん

飲食店に予約するだけで社会貢献ができるアプリ、開発者の城宝薫さんにインタビューをしました。

季節はすっかり秋ですね。秋といえば「読書の秋」「スポーツの秋」そして「食欲の秋」。そこで今回は「食」にまつわる素敵な女性をご紹介します。

今年3月のある日、私たちはFacebookのタイムラインで興味深い情報をキャッチしました。

それは「レストラン予約で途上国の子どもたちに給食を届けるアプリが誕生!」というニュースでした。「テーブルクロス」という名前、でも英語表記はTable Cloth(一般的なテーブルクロス)ではなく"Table CROSS"。これは決して綴り間違いではなく「国境や文化を超えて"食"で繋がり幸せな世界ができることを願って名付けました」とのこと。

単純に楽しいだけのアプリではなく、そのアプリを使って、日頃の生活で誰もが一度は体験する"飲食店の予約"をすれば、それだけで社会貢献できる。しかもアプリユーザー側への金銭的負担はゼロ・・・私たちは「これこそ使う価値があるアプリだ!」と思いました。

こんな素敵なアプリを開発した人って、一体どんな感じなんだろう・・・と思い"中の人"を調べました。そしてこれまでに国内外で親善大使や組織の責任者を務め、数々のプレゼン大会で優勝を果たしてきたような、すごい現役女子大生であることを知りました。それが今回のお相手である城宝薫(じょうほう かおる)さんでした。

飲食店予約で世界の食問題を解決する - 社会起業家を多数取材し、社会貢献分野にアンテナを張り巡らせてきた私たちも聞いたことが無い、そんなユニークな仕組みを作った背景を聞き、世界中に発信したい・・・そう思い、城宝さんをゲストにお迎えした公開トークイベントを企画・開催。癒し系ぶりと、時々ちょっとだけ顔をのぞかせる"天然"(笑)な一面で参加者を和ませる一方、独自のやり方で社会の仕組みを変えることに対しては、力強く決意表明をされていました。

そして今、城宝さんは「日本と世界の食料問題を、たくさんの人たちと考えたい」という自らの思いを形にするべく「世界食料デーフェスティバル」(10月18日開催)に向けてラストスパートをかけています。

*インタビュー@フロマエカフェ(東京都荒川区)


■ 「誰のために働いているんだろう?」

「食べログ」や「ぐるなび」と全く同じグルメアプリを開発しました。ただし他とちがうところがあります。このアプリを使って飲食店に予約をすると、予約人数分と同じ途上国の子どもたちの人数に給食が届けられるというサービスになっていることです。

ユーザー1人が予約をする毎に、飲食店から180円の広告費が支払われ、そこからWFP(国連食糧計画)を始めテーブルクロスが提携している9つのNPOに給食費が送られます。フィリピン、カンボジア、ミャンマー、東ティモール、ケニア、パレスチナなどに給食が届けられ、現地の子どもたちから「ありがとう」のメッセージが写真付きで飲食店に届きます。しかも現地にきちんと給食が届けられているかを、第三者機関が監視しています。

会社を立ち上げたのは2014年6月末。設立してから最初の半年間はずっとアプリ開発をしていました。そして今年3月22日にアプリ「テーブルクロス」をリリースしました。今年4月初めの時点で、約400の店舗様に加盟していただき、"外食するなら予約しよう"の輪が徐々に広がってきています。

寄付を自分のポケットマネーでするくらい、寄付が一般化している欧米に比べて、日本では寄付への心理的ハードルが高いように感じます。でもテーブルクロスを使えば「飲食店に予約するだけで」社会貢献でき、その時にアプリユーザーにかかる金額はゼロ。寄付金は飲食店にご負担いただく広告費から支払われる。これらがテーブルクロスの最大のポイントです。

私はかつて、某グルメサイトの営業をしていました。サイト運営会社ではなく、サイトの営業を受託している会社でアルバイトをしていました。その会社は営業成績に対して非常に厳しいことで有名でしたが、数字ばかりを追いかける中で、私はふと「私は誰のためにこのサイトを販売しているんだろう?」と思いました。その思いが、やがて「私なら"誰かのためになれる"レストラン予約の仕組みが作れるかもしれない」という思いにつながりました。


