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対ASEAN戦略の見直しを迫られる日米

2016年02月18日 01時54分 JST | 更新 2016年02月19日 02時06分 JST
MANDEL NGAN via Getty Images
TOPSHOT - US President Barack Obama and leaders take part in a group photo during a meeting of the Association of Southeast Asian Nations (ASEAN) at the Sunnylands estate on February 16, 2016 in Rancho Mirage, California. From left: ASEAN Secretary General Le Luong Minh, Brunei's Sultan Hassanal Bolkiah, Cambodia's Prime Minister Hun Sen, Indonesia's President Joko Widodo, Malaysia's Prime Minister Najib Razak, Laos' President Choummaly Sayasone, Obama, Philippine's President Benigno Aquino, Singapore's Prime Minister Lee Hsien Loong, Thailand's Prime Minister Prayut Chan-O-Cha, Vietnam's Prime Minister Nguyen Tan Dung, and Myanmar's Vice President Nyan Tun. / AFP / MANDEL NGAN (Photo credit should read MANDEL NGAN/AFP/Getty Images)

米国のオバマ大統領は、カリフォルニア州サニーランズに東南アジア諸国連合(ASEAN)10か国の首脳を招いて会談した。ASEANが主宰する東アジアサミットなどの関連で、米国大統領がASEANの首脳と会議を持つことはあったが、米国がホストとなるのは初めてだ。オバマ政権の掲げてきたアジア回帰政策(リバランス)を締めくくる会議ともいえる。

2001年の同時多発テロ後、米ブッシュ政権はイラクやアフガニスタンとの戦争に明け暮れ、アジアにほとんど関心を示さなかったが、7年前に発足したオバマ政権はリバランス、ピボットとアジア重視の発言を繰り返してきた。しかし言葉が踊ったほどには、米国がアジアに力を入れてきた実感はない。中国の台頭と裏腹に、東南アジアでの米国の存在感は安全保障、経済の両面で低下の一途をたどってきた。

米政府はミャンマーの民主化をオバマ外交の成果とみなしたいようだが、米国が決定的な役割を果たしたとはとてもいえない。米国が止めようとしたタイのクーデターは結局、防げなかった。一方、アジアにおける中国の覇権主義は勢いを増すばかりだ。

その端的な例が南シナ海である。中国が大胆に進める岩礁の埋め立てに対して、米国は昨年後半来、「航行の自由作戦」と名付けた示威活動を行ったが、国防省の進言に対して、米中首脳会談(昨年9月)を控えたホワイトハウスの反応は鈍かった。結局、イージス艦を海域に派遣したのは、首脳会談で習近平国家主席が、南シナ海の領有権問題では譲歩しないという「ゼロ回答」を示した後だった。どうみても時期は遅く、船舶の航行もこれまでに2回に過ぎない。

今回の米ASEAN首脳会談は、南シナ海情勢を念頭に、非軍事化や航行の自由の原則を盛り込んだ「サニーランズ宣言」を採択したが、中国を名指しせず、南シナ海という固有名詞を入れることもできなかった。一部の参加国の抵抗があったためだ。

会議の直後、南シナ海のパラセル(西沙)諸島に中国が地対空ミサイルを配備したとのニュースが流れた。「航行の自由作戦」への意趣返しとも、会議への当てつけとも受け取れる。

中国の圧倒的な軍事プレゼンスを前に、米国との間で一昨年、新たな基地協定結んだフィリピンを含めて、「米国は本当に中国に対抗する気があるのか」「守ってくれるのか」という疑心暗鬼がアジア各国で膨らんでいる。一回の会議でそれを払拭することは難しい。米国は実際、中国との衝突や決定的な対立は望んでいない、そこを見透かされているのだ。

経済面では、オバマ大統領は、環太平洋経済連携協定(TPP)に参加していないASEANの6か国に交渉開始を呼びかけた。中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)に対抗する狙いがあるが、TPPの未参加国には貿易自由化のハードルが高い。インフラ需要にこたえるAIIBにより魅力を感じても不思議はない。ASEANの貿易総額に占める米国に比率は21世紀に入って半減する一方、中国は首位に立っている。

