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それでもとまらぬドゥテルテの暴言 世界は今後も目が離せない

2016年09月07日 18時38分 JST | 更新 2016年09月07日 19時21分 JST
ASSOCIATED PRESS
Southeast Asian leaders link arms at the opening of the 28th and 29th ASEAN Summits and other related summits in the National Convention Center Tuesday, Sept. 6, 2016 in Vientiane, Laos. From left to right; Malaysia's Prime Minister Najib Razak, Myanmar's Foreign Minister Aung San Suu Kyi, Singapore's Prime Minister Lee Hsien Loong, Thailand's Prime Minister Prayuth Chan-ocha, Vietnam's President Tran Dai Quang, Laos' President Bounnhang Vorachith, Laos' Prime Minister Thongloun Sisoulith, Philippines' President Rodrigo Duterte, Brunei's Sultan Hassanal Bolkiah, Cambodia's Prime Minister Hun Sen and Indonesia's President Joko Widodo. (AP Photo/Bullit Marquez)

東南アジア諸国連合(A.S.E.A.N)の会議で恒例なのは、参加国の代表が横に並び、交差させた手をつなぐ写真撮影だ。ラオスの首都ビエンチャンで開かれた今年の首脳会議初日、加盟10か国のなかで、同年齢の新顔2人だけがスーツを着ずに民族衣装で登壇し、耳目を引いた。(注)

フィリピン大統領ロドリゴ・ドゥテルテとミャンマー外相アウンサンスーチー。ともに71歳の2人は他の首脳を圧する存在感を示したが、主役の座を張ったのはドゥテルテの方である。

南シナ海における中国の岩礁埋め立てを「国際法違反」とした仲裁裁判後初めて関係国すべてが集まる場に乗り込む当事者としてそもそも注目されていた。それにも増してニュースのネタとなったのは、直前の記者会見で、米大統領オバマに暴言を吐き、予定されていた個別会談をキャンセルされたことだ。ビエンチャン入り後、「後悔している」と詫びたが、以前から指摘されていた暴言(失言)癖がフィリピンの外交にとどまらず地域安全保障にも影響するおそれが現実となった形だ。

古希を超えた人間が性癖を改めるのは難しい。今後6年間、関係国は異色の大統領の言動に振り回されることがあるだろう。「またか」とやり過ごすことができない事情もある。

就任して2か月余り。大統領は公約通り「麻薬との戦争」に心血を注いでいる。その過程で2000人を超えるともいわれる麻薬所持者らが警察の銃撃などで死んだ。多くは司法手続きを経ない「超法規的殺人」だとして国際機関や人権団体が問題視している。

米国政府もその列に加わり、米比首脳会談では、オバマも問題を取り上げるとされていた。これについて記者が聞いたところ、大統領は「フィリピンは主権国家だ。植民地ではない。敬意を払うべきだ。何様のつもりだ。Putang ina。フォーラムでののしってやる」とまくし立てた。

Putang Ina というタガログ語は日本語で言えば、まあ「クソッタレ」といった表現だ。(これにmoという言葉がつくと「売春婦の息子、son of a bitch」となるが、公式発言録でmoはない)

ドゥテルテは自らを「社会主義者」と規定し、左翼思想の影響を受けていることを隠さない。米国の植民地から独立後も長く米軍基地があったフィリピンでは、1950~70年代に学生生活を送った知識人のなかに反米的な価値観を持ち続けている人も少なくない。ドゥテルテもその系譜に連なるのかもしれない。

だがそれ以上に、聴衆(記者も含めて)がいると、つい高揚して発言が過激になる傾向が見受けられる。口が滑るのだ。少人数や一対一で対面した人らにドゥテルテの印象を聞くと、一様に「物静か、むしろ寡黙」という答えが返ってくる。

私は大統領選挙期間中に演説を何度か聞いた。英語、タガログ語、ビサヤ語(出身地の母語)を交えてぼそぼそとしゃべる。本人はほとんど笑わないのだが、3分に1度ぐらいは聴衆を爆笑の渦に引き込む。ガングロのビートたけしといった風情だ。この話術が彼を大統領の座に押し上げた一因であることは間違いない。

聴衆受けするトークの一部は政敵らへの攻(口)撃だ。とっさに口をつき、カッとすれば、それが容赦なく続く。政治的な計算はあまりないようにみえる。

オバマだけではない。米国大使は「このオカマ野郎」、訪比したローマ法王には「もう来るな」。国連は「脱退してやる」。超法規的殺人を問題視する女性上院議員(元法務大臣)に対しては、運転手との不倫関係を暴露のうえ、麻薬取引に関与していると執拗に攻め立てる。

暴言後の対応は様々だ。冷静になれば過ちを認めることもあり、ローマ法王には懺悔した。国連脱退も取り消した。だが大きな力が背景になければ、謝罪の言葉もない。

問題を引き起こしても言動を改める様子がないのは、国民の高い支持があるからだ。最近の調査では、歴代大統領で最高の91%を記録している。暴言を聞いても国民の多くは「大統領はそういう人だから」と納得し、例えば米国に「ガツンと言わせた」と留飲を下げる向きもいる。

はびこる汚職や麻薬、絶望的な渋滞といった山積する国内の問題を解決してくれるのは、こうした剛腕強面の政治家でないと無理だと多くの国民は期待を寄せている。

フィリピン国民はそれでよいとして、国際社会はどうするか。

「また言ってら」と無視できればそれでよし。ところがドゥテルテと会談できなくて困るのは実はオバマの方だとの見方もできる。安倍首相も「あなたは日本でも有名だ。お会いできてうれしい」と社交辞令で対応している。

膨張する中国のまえに米国のリバランス政策や日本の南シナ海関与は、フィリピンとの連携なしでは成り立たないからだ。中国との二国間協議に前向きなドゥテルテが、北京に取り込まれたら、日米ともアジアの安全保障政策は抜本的な見直しが迫られる。

東南アジアの地図をみれば、フィリピンは扇のかなめの位置にある。少子高齢化が進むアジア、減速する世界経済の中で、1億人を超す人口、7%近い経済成長を保つ国の魅力は増す。

ドゥテルテから目を離すわけにはいかないのだ。

(文中敬称略)

注 2日目、ドゥテルテはスーツ姿で周囲を驚かせた。フィリピン人記者らも「初めてスーツ姿を見た!」