■ ストリートチルドレンと"CSV"

テーブルクロスのアイデアにつながる経験は、主に2つあります。

私は小さい頃から、家族と一緒にいろんな国に行ってきました。その中で特に印象に残ったのが、7歳の頃に行ったインドネシアでした。そこでは当時の私と同じくらいの年の子どもたちが、ストリートチルドレンとして生活していました。その子たちの姿が幼い私の脳裏に焼き付いて離れませんでした。先ほど申し上げた"誰かのためになりたい"の"誰か"は、私にとってはそんなストリートチルドレンたちだったのです。

もうひとつは私が高校1年生の時、私の出身地の千葉県浦安市から、姉妹都市の米フロリダ州オーランドに親善大使として派遣されたことです。現地では小・中・高校のクラスの様子やNPOの活動を見させていただく機会に恵まれました。その中で「あ、これからはこれなんだ!」と気づいたことがありました。

それは「人々が"社会貢献と利益追求を同時にすることで社会が良くなる"という考え方を持っている」ということでした。今の言葉で言うと"CSV"(Creating Shared Value: 共通価値の創造)ですね。もちろん高校1年生当時はCSVという言葉を知っているはずもなく、今年に入ってから知ったのですが、まさに「あの時気づいたのはこれなんだ!」と思いましたね。

日本では「得た利益を社会にも還元しましょう」というCSR(Cooperate Social Responsibility: 企業の社会的責任)が盛んですが、そうではなく「利益追求と社会貢献を同時にすることが社会から求められている」という価値観が、当時のアメリカにはありました。だからNPOでもすごく利益を追求していたんです。

私が視察させていただいたNPOは、地元のお母さんたちが運営する小さな団体でしたが、お母さんたちが打ち合わせしてるときに、数字が書かれた紙を広げて電卓を打っている姿に衝撃を受けました。「こんな小さな団体でも利益を追求しているんだ」と・・・私には"NPO=ボランティア"のイメージが染み付いていたので、地域の小さなNPO団体でさえも収益を追求する取り組みをしていたことが、当時の私にとってはすごく刺激的でした。


■ 幼少期から「将来の夢は社長」

高校1年でこのようなことに気づけたのは、きっと祖父の影響だと思います。私の母方のおじいちゃんはIT企業の社長でした。私が子どもの頃のおじいちゃんはいつもアイスを食べさせてくれるような(笑)優しい人で、特に仕事をしている時のおじいちゃんを見たことはありません。でも私はおじいちゃんに憧れたんですね。だから物心ついた時から周囲に「私は将来、社長になる!」と言っていたらしいです。自分では全然覚えていないんですけど(笑)幼なじみの子たちからは「おまえ、本当に社長になったんだな」と言われたりしました(笑)

起業する前には、大学1年の時に「Volante(ボランチ)」という学生団体を立ち上げました。「Made in Japanを元気にする!」を活動方針とし、企業とコラボして商品開発などを行う団体で、全国約30大学から80人が参加し、関東や関西、台湾に支部を作る規模にまで広げました。そのような起業の疑似体験をしながらも、大学3年の頃は迷って、一時期総合商社や広告系企業などにOB・OG訪問をしていたんです。そういうところに入って2〜3年経験を積んでから本格的に起業するという選択肢だってあるだろうと思いました。

でも決め手は、素晴らしい技術者との出会いでした。私は普段から自分のやりたいことを口にするタイプなのですが、子どもの頃にサッカーを一緒にしていた幼なじみの男の子に「城宝に合いそうな人がいるから、紹介してやるよ」と言われて出会った人が、後のテーブルクロスの技術者でした。去年6月初めに知り合い、すごく意気投合して、その勢いで(笑)6月末に会社を登記しました。

