暗い気分で下す決断は百パーセント間違っている--「決断力」を育てる「ひとりぼっち」の時間

勝負どころで大切な判断を誤らない人というのは...
伊藤美樹

人生には、長年なじんできた群れから離れ、旅立たなければならないときがあります。転職や起業はもちろんのこと、人によっては、家族や生まれ育った国から離れる決断をすることだってあるでしょう。

私は三十代の終わりごろ、十数年勤めた病院を辞めてクリニックを開きました。不安になった時期もありましたが、実際に病院組織という大きな「群れ」から離れてみると、辞める前の心配事の多くは杞憂だったと感じました。

もちろん、何の苦労もなかったわけではありません。しかし、ひとたび群れを離れてから自分の身に起きたことは、良いことも悪いことも、群れを離れる前の自分には、想像することすら難しいことばかりだったのです。

ですから、もし皆さんが、はっきりとした理由があって「群れから離れる決断」をされるのであれば、私は心から、それを応援したいと思います。

伊藤美樹

ただし、その時、一つだけ、忘れないでいただきたいことがあります。

それは、人生を大きく左右するような決断をするときには、自分の心が暗く澱んでいないかということを、しっかりと確かめておくということです。なぜなら、暗い気持ちで下した決断は、百パーセント間違っているからです。追い詰められた精神状態のときには、大胆な決断は避けなければいけません。

極度の緊張や、疲れ果てた精神状態の時には、判断力が鈍ります。財布を落としたり、約束をすっぽかしたりといった、普段だったら絶対しないようなミスをするのは、だいたい忙しかったり、プレッシャーのかかる仕事や人間関係によって追い詰められている時なのです。

このことについては、多くの方が同意されるでしょう。しかしながら、実はここには、ちょっとしたジレンマがあります。それは、大きな決断を迫られているときほど、私たちは平常心ではない、という現実です。

どんな非常事態にあっても、冷静で、落ち着いて、明るく、さわやかな心境を保てる肝の据わった人というのは、そうはおられません。

実際、転職や独立、結婚や離婚など、大きな決断に迫られたときほど、私たちの心はざわつき、澱み、疑い深く、不安定な状態にあるのが普通です。それは決して、平常心とは言えないはずです。

無理解な上司や、諍いの絶えない家族への怒り、あるいは、これから自分が歩もうとしている道への不安。人生の岐路に立っている人の心の中には、さまざまな感情が渦巻いているはずです。

では、どうすればいいのか。実は、このジレンマを解く答えは、単純明快なものです。それは、一時的に群れの人間関係から距離を取り、心を落ち着けてから判断する、というものです。

人生を変えるような大きな決断をする前には、必ず群れから離れて、「ソロタイム=ひとりぼっちの時間」を過ごすこと。群れの価値観や常識からいったん手を放し、心を落ちつけ、明るく、さわやかな自分を取り戻す。それから決断をすれば、大きく判断を誤ることはなくなります。

大切な選択ほど、落ち着いて、平常心で選ぶ。これは言葉にしてしまうと、拍子抜けしてしまうぐらい、当たり前のことです。しかしながら、だからこそ、心に留めておくべき指針なのです。

私の臨床経験から申し上げて、人生の岐路に立たされたとき、こういう手続きを丁寧に、きちんとやってから決断している人というのは、まず十人中一人もおられません。私の知る限り、多くの人は、ほとんど正気を失ったような、異様な精神状態のなかで大きな決断をしている。残念ながら、それが現実です。

伊藤美樹

群れから離れるソロタイムというのは、捉え方によっては単なる「気分転換」にすぎません。しかし、気分転換を馬鹿にしてはいけません。

ほんの少しの時間でも結構ですので、群れの人間関係から距離を置き、落ち着いた心で冷静に物事を捉え直し、判断をしましょう。実はこれこそが、大事な決断を誤らない鉄則なのです。

勝負どころで大切な判断を誤らない人というのは、意識的か無意識的かは別にして、必ずこれを実践しているのです。

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夜間飛行

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この記事は「名越康文メールマガジン『生きるための対話』から転載しました。

ハフポスト日本版は、自立した個人の生きかたを特集する企画『#だからひとりが好き』を始めました。

学校や職場などでみんなと一緒でなければいけないという同調圧力に悩んだり、過度にみんなとつながろうとして疲弊したり...。繋がることが奨励され、ひとりで過ごす人は「ぼっち」「非リア」などという言葉とともに、否定的なイメージで語られる風潮もあります。

企画ではみんなと過ごすことと同様に、ひとりで過ごす大切さ(と楽しさ)を伝えていきます。

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