日本のプレゼンスも相対的に低下している。東南アジアを訪ねて感じるのは、日本に替わって中国、韓国の存在感が増していることだ。それは例えば中国の援助による政府の施設だったり、韓国の巨大な商業ビルだったりする。ASEANの首都を歩いて日本の影響力が一番と感じるのはいまやバンコクぐらいだ。

安倍晋三首相は2013年1月、第二次政権発足後初の外遊に東南アジアを選び、対ASEAN外交五原則を発表した。自由,民主主義,基本的人権,法の支配など普遍的価値の実現をうたったが、この原則が地域で浸透した形跡はない。1977年に時の福田赴夫首相が「ASEANとの対等なパートナーシップ」を表明した福田ドクトリンが今も語り継がれているのに比べ、各地の当局者やジャーナリストから安倍五原則が語られた記憶はない。

価値観外交といいながら、選挙で選ばれた政権を放逐したタイ軍事政権のプラユット首相を他の先進国に先がげて日本に招き、会談を重ねる。ベトナムやラオス、カンボジアといった権威主義的政府の首脳と民主主義や基本的人権について語り合ったこともない。中国に対抗するため持ち出した「価値観」なのだろうが、これでは五原則が話題になるはずもない。

タイの民主化について、日タイ首脳会談の主要テーマとしない理由について日本政府関係者に聞くと、決まって「耳に痛いことを言いすぎると、相手を中国側へ押しやる」という答えが返ってくる。

プラユット首相らタイの高官は明らかにそこを見越して、日中を天秤にかけている。軍事政権であっても外交上手の伝統は生きている。民主化を問題にしない中国に接近して、鉄道建設などの実利を取り付ける一方、日本にも秋波を送り、人権問題に関心の高い欧米の露払いとして利用する・・・。

カンボジアのフン・セン首相はかつて日本で目の手術を受けたこともあり、日本びいきだったが、いまやASEANの会議のたびに中国に露骨に肩入れしている。インドネシアは、スハルト体制が確立するきっかけとなった9・30事件を以来、中国共産党への警戒心が強かったが、文民のジョコウイドド氏が大統領となり、中国アレルギーが薄れたことは先の新幹線受注で中国が日本に競り勝ったことを見ても明らかだ。

今回の米ASEAN首脳会議を花道に、2人の首脳が国際舞台を去る。6月に退任するフィリピンのアキノ大統領と、5月の総選挙後の引退が決まっているベトナムのグエン・タン・ズン首相だ。

2人に共通するのは、対中強硬派とみられてきたことだ。アキノ大統領は中国の牽制を押し切って、南シナ海問題を国連海洋法条約に基づき国際仲裁裁判所に提訴した。ズン首相は中国がパラセル諸島で2014年に石油探査を実施した際、「主権では一歩たりとも譲歩しない」と強硬な姿勢を示した。

ついでにいえば、今回唯一欠席したミャンマーのテインセイン大統領も、軍事政権時代に極端だった同国の中国傾斜を軌道修正、中国企業が受注したイラワディ川流域のミッソンダムの建設を中断したほか、日米欧との関係強化に力を入れた。

フィリピンは大統領選の最中だ。主要候補のうち、対中関係でアキノ路線の継承をうたっているのは、後継指名されたロハス内務自治長官だけだ。有力候補のビナイ副大統領をはじめ、他の候補は対中融和または対話を唱えている。世論調査でのロハス候補の支持率は低迷しており、当選はおぼつかない情勢だ。つまりフィリピンの次期政権はアキノ時代の強硬路線を修正する可能性が高い。

ベトナム共産党の内部抗争は外からうかがうすべがない。しかし、国家ナンバー1ポストの書記長就任が有力視されていたズン首相は先の党大会で失脚し、「保守派」「親中派」とされるグエン・フー・チョン書記長の続投が決まった。中国との歴史的友好関係に配慮したともささやかれている。

ミャンマーの総選挙で勝利した国民民主連盟(NLD)のアウンサンスーチー党首は、軍政に肩入れしてきた中国に良い感情を持っていないとされてきたが、昨年6月に訪中、習近平主席が野党党首との異例の会談に臨んだ。

安倍首相は退場する3人の指導者と良好な関係にあり、彼らとの関係が日本のアジア外交の礎になっていたようにみえる。東南アジアにおける対中戦略に関する限り、日米ともに戦略の見直しを迫られている。