そこに迷いはありませんでした。私は元々「やってから判断する」タイプなんです。譬えるなら、バンジージャンプをする前に「怖い」とか「怖くない」と考えるのではなく、思い切って飛んでみてから考えます(笑)ベンチャー企業の99%は10年後に消えているという話を聞きましたが、私はビビらずに「実際に会社を立ち上げて、全力で頑張ってから考えよう」と思いました。


■ 最後の砦

でも、起業したことをなかなか報告できない人がいました・・・それは、私が強く影響を受けたおじいちゃんでした。

おじいちゃんは、私に限らず家族が、治安や衛生、情勢が不安定な途上国に行くことに対して賛成ではありませんでした。だから先ほど申し上げた、私がストリートチルドレンに出会ったインドネシアへの家族旅行も、おじいちゃんやおばあちゃんには内緒で行ったくらいです(笑)だから途上国に関わる分野で起業したことを、おじいちゃんに言えないままになっていました。

昨年6月末に起業し、資金調達をし、メディアにも出るようになり・・・「これ以上は隠せないな」と思った今年2月、神戸に住むおじいちゃんに思い切って報告しに行きました。

途上国の子どもたちの写真を見て「どこで撮ったの?すごいねー」と言いながら、おじいちゃんは私の考えたビジネスモデルを聞いて「そこに着目したんだ!」と感動していました。神戸を離れる時には、おじいちゃんの使っているiPhone6にしっかりとテーブルクロスをダウンロードしてもらいました(笑)


■ 広告モデルを変える

テーブルクロスへの掲載店舗数の目標はあります。今年末までに1万店舗です。そして最終的に達成させたい目標は①掲載店舗数:70万店舗 ②ユーザー数:120万人 (日本全人口の1%に相当)です。

ここに到達するまでに、3年かかるか5年かかるか・・・それは分かりません。しかもこれらの数字は、損益分岐点から算出したものではありません。栄養失調により5歳未満で亡くなってしまう途上国の子どもたちを救うためには、それくらいまでにテーブルクロスが普及している必要があるんです。

元々、全国の飲食店にも参加していただけるアプリを考えていました。だから予約1人あたりの広告費を180円という低い金額に設定しました。それは私が某グルメサイトの営業をしていた時に、お店側が支払う広告費の高さを感じたからです。多くの場合、来店客数に関係なく毎月数万円をサイト側に支払います。一方でテーブルクロスは、たとえお客さんが100人来たとしても、お店側は18,000円の広告費負担で済みます。

私は、飲食店の広告モデルを変えたいです。寡占市場になっているグルメサイト業界に風穴を開けたい。例えばスマートホン使用料は日本では平均で月1万円くらいだと思いますが、それは他に選択肢が無いからではないでしょうか。でも一方で、海外ではアメリカでさえも月4000円にまで下がります。これと同じことが、飲食店広告の世界でも起きているような気がします。

お店側がこれまで当たり前だと思って、月数万円の広告費を負担してきました。でもテーブルクロスという選択肢があるということを知っていただければ、広告費を大幅に引き下げることができる - それを実現させたいと思っています。


■ 予約→支援を"文化"に

私は"利益の創造と社会への貢献が同時にできる文化"をつくりたいです。もしテーブルクロスのビジネスモデルが成功し、同じことを行う企業が続々と出てくれば、それが実現するかもしれません。例えば飲食店に予約することで、途上国の子どもたちだけでなく、障害者や高齢者の方々に支援が届く。そういう仕組みがたくさん生まれることが、私にとっては理想の世界です。

また飲食店に限らず、ホテルやヘアサロン、ネイルサロンなど、予約が必要なものには全て"予約して社会貢献"の仕組みを当てはめることができると思うので、それも考えています。

予約することが寄付につながる - これを私は日本の"文化"にしていきたいと思っています。


【関連リンク】

テーブルクロス:http://tablecross.com/

世界食料デーフェスティバル公式HP(10月18日開催):http://worldfoodfestival.jpn.org/2015/

飽食ニッポンの「食料廃棄」を1万人規模で考える -- 世界食料デー実行委員会(ハフィントンポスト):こちらをご覧ください。

(2015年5月28日「My Eyes Tokyo」に掲載された記事を転載)

注